「発破~!」
どっか~ん
大量の水がドバドバ!
「退避~!」
トンネル工事ってこんなイメージがありますし、南アルプスではまさしく川のように噴き出すかもしれません。
で、気になるのですが、トンネル内に吹き出した水って、法律上は誰のモノになるんだろう?
それから川の水を減らすのって、法的に問題ないのかな?
ここしばらく、トンネル湧水についての法律上の取り扱いを調べておりました。結論から言うと、さっぱり分からんのですが、統一した見解というか、法的にきちんと整理されていないのが現状らしいのであります。
大井川における流量予測 環境影響評価書より引用
位置については後述の資料を参照
え~、上記の表のように、河川流量が最大2㎥/s減少すると予測されているのであります。ちなみに河川を管理するための法律「河川法」では、農業用水として1㎥/s以上取水するとき、水道・鉱工業用水なら1日2500㎥/s(=0.029㎥/s)、発電用水なら量に関わらず特定水利とされ、その許可については細かい規定があります。
2㎥/s減少とは、数字の上では特定水利の条件を満たしていますから、法的に見ても無視しえないというわけです。
さて平成26年のことですが、参議院にて、「トンネル建設による河川流量減少は河川法に抵触しないのか?」といった質疑がありました。議事録から該当部分を抜き出します。
赤線の部分が重要になると思われますが、これらについて、いくつか解説書や専門家の見解を紹介したいと思います。
法律等については青線で、本からの引用については赤色で示します。
まずは河川法第二条
第1項
河川は、公共用物であつて、その保全、利用その他の管理は、前条の目的が達成されるように適正に行なわれなければならない。
第1項
河川は、公共用物であつて、その保全、利用その他の管理は、前条の目的が達成されるように適正に行なわれなければならない。
第2項
河川の流水は、私権の目的となることができない。
河川の流水は、私権の目的となることができない。
(解説)
許可の対象となる「河川の流水」の範囲は、河川法上の河川を構成する水である。基本的に流水をいうが、これと一体をなしている水、すなわち表流水と一体となった伏流水も、その占用によって河川の流況に影響を及ぼすものであるから、河川の流水として管理の対象となる、従って、地下水であっても、明らかに伏流水と認められる水以外は河川の流水として考えるべきであろう。
…流水の占用とは、ある特定目的のために、その目的を達成するのに必要な限度において、公共用物たる河川の流水を排他的・継続的に使用することと定義される。(東京都三田用水観光水利権等確認請求事件判決:東京地裁昭和36年10月24日、最高裁昭和44年12月18日)
流水占用の許可は、公水たる河川の流水を許可された範囲内で私的に使用する権利(流水に対する一面的な権利)を付与するものであって、流水を所有する権利(流水に対する全面的な支配権)を付与するものであないことに留意する必要がある。
【河川法研究会編(2006) 「逐条解説 河川法解説」】
河川法第二十四条(土地の占用の許可)
河川区域内の土地を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
河川区域内の土地を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
第2の3項
この準則において「占用施設」とは、占用の目的である施設をいう。
第7の1項
占用施設は次の各号に規定する施設とする
二 次のイからホまでに掲げる施設その他の公共性又は公益性のある事業又は活動のために河川敷地を利用する施設
イ 道路または鉄道の橋梁又はトンネル
第8
工作物の設置、樹木の栽植等を伴う河川敷地の占用は、治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない。この場合、占用の許可は、法第26条第1項又は第27条第1項の許可と併せて行うものとする。
第10
河川敷地の占用は、河川整備計画その他の河川の整備、保全又は利用に係る計画が定められている場合にあっては、当該計画に沿ったものでなければならない。
この準則において「占用施設」とは、占用の目的である施設をいう。
第7の1項
占用施設は次の各号に規定する施設とする
二 次のイからホまでに掲げる施設その他の公共性又は公益性のある事業又は活動のために河川敷地を利用する施設
イ 道路または鉄道の橋梁又はトンネル
第8
工作物の設置、樹木の栽植等を伴う河川敷地の占用は、治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない。この場合、占用の許可は、法第26条第1項又は第27条第1項の許可と併せて行うものとする。
第10
河川敷地の占用は、河川整備計画その他の河川の整備、保全又は利用に係る計画が定められている場合にあっては、当該計画に沿ったものでなければならない。
第11の1項
河川敷地の占用は、河川およびその周辺の土地利用の状況、景観その他自然的及び社会的環境を損なわず、かつ、それらと調和したものでなければならない。
河川敷地の占用は、河川およびその周辺の土地利用の状況、景観その他自然的及び社会的環境を損なわず、かつ、それらと調和したものでなければならない。
(ブログ作者の考え)
まずトンネル湧水は果たして大井川の水と言えるのか、という疑問がありましたが、これについては、「地下水であっても、明らかに伏流水と認められる水以外は河川の流水として考えるべき」という解釈に基づき、大井川の水とみなしてよいと思います。そもそもJR東海は、大井川の流量減少が出た試算結果について、「トンネル周辺の水がトンネル内に湧出。その隙間を埋めるように河川水が浸透するとみられる。」という見解を示し、河川流量が減少した場合を想定して環境アセスメントを行っています。
そして河川敷地占用許可準則を文字通りに解釈してみます。すると流量減少の予測されている大井川は次のような特徴にあります。
(景観その他自然的及び社会的環境)
ヤマトイワナ等の希少水生生物が生息。
ユネスコエコパークに登録。
(河川の整備、保全又は利用に係る計画)
水返せ運動」の結果として発電用ダムから環境維持流量0.49~1.49㎥/sを放流。
静岡市清流保全条例で保全義務がある。
(河川およびその周辺の土地利用の状況)
発電用に水を使用
渓流釣り場
そして「工作物の設置、樹木の栽植等を伴う河川敷地の占用は、治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない。」という一文に照らし合わせても、発電用水に影響が生じる現計画では、当然に許可はできないはず。
ということは、河川敷地占用許可準則に適合してない?
したがって河川法第24条の敷地占用許可も出せないのだから、トンネル工事は許可してはならないのでは?
分からないといえば、川からトンネルに引き込んだ水の法律上の扱いも分かりません。
JR東海は、トンネルに引き込んだ水を、トンネル交差部より12㎞程度下流へ放流するとしています。川に与える影響自体は、堰から取水して発電機を回し、12㎞下流で放流する水力発電所と変わりありません。
発電所は発電目的だから、河川法に基づいて流水の占用の許可を得ていますが、JR東海の場合は、使用するためではないので、許可は不要というのが冒頭の国会答弁。
けれども川および他の利水関係者に与える影響は、水力発電所の場合と変わりないです。むしろ、調整ができないから余計にたちが悪い。
使うわけでもないのに、川の下から河川水を引き込んでよいのでしょうか?
関係ありそうな、なさそうな一文。
…「地下に浸透した水の使用権は、元来その土地所有者に附従して存するのであるから、土地所有者は事故の所有権の行使上、自由にその水を使用することができるのは当然の条理である、土地所有者にその使用権があるとするならば、その地下浸潤の水利を隣地または近傍地の所有者において幾年間利用してきた慣行があったとしても、そのために地役権を生ずるという道理はない。」と判示する(大判M29.3.27民録2.3.111)。
憲法29条の財産権の保障の規定を受けて財産権の基本的な事項について定めている民法206条は「所有者は法令の制限内において自由にその所有物の使用、収益、処分をなす権利を有する」と定め、同207条は「土地の所有権は法令の制限内においてその土地の上下に及ぶ」と定めているのを受けて、ある土地内に入った地下水は所有者が土地の所有権に基づき自由に使用できることを根拠にするものである。
湧水についても「土地より湧出した水がその土地に浸潤してまだ溝渠その他の水流に流出しない間は、土地所有者において自由にこれを使用することができ、その余水を他人に与えなくとも、他人が特約法律の規定または慣習によってこれを使用する権利を有しない限りでは、これに対し何ら異議を述べることはできない、すなわち、この場合における土地所有者の水を使用する権利は絶対に無制限でありる。」(大判T4.6.3民録21.886)と判示する。
このように、地下の使える範囲内に存在する地下水は私水であって、都市所有者が自由に使用できるとするのが凡例であり、法の解釈である。
憲法29条の財産権の保障の規定を受けて財産権の基本的な事項について定めている民法206条は「所有者は法令の制限内において自由にその所有物の使用、収益、処分をなす権利を有する」と定め、同207条は「土地の所有権は法令の制限内においてその土地の上下に及ぶ」と定めているのを受けて、ある土地内に入った地下水は所有者が土地の所有権に基づき自由に使用できることを根拠にするものである。
湧水についても「土地より湧出した水がその土地に浸潤してまだ溝渠その他の水流に流出しない間は、土地所有者において自由にこれを使用することができ、その余水を他人に与えなくとも、他人が特約法律の規定または慣習によってこれを使用する権利を有しない限りでは、これに対し何ら異議を述べることはできない、すなわち、この場合における土地所有者の水を使用する権利は絶対に無制限でありる。」(大判T4.6.3民録21.886)と判示する。
このように、地下の使える範囲内に存在する地下水は私水であって、都市所有者が自由に使用できるとするのが凡例であり、法の解釈である。
【須田 政勝(2006)概説 水法・国土保全法】
井戸や温泉の場合なら、出てきた水や温泉は、その土地の所有者のものになるらしい。けれどもトンネルの場合、湧きだした地点と湧き出す先の土地、双方の所有者は異なるのだから、たぶん、この規定は通用しないでしょう。そもそも河川の地下なら、河川管理者以外は手を付けられないはず。
水循環基本法の基本理念
2 水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水については、その適正な利用が行われるとともに、全ての国民がその恵沢を将来にわたって享受できることが確保されなければならない。
3 水の利用に当たっては、水循環に及ぼす影響が回避され又は最小となり、健全な水循環が維持されるよう配慮されなければならない。
4 水は、水循環の過程において生じた事象がその後の過程においても影響を及ぼすものであることに鑑み、流域に係る水循環について、流域として総合的かつ一体的に管理されなければならない。
以下略
水循環基本法3条2項で定める水の高い公共性は、限りある水資源をいかに管理し配分するかの問題意識を踏まえて導出されている。地方公共団体が地下水を管理しえない段階では、土地所有者の効力がそれに及ぶと解したうえで、同法3条3項を民法207条にいう「法令の制限」ととらえ、健全な水循環が維持できないような地下水の利用は認められないとの準則を見出せる。ローカルな水資源である地下水は、その法的性質を一律に規定のものとして扱うのではなく、地域に適した管理システムの構築過程において当該地域の問題として検討されるべきである。かかる解釈が地域特性に応じた施策の策定・実施を求める基本法5条の種子にも合致するのである。
【宮 淳(2015) 『地水循環基本法における地下水管理の法理論 ―地下水の法的性質をめぐって―』 地下水学会誌 第57巻第1号 63-72 (同論文の要旨)】
この件についてさらに追及するためには、温泉法や鉱山保安法についても調べねばならなさそうですが、これ以上は頭が回りません。論文の引用だけで中途半端ですが悪しからず。
それから、トンネル湧水は「12㎞下流で川に放流」というのがJR東海の計画であり、そのためのトンネルを導水路と称していますが、これは法律上どのような扱いとなるのでしょうか?
導水路案。JR東海ホームページより引用。発電施設の位置を記入。
「トンネルに湧き出した水」は、事業者視点では不要なものですから、それを河川に排除するわけです。つまり事業者にとっては不要物=汚水を川に捨てることになる。扱い・したがって以下のような各法令が関係してくるのでは…?
下水道法
第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 下水 生活若しくは事業(耕作の事業を除く。)に起因し、若しくは付随する廃水(以下「汚水」という。)又は雨水をいう。
二 下水道 下水を排除するために設けられる排水管、排水渠その他の排水施設(かんがい排水施設を除く。)、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設(屎尿浄化槽を除く。)又はこれらの施設を補完するために設けられるポンプ施設、貯留施設その他の施設の総体をいう。
(解説)
雨水には湧水、雪解け水を含む。
【逐条解説 下水道法より】
扇状地や旧河川敷の造成地などでよく見られますが、湧き水がドボドボ沸いていて、それを排水しないと水浸しになるような地域があります。そうした地域では、湧水を積極的に排水するために溝やパイプを埋設したりしています(静岡市内だったら駿河区の中島、西島地区、葵区の西奈地区などが該当します。)。リニアの導水路もそのような位置づけになるのでしょう。
これを大量に河川に捨てるのなら、河川法の許可が必要となります。
河川法施行令
第十六条の五 河川に一日につき五十立方メートル(河川の流量、利用状況等により河川管理者がこれと異なる量を指定したときは、当該量)以上の汚水(生活又は事業(耕作又は養魚の事業を除く。)に起因し、又は附随する廃水をいう。以下同じ。)を排出しようとする者は、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、次の各号に掲げる事項を河川管理者に届け出なければならない。ただし、当該事業、汚水を排出する施設の設置等又は汚水の排出について、別表上欄に掲げる認可等の処分を受け、又は同欄に掲げる届出をしているときは、この限りでない。
一 氏名又は名称及び住所
二 汚水を排出しようとする河川の種類及び名称
三 汚水を排出しようとする場所
四 汚水の排出の方法及び期間
五 排出しようとする汚水の量
六 排出しようとする汚水の水質
七 排出しようとする汚水の処理の方法
けれども、汚水の量とか期間とか水質なんて、トンネル工事の場合は「掘ってみなけりゃ分からない」のだから、あらかじめ申請しようがないはず。
どうするんだろう?
ちなみに水質汚濁防止法も調べましたが、これは事業所からの排水が対象であるため、工事現場からの排水やトンネル湧水は関係ないらしい。
ナゾだらけなのであります。
事業主体が行政機関の場合、河川管理者との協議のみで工事可能になるようですが(そうしなければダム工事なんて不可能)、”民間事業”のリニア建設では、それも不可能。
これも法律上の落とし穴なんじゃないのかな?
冒頭の国会答弁にあるように「一級河川の流量を、利水目的でもなく2㎥/s減少させる」「トンネル湧水を大量に河川に捨てる」行為は、おそらくどの法律も想定していないのだと思うのであります。
リニアの整備より先に、法律の整備が先決なのでは?