静岡市の行った平成27年度南アルプス環境調査の結果が公表されました。
調査の目的としては、「静岡市では、南アルプスユネスコエコパーク地域内で計画されている中央新幹線建設事業の工事実施にあたり、現在の自然環境の状況等を調査しました。」とされています。
これにより、これまで南アルプスでの分布が確認されていなかった昆虫が新たに見つかるなどしています。
ところで、こうなってくると「JR東海の調査は何だったのか?」という疑問が湧いてきますし、これをもって「JR東海の調査は杜撰」と言いたくもなります。実際、リニア計画に疑問をもつ方の間では、これをもって批判材料とする向きも多いようです。
けれども、ここはちょっと冷静になる必要があります。別にJR東海(に委託されたコンサルタント業者の下請け)を擁護する気は全くございません。
まず、今般の調査で新たな種が確認されたからといって、一概にJR東海の調査の精度を否定できるものでもありません。例えば「重要な植物」に限っても、JR東海調査での確認種は27種、平成26年度静岡市調査では17種、昨年度静岡市調査では23種ですので、この数字によれば、JR東海の調査が一番丁寧ということになります。
ここで強調したいのは、完璧さを求めることは、もとより無理であるということです
例えば、動植物というものは、毎年必ず同じ場所に同程度の数が出現するとは限りません。腐生植物やキノコなどの場合、その年の気象条件によって発生数が大幅に変動します。
昆虫の場合も、気温によって成長速度が変わるものが多いので、その年の気候条件によっては、調査日に成虫が発生していないことも考えられます。幼虫時代を地中や樹木内部で暮らすものや、背の高い木の梢で過ごすものは、成虫にならないと存在を確認することが困難でしょう。同じことは、特的の時期でなければ種の判定の難しいイネ科やカヤツリグサ科の植物にもいえます。
また、昆虫の出現数については、風や雨や日照など、調査日の天候によっても左右されます。
つまり、調査に完璧さを求めることは、もともと無理難題といえます。
それゆえ、既存の調査結果により、分布している可能性の高いと判断される動植物については、具体的な環境保全措置を考案すべきでしょう。南アルプスではこれまで何度となく調査がおこなわれ、結果が蓄積されてきたわけですが、何のためかというと、こういう開発行為に際して保全に役立てるためのはずです。
そこで、どのような種を選定するかを考えるために、既存調査を活用し、現地調査を併用して準備書で案を出し、審議や意見提出を受け、評価書で保全措置を示す…という手続きが定められているのだと、私は解釈しています。
ところがJR東海作成の環境影響評価書では、事業者がとるべきこのような態度を、事実上否定しています。すなわち、現地調査で確認された種にのみ、具体的な環境保全措置を講ずるというものです。
ところがこのような考え方だと、現地で実際に見つからなかった生物については、具体的な保全措置をとらないことになってしまいます。それゆえ、工事を始めた結果、いつの間にか姿を消してしまった…なんてことがあるかもしれない。
それから市の調査では、景観への影響をJR東海とは異なる手法で予測しなおしています。
JR東海の調査では、「主要な眺望点」つまり展望台などから、対象となる改変予定地が見えるかどうか、という論法です(静岡県版の場合。他県は異なる。)。つまり「点」に限ったものなので、他に見える可能性のある場所があるかどうかは検討もつかない。
これに対し静岡市の調査は、該当改変予定地が視認できる可能性のある範囲をコンピュータ上のシミュレーションによって抽出し、その場所から主要な点に着目して視認性を検討するというもの(カシミール3Dを応用したようなもの)。
後者の場合、予測が2段階となっているぶん情報量が多く、JR東海の手法よりも優れていると思います。
その他、JR東海がサボっていた植生調査も行われました。
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JR東海の調査不足を、市が補完せざるをえない不思議な状況。
JR東海には、きちんとした環境影響評価書を作り直してほしいのであります。
(環境影響評価法第32条では、事業者は環境影響評価手続きをやり直すことができるとしている。あくまで事業者の善意によるのだけど。)