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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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論理破綻じゃないの? 南海トラフ大地震と名古屋以西ルートからみるリニア整備計画

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リニア計画にGOサインが出たのは2011(平成23)年の5月。この月は中旬にあわただしく次のようなことが決定されました。

・国土交通大臣がJR東海を中央新幹線(東京-名古屋間)の営業・建設主体に指名(20日)。
・中央新幹線を基本計画から整備計画に格上げ(26日)。
・JR東海に建設を指示(27日)。
一連の手続きは全国新幹線鉄道整備法に基づいており、その根拠は鉄道部会中央新幹線小委員会の提出した答申(12日)によります。

さてその答申では、中央新幹線整備の意義として、第一に「東海地震沿線における大災害に備えて二重系統化」をあげており、こうした観点から整備計画とするのがふさわしいと判断したことになっています。
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国土交通省 中央新幹線小委員会 答申 

それから2年余り経った平成26年6月3日には、国土強靭化基本計画が閣議決定されました。環境影響評価手続きの途中にもかかわらず、事業認可を前提にしており、妙な話でありました。

これは、国土強靭化法(正式名称:強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減殺等に資する国土強靭化基本法)に基づき、大規模インフラ整備をはじめとして大災害に備えよというものですが、想定している災害として、第一に南海トラフの大地震があげられています。そして具体例として、リニア中央新幹線整備による交通の二重系統化を掲げています。該当部分を抜粋します。

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さらに古くなりますが、JR東海自身も、東海地震等に備えることを事業推進の意義としていました(平成22年5月10日第3回小委員会資料:図略)。

つい最近になって経済対策が建設促進の理由として盛り込まれましたが、それは、過去の経緯から考えると、副次的な意義しか持ち合わせていないようにも見えます。

ゆえに、これまでの政府およびJR東海の公式発表をつなぎ合わせると、リニア整備の最大の大義は、「南海トラフ大地震に備えて二重系統化」ということになるのでしょう

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ところで、肝心の地震発生時の想定という観点からは、リニア計画の妥当性についての審議はおこなわれてきたのでしょうか?

言い換えれば、リニア中央新幹線のルートや走行システムは、南海トラフ大地震の際には被害を免れ、東海道新幹線と同時被災するリスクは極力低くなるようなものとなっているのでしょうか?

もちろん、あらゆる資料に目を通したわけではありませんが、調べた限りでは、マトモに検証されているようには思われないのです。

例えば、南アルプスがリスクだらけであるのるのは、このブログで何度も指摘している通りです。

【南アルプスルートにおけるリスク】
●安政東海地震では、鰍沢町一帯での家屋倒壊率は駿河湾沿岸の沼津市等と同等であり、震度7相当であったと推定されている。
●甲府盆地南部一帯は、東海/南海トラフ地震発生時には液状化減少が発生する可能性が高いとされている。
●震源域が狭かった昭和東南海地震でも、南信濃村の水準点は20㎝程度の隆起を起こしたので、駿河湾まで震源域となる東海/南海トラフ地震発生時に、南アルプスがどのような地殻変動が起こるのか分からない。
●南アルプス横断トンネルの坑口・斜坑(非常口)に通じる道路は、地すべりや崩壊地に取り囲まれているため、寸断されるおそれがある。
●南アルプス横断トンネル内に列車が停止した場合、乗客の非難・誘導が困難となる。
●地震発生時の列車の位置によっては、自動停止システムにより列車が”着地”する前に、強い地震動が到来するおそれがある。

走行システム上の疑問点についてはこちらをご覧ください。

安政東海地震の被災状況によれば、南アルプスを通すとなると、現行リニア計画には、このような疑問点が自ずと浮かび上がります。ところが上述の答申を出した中央新幹線小委員会では、過去の東海地震についての審議は一度も行っていない。過去の検証をしていないのに、地震対策を建設の意義とするのは間違っていると思うのであります。

さて、もっと視野を広くとると、さらにおかしな話が浮かび上がってきます。

特に名古屋付近のルートに着目すると、わざわざ現行東海道新幹線と同時被災するリスクを高めているようにすら思えるのです。

政府の中央防災会議が使用している南海トラフ大地震での各種予測を見てみましょう。なお上段は南海トラフの巨大地震、下段は従来の3連動地震の想定震度です。

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中央新幹線の計画路線を記入
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内閣府 防災情報のページ
「南海トラフの巨大地震による津波高・震度分布等(平成24年8月29日)」より複製・加筆
名古屋以西では、現行東海道新幹線よりも震度想定の大きな地域を通過することになる。

図は省略しますが、地震動、液状化、地盤沈下量といった各種想定によると、濃尾平野はいずれも大きな影響が出るとされています。これはひとえに、軟弱・低湿という自然条件に由来します。なおこの条件により実際に大災害につながった事例としては、濃尾地震、伊勢湾台風などがあげられます。

また、愛知県庁のホームページにも、南海トラフの最大級の地震を想定した、より詳細な情報が提供されていますが、それによると、名古屋駅より西側一帯は全域が「液状化の危険性が極めて高い」という想定になっていますし、そのうえ木曽川河口左岸では、津波想定では最悪3m前後の浸水深が予測されています。

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愛知県庁ホームページより複製・加筆 

煩雑になるため掲載は省きますが、三重県庁による被害想定でも、木曽三川の河口から伊勢平野にかけて、同様に液状化や津波による浸水が想定されています。

計画路線としての中央新幹線は、名古屋駅から西では、奈良市を経て、大阪に向かうとされています。このルートでは、必ず木曽三川の河口部を通らなければなりません。東海/南海トラフ地震で「震度6以上+液状化リスク+津波リスク」のある地域を通すことが、なぜ東海/南海トラフ地震対策になるのか、私にはさっぱり理解できません。南アルプスと同様に、同時被災のリスクがあるのでは?

そもそも当然ながら、南海トラフ大地震は、太平洋岸沖合の南海トラフが震源断層となるので、大まかには太平洋に近いほど影響を強く受ける傾向にあります。だったらなぜ、東海/南海トラフ地震対策路線を南海トラフに近づける必要があるのでしょうか? 

もしかすると政府ないしJR東海は、名古屋以西の建設目的としては、東京~名古屋間とは異なるもの、つまり経済効果のみを掲げるのかもしれません。しかしその場合、東側では南海トラフ大地震対策を掲げながら、西側ではそれを考慮せずとすることになりますから、地震時には直通不可能となることを視野に入れて二重系統化させることなります。これでは何のために地震対策を銘打って独立した路線をつくるのかわからなくなり、超電導リニア方式とする根拠を自ら否定することとなるでしょう。

⇒実は、「大阪まで一斉開業させるべし」と主張する交通政策専門家でも、この論理破綻は気にされているようです。
http://rtpl.ce.osaka-sandai.ac.jp/ByRail/?p=295

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

さらに過去を振り返ると、運輸省が全国新幹線鉄道整備法に基づき、東京~甲府~名古屋~奈良~大阪を通る中央新幹線を計画路線として決定したのは1973(昭和48)年の11月。

いっぽうで、駿河湾大地震説(いわゆる東海地震)が世間に広まったのはそれより後の1976(昭和51)年であり、その発生を念頭においた大規模地震対策特別措置法が思考されたのは1978(昭和53)年6月15日のことです。したがって政策としての中央新幹線構想は元来、東海地震を念頭においたものとはいえないのではないでしょうか?

まして東日本大震災を教訓とし、南海トラフにおける巨大地震対策への取り組みが始まったのはここ数年であり、上述の被害想定等が政府から公表されたのは平成24年8月のこと。中央新幹線を大地震対策を主要な根拠として整備計画に格上げしたというのは、いま考えてみても、後付けの理由であったように思えるのです。

国土強靭化基本計画という政策との整合性がアヤシイものを、国として重要な政策の一環と位置付けるのは、論理的に無理があるんじゃないのかなぁと思うのでありました。


こんなことを再考する必要があると感じた理由として、最近降ってわいた「財政投融資」という制度があります。

ところでこの制度、ごく普通の一庶民としては、はじめて聞いた言葉。

いったい何なんだ?と思って調べてみると、財務省のホームページに説明がありました。
といっても、一読しただけではなかなか全容をつかめません(笑)

詳細については勉強中ですが、南アルプスの問題を考え続けている人間としては、このような記述が気になりました。

財政投融資とは、
1 租税負担に拠ることなく、独立採算で
2 財投債(国債)の発行などにより調達した資金を財源として、
3 政策的な必要性があるものの、民間では対応が困難な長期・固定・低利の資金供給や大規模・超長期プロジェクトの実施を可能とするための投融資活動(資金の融資、出資)です。
 
http://www.mof.go.jp/filp/summary/what_is_filp/index.htm

3の「政策的な必要があるもの」というところが、妙に引っかかるのであります。リニア計画とは、「東海/南海トラフ大地震に備えて二重系統化」の論理破綻に見るように、目的と手段の観点から、果たして十分に説明責任を果たしてきたのだろうかと。


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