リニア中央新幹線を、国が積極的に推進しなければならないとする重大な根拠のひとつが「南海トラフ大地震に備えて交通の二重系統化」です。
国土強靭化基本計画のページより複製
ところで南海トラフ地震については、平成14年に成立した「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」に基づき、「南海トラフ地震防災対策推進地域」が設定され、地震対策を強化が進められることになっています。
一方、これとは別に、「(南海トラフの東端である)東海地震については予測できる可能性がある」として成立したのが大規模地震対策特別措置法です。1978年(昭和53年)に成立し、1979年(昭和54年)には地震防災対策強化地域が指定されました。
図1 東海地震を対象とした地震防災対策強化地域
紫の線はリニアのルート
大規模地震対策特別措置法では、警戒宣言が発令された際、関係する自治体や学校、病院、大企業などはそれぞれとるべき対応を定めることとなっています。例えば、東海地震の警戒宣言が発令されると、東海道新幹線が運行停止になったりするわけです。
このほど、大規模地震対策特別措置法の対象範囲を南海トラフ全般に広げるかどうかが検討されることになりました。
現在のところ
●地震予測技術が向上したかというと全く逆であり、むしろ「調べれば調べるほどわからない」
●予測対象は南海トラフ全般に広げる方向で議論が進められる
●今後は”予知を前提”とした対策のあり方を改める
●警戒宣言発令時の規制を緩和
という方向で議論が進められているようです。
(ややこしくてすみません。以下の記事を参考にしてください)
朝日新聞(6/29)http://www.asahi.com/articles/ASJ6X5KG8J6XUTIL04P.html
産経新聞(6/28)
http://www.sankei.com/life/news/160628/lif1606280012-n1.html
産経新聞(6/28)
http://www.sankei.com/life/news/160628/lif1606280012-n1.html
さて、リニア中央新幹線は、東海地震の防災多作強化地域だけでなく、「南海トラフ地震防災対策推進地域」をも貫きます。しかも想定によると、リニア想定ルートのうち濃尾平野一帯は震度6強以上の激しい揺れになると想定されています。また、東海道新幹線も全区間が推進地域に含まれていることにご注意ください。
図2 南海トラフ地震を対象とした防災対策推進地域
内閣府中央防災会議のホームページより引用・加筆
ということは、大規模地震対策特別措置法の対象範囲を南海トラフ全般に広げた後に、南海トラフ地震に対する警戒宣言(前兆現象についての情報などを含む)が発令された場合に備え、JR東海はリニア中央新幹線・東海道新幹線どちらについても運行停止を含む何らかの対応を準備しておく必要がでてくるはずです。
今のところ、東海地震を対象とした現行の地震防災対策強化地域においては、警戒宣言発令時、東海道新幹線は震度6強以上の揺れが想定される名古屋以東は運行停止となります。同じことを中央新幹線および南海トラフ大地震に当てはめると、南海トラフ地震で震度6強以上となりうるエリア(甲府盆地、名古屋~三重県北部)も運行停止にしなければならないはずです。そもそも以前当ブログで指摘したように、名古屋以西ではリニアのほうが南海トラフに近い地域を通りますし、伊勢湾沿岸の津波浸水想定範囲や液状化の危険地域が含まれるため、現行東海道新幹線よりも危ないのかもしれません。
図3 南海トラフ地震の想定震度
内閣府中央防災会議のホームページより引用・加筆
オレンジ色が想定震度6強、赤が想定震度7
図4 本州中部を拡大 紫の線がリニア中央新幹線想定ルート
ここで矛盾が生じるように思えます。
繰り返しますが、冒頭に記した、平成26年に政府が閣議決定した国土強靭化基本計画では、「災害により分断、機能停止する可能性を前提に、代替ルートを確保する」ことを目的として、リニア中央新幹線を早急に整備するとしています。
これに従うのなら、南海トラフ大地震の発生が予知され、”南海トラフ大地震警戒宣言”(仮称)が発令された場合、リニア・東海道新幹線どちらも運行を停止したら「代替ルート」は意味をなさなくなります。
けれども、どちらも南海トラフ地震防災対策推進地域を通る以上、どちらも情報発表時の対応を用意しておかなければならない。
同様に東名高速道路と新東名・新名神高速道路は、「南海トラフ地震防災対策推進地域」の内部で二重系統化しています。けれども、道路は鉄道と異なり、警戒宣言が発令されても徐行・車両数の制限のうえ通行可能とされていますし、地震が発生して数か所で損傷しても、無事だった部分をつないで緊急車両を通すことも可能です。けれどもリニアによる二重系統化は、あくまで東京~大阪の旅客輸送のためだから、一部分でも運休したら全く意味がない。まして損傷したらどうしようもない。
調べてみると、リニアにおいて地上部分を盛土構造にしないのは、ガイドウェイのズレをミリ単位に抑えなければならないからだそうです(※)。数㎝ずれたら営業運転が困難になるようなものを、大地震の予知がされた場合に運行できるはずがありません。
(※)東海旅客鉄道20年史による山梨実験線建設時の沿革による。 だから残土処分地を他に設ける必要がある。
(※)東海旅客鉄道20年史による山梨実験線建設時の沿革による。 だから残土処分地を他に設ける必要がある。
リニアで求められる”二重系統化”とは、果たして何を目的とするのでしょうか?
わけがわかりません…