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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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結局、リニア建設の大義名分って何なのさ? ~意義はあっても目的はない

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リニア沿線のあちこちで、JR東海の進めるリニア計画について、疑問や不満の声が高まっています。

象徴的なのが長野県大鹿村で、一方的な説明会をもとに「ご理解は頂いた」とJR側が勝手に判断、事業着手に迫ろうとしており、地方レベルではありますが、かなり批判の的になっているようです。

信濃毎日新聞10月5日社説
おなじく18日記事


迷惑をこうむる住民に対して「ご理解」していただくのなら、まずは事業者側が、その事業の必要性つまり大義名分を説明することが、議論の出発点になると思います…というか、そうしなきゃ道理が通らない。リニア中央新幹線の場合、そのあたりが非常に曖昧であるから、強い反発を招く要因になっているのでしょう。

そんなわけで、久しぶりに「リニアそもそも論」=リニア計画にはゴリ押しするだけの大義名分はあるのか?について考えてみようと思います。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

もう5年も前になりますが、国土交通省中央新幹線が平成23年5月12日に国土交通大臣に提出した答申が建設指示の根拠となったのでした。そこには次のように書かれています。

①三大都市圏を高速かつ安定的に結ぶ幹線鉄道路線の充実
イメージ 1

②三大都市圏以外の沿線地域に与える効果
イメージ 2

③東海道新幹線の輸送形態の転換と沿線都市群の再発展
イメージ 3


④三大都市圏を短時間で直結する意義
イメージ 4

⑤世界をリードする先進的鉄道技術の確立及び他の産業への波及効果
とあります。
イメージ 5

全文はこちら(PDFファイルで7.47MB)

ちょっと考えてみます。

①においては、東海地震等の災害リスクへの備えになるということをうたっています。これについては、このブログで何十回も繰り返したように、
・そもそも基本計画路線自体は東海地震説(いわゆる石橋説)や大規模地震対策特別措置法制定よりも先行して決定している。
・今となっては、東海地震は単独ではなく南海トラフ大地震と連動する可能性が大きいとされている。
・基本計画路線の中央新幹線は名古屋以西では東海道新幹線よりも南海トラフよりを通る。
・大地震発生時の南アルプスでの地殻変動をルート設定時に考慮していない。
・リニア完成前に大地震が発生する可能性を考慮していない。
など、迂回路としての
妥当性は疑問だらけです。

また、東海道新幹線大改修との関連についても述べていますが、大改修は既にリニア着工に先駆けて初めているため、今となっては根拠とは言えないでしょう。
(日本経済新聞平成25年1月29日記事)
JR東海、新幹線の大規模改修5年前倒し 工費3600億円圧縮

②では、沿線への効果をうたっているものの、それならば直線ルートにこだわる必要性は低いし、まして”停まれない”リニア方式はかえって不利になるでしょう。

③はよく分かりませんが、静岡県知事とのやり取りを見る限り、東海道新幹線の利便性向上はたいして期待できないでしょう。リニア開業後にも「のぞみ」が存続し、それが静岡などにも停車するとは考えられません(山陽新幹線直通列車を温存したらリニアへのシフトは進まなくなる)。
(静岡新聞 平成28年9月28日記事)
リニア「メリットない」 川勝知事、新幹線新駅を引き合い?

④では、移動時間の短縮により三大都市圏がより密接に結びついて巨大都市を形成することが「効果」としています。しかし「人的交流を活発化」させること、言い換えれば移動需要の喚起が目的であるのなら、何も巨額の資金を使わって時間短縮を図らずとも、そのぶん東海道新幹線の料金を下げるということも一手法として考えるべきだと思います。目的に対し、なぜリニアが手段になるのか説明されていません。

⑤は個人の考え方次第でしょう。何より冒頭に示したように、多大な迷惑を被る住民が確実に出現し、自然破壊も確実に生じる事業を手放しで称賛できるはずがない。多大な犠牲を黙認できるのだとしたら、それは感覚がマヒしているのだと思います。

というように、国家プロジェクト整備の根拠としては、ツッコミどころの多い内容となっています。

ところで答申をよく見ると、見出しは「意義」であって「目的」とはしていないのです。

「意義」と「目的」

似たようで違うふたつの言葉。手元の国語辞典では次のように説明されています。

『三省堂 新明解国語辞典』
意義
そのものでなければ果たす(担う)ことの出来ないという意味での、存在理由。
目的
行動する目標として考えられた、そうしたい何事か。

『学研 現代新国語辞典』
意義
(ある行為そのものがもっている)ねうち。価値。
目的
なしとげたい、または得たいとして、それを目ざして行動するように設定しためあて。
 

答申を作成した国交省担当者(?)は、答申において「目的」ではなく「意義」という言葉を選びました。つまり何かの目的を達成するためにリニアを建設するのではなく、リニアを建設するとこのような価値がある、という理由で整備計画を決定したことになります。 

言葉遊びのようなことですが、非常に重要なことであると思います。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

例えば、ある川において洪水被害が頻繁に発生し、住民から被害を軽減するよう望む声が行政に寄せられているとします。そして何かしら対策をとるのであれば、
●ダムを建設して流量を調整する。
●遊水地建設によりいっときに川に流れ込まないようにする。
●放水路建設により河川水を分ける。
●河道を掘削して断面積を大きくし、より大きな流量に対応させる。
●堤防をかさ上げして断面積を大きくし、より大きな流量に対応させる。
●浸透性の舗装を普及させる
●森林整備
●ハザードマップを配布し、住民に洪水リスクを周知させる
●避難体制を整備

思いつくまま並べましたが、いろいろな対策が考えられる中から、対象となる河川の規模、地形、想定雨量、流域の土地利用、財政、被害想定など自然や社会条件に合わせて必要な手法を選び出し、実行に移すのが普通だと思います。

この場合、「洪水被害を軽減する」という目的を達成するために、例えば「ダムを建設する」などといった手段が選ばれることになります。目的があって手段が選ばれるわけです。下流域での洪水被害を軽減するために、場合によっては上流集落に対して立ち退きを無理やりにお願いすることがあるかもしれません。洪水による人的・物的被害の解消という目的に納得してもらって、はじめて立ち退きが成立することになるといえるでしょう。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところがリニア計画は違います。

改めて答申を眺めると・・・

2.中央新幹線整備の意義について
①三大都市圏を高速かつ安定的に結ぶ幹線鉄道路線の充実
②三大都市圏以外の沿線地域に与える効果
③東海道新幹線の輸送形態の転換と沿線都市群の再発展
④三大都市圏を短時間で直結する異議
⑤世界をリードする先進的鉄道技術の確立及び他の産業への波及効果

「意義」という言葉が用いられている以上、これらはあくまでリニア新幹線に期待できる(かもしれない)価値であって、「目的」ではない。その価値を認めることができない限り、不都合をこうむってまで事業に賛同することはできないでしょう。そして目的が不明確であるがゆえに、実現しなくても困ることはないことになります。
(実際、説明会で「リニア中央新幹線が実現しないとわが社は立ち行かなくなるのです」という話は聞いたことが無い。

ゆえに、住民の感情や沿線の環境を犠牲にしてまで事業を強行するだけの大義名分はリニア計画には存在しないと思うし、この計画に異議を唱える人をあからさまに批判するのは見当違いだと思うのであります。


(注)諏訪湖ルートは技術的問題で出てきたのを既成同盟会が拡大解釈しただけ)

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