引続き科学・技術を社会との”きしみ”―トランス・サイエンス問題―という観点より、リニア計画を考えてみようと思っていましたが、急に妙なニュースが入ってきたのでまた次の機会にします。
なおJR東海への財政投融資を目的として独立行政法人、鉄道建設・運輸施設整備支援機構法を改正するための国会審議が行われましたが、当ブログ作者はドシロウト故に言及は避けます。そちらの問題についてはジャーナリストの樫田氏のブログをご覧ください。
「リニア、残念だった衆議院国土交通委員会。誰もリニア問題の本質を知らないままで可決された」
さてブログ作者が気になったのは、山梨県早川町において南アルプスでのトンネル工事が始まったというニュースです。
facebookに投稿されたNHKニュースよりコピー
11年後に東京・名古屋間の開業を目指して建設が進められているリニア中央新幹線で、難所とされる南アルプスを貫くトンネルの掘削工事が早川町で始まりました。
掘削工事が始まったのは、南アルプスを貫くトンネルの山梨県側で、JR東海は去年12月から資材置き場の整備など掘削に向けた準備を進めてきました。
JR東海によりますと、掘削工事は27日から始まり、まずはリニア中央新幹線の車両が通るトンネル本体を掘るための作業用のトンネルの掘削が行われているということです。
この作業は、当初、ことし3月ごろから始まる予定で、半年以上ずれ込んでいるということです。
掘削工事がずれ込んだことについてJR東海は「工事で発生した土砂を運ぶベルトコンベヤーの設置など準備を進める一方工事用の車両の通行に必要な協議を道路管理者と進めてきたため」としています。
一方、ことし秋ごろに始まる予定だったトンネル本線の掘削工事は、来年度以降にずれ込む見通しで、JR東海は「全体の工期には影響はないと考えている。引き続き安全などを重視し、計画を着実に進めていきたい」としています。
引用終わり
南アルプス横断トンネル・先進坑に付属する作業用トンネルとしては、早川町には2つの斜坑(非常口)と工事用道路トンネルが掘られる計画です。NHKではどこのトンネルを掘るか報じていませんが、山梨日日新聞の記事によると「掘削を始めたのは長さ2.5㎞の作業用トンネルで…」とされているから、図2で赤く囲った、新倉地区の非常口に該当します。
図1 南アルプスのトンネル計画
図2 早川町内のリニア関連工事計画
評価書より複製・加筆
右下の「発生土置場」の盛土容量は3万立方メートル
真っ先に浮かんだ疑問は、
発生土置場が確定していないのに、掘った残土はどこに運ぶんだ?
という点です。トンネル工事を開始する前には発生土置場に対する環境保全措置を公表する公約がありますが、今まで山梨工区に対応した発生置場として示された地点は、図2の塩島地区だけです。ここの容量は評価書では4.1万立米としていましたが、平成27年12月に公表された環境保全方針によると、そこでの受け入れ可能量は3万立米ということです。
今回の工事に伴う発生土量を見積もってみます。
なお報道では「工事開始」としていますが、実はこの斜坑の位置には、既に2008年ごろ試掘と称して小断面のトンネルが掘られています。ですので「掘削工事」というよりも「拡幅する」としたほうが実態にあっていると思われます。
図3 試掘坑のようす
JR東海資料より複製・加筆
斜坑の断面積を、静岡県での審議資料より68㎡とします。またJR東海資料の写真などから、試掘坑の規模は大雑把に幅4~5m×高さ5~6m程度とみなせることから、掘り終えた断面積を25㎡とみなします。
68㎡より、掘り終えた分を差し引いて43㎡とします。
掘り出した土は、実際の掘削容積よりも容積が増しますが、この変化率を1.5とします(JR東海が静岡版評価書で使用)。
すると、このほどの斜坑拡幅で生じるであろう発生土量は16万立米程度と見込まれます。
43㎡×2500m×1.5≒160000㎥
しかし繰り返しますが、早川町内で確定している発生土置場は、上図右下に示された塩島地区一カ所の3万立米だけです。発生土置場が塩島だけであるなら500m分しか拡幅できないでしょう。
おかしい。
早川町内の発生土については、別事業の早川芦安連絡道路の盛土に転用するという計画がありますが、こちらは計画自体が具体化していません。
現時点では、3万立米以上を掘り出してはいけないはずなのです。
近いうちに新たな発生土置場を確保するメドがついたのでしょうか?
それとも途中まで掘って作業を休止するのでしょうか?
取材していて誰も気にならなかったのかなあ?
このブログ記事を掲載した直後、産経新聞の写真付き記事が配信されているのに気づきました。その記事では、「町内での発生土置場は2%しかきまっていない」と書いてありました。財政投融資のタイミングを考えると、「工事は順調に進んでいますよ」というパフォーマンスにしか思えないのであります。