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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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活発に隆起している山脈を横切るトンネルなんて維持できるのかな?

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「世界でも最大級の隆起速度」という触れ込みで、かつては国内の世界自然遺産登録候補にもあがった南アルプス。

その活発な隆起の場に、長大トンネルを掘るのがリニア中央新幹線計画です。

ホントに大丈夫なのか?

最近、財政投融資のために法律改正したとか何とかというニュースがありましたが、そもそも、

活発に隆起している山にトンネルを掘って維持管理することが可能なのか? 

という根本的なことが全く議論されていないのであります。財政投融資を行うってことは、リニア計画は公的な目的を帯びているということなのでしょう。平成26年に国土強靭化計画で明らかにされた通り、「南海トラフ大地震対策」にするのが、その目的であるはずです。

質疑に当たった国会議員のセンセイ方は、南アルプスの隆起速度と南海トラフ地震発生時における地殻変動との関係について勉強されておられるのでしょうか?

なお、少々地球科学にまつわる内容となるため、以下では南アルプスのことを赤石山脈とします。

●短期的に見れば揺らぎがあるが長期的には日本最大級の隆起速度 
国の事業として水準測量というものがあります。これは、都内に設置された基準(水準原点)を基に、全国の主要道路沿いに設置された水準点の高さを求めてゆくものです。約10年間隔で実施され、すでに100年以上のデータの蓄積があり、土木工事だけでなく地殻変動などを知るための重要な基礎知識にもなっています。
(国土地理院の解説)
http://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/suijun-survey.html

1970年代に、過去70年にわたって蓄積されたデータが整理された結果、日本で最も隆起していたのは赤石山脈付近で、100年間に40㎝、年平均にして4㎜程度に達すると報告されました。全国で最も大きな値を示したことになります。
【引用】
檀原毅(1971)日本における最近70年間の総括的上下変動 測地学会誌 第3号 100-108ページ 

赤石山脈は北東-南西方向に延びていますが、この南西部を国道152号線が南北に横切っています。そこに点々と設置された水準点で顕著な隆起が検出されたのです。山脈を横切る部分全域で顕著な隆起が検出されていること、1990年代の測量成果によっても、やはり隆起は継続傾向にあることから、赤石山脈は定常的に隆起を続けているものと考えられるようです。
【引用】
鷺谷威・井上政明(2003)「測地測量データで見る中部日本の地殻変動」 月刊地球 25巻12号 919-928ページ

イメージ 2
【図の引用】
国土地理院測地部(2001)「水準測量データから求めた日本列島100年間の近く上下変動」 国土地理院時報96号 
※なおこの図は長期変動であるがゆえに、過去100年間に発生した地震や火山活動による局地的な変動も含まれているので留意していただきたい。
顕著な隆起域があるが、以下の地域は地震によるものである。
山形~秋田付近⇒1894年庄内地震、1891年陸羽地震、1914年仙北地震
房総半島南部⇒1923年関東地震
浜名湖~三河湾付近⇒1944年東南海地震と1945年三河地震
四国南部や紀伊半島南端⇒1946年南海地震

これら地震による隆起を除く恒常的な隆起域としては、赤石山脈の隆起量は日本最大なのである。なお、大都市部の沈降には地下水の過剰汲み上げによるものが多い。上記報告はウェブ上で公開されており、年次別の変動も閲覧可能である。

また、地質学的な手法によると、年間5~7㎜のペースで隆起している可能性が示されています。
【引用】
米倉ほか編(2001)「日本の地形1 総説」東京大学出版会 149頁より

いっぽう、近年になってGPSで土地の変動を常時観測する技術が確立しました。赤石山脈の周辺部にもGPS水準が点々と設置されましたが、興味深いことに、短期間の観測によると、必ずしも隆起一辺倒ではなく、むしろ沈降しているという結果が出され、(関係者の間では)話題になったようです。
【引用】村上亮・小沢慎三郎(2004)「GPS連続観測による日本列島上下地殻変動とその意義」 地震 第2輯 209-231ページ 

シロウトながら、このほかいくつかの文献を参考にまとめると、100年単位で見れば、赤石山脈は確実に顕著な隆起をしているが、短期的には隆起の様相には揺らぎがありそうだ、ということになります。

●隆起が止まっているとされた北アルプスで顕著な隆起を観測  
最も活発な隆起の検出されたのは国道152号線沿い(長野県飯田市の旧南信濃村)に置かれた「水準点5306」という地点ですが、これは谷底になります。ちなみに現在の標高は495.1m。

ところが南アルプスの稜線は3000mを越え、リニアがぶち抜くあたりには標高3141mの悪沢岳(荒川岳)という全国第6位の高峰もそびえています。ところが、この稜線付近には観測地点がありません。よって隆起速度を見積もることは甚だ困難なのです。

イメージ 3
”100年間に40㎝の隆起”の確認された水準点5306の位置および水準測量路線とリニア・南アルプストンネルとの位置関係。
地殻変動データの空白域とした範囲にも、いくつかGPS基準点が設置されている(井川、大鹿村)。けれども長期間のデータはまだない。
背景画像は国土地理院電子国土Webより引用

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南アルプストンネル付近における標高分布 
最高所は2500mを超え、伊那盆地や甲府盆地との比高は約2000mに及ぶ。 

谷底でさえ顕著な隆起が検出されているのだから、3000m級の稜線付近ではもっと活発な隆起を続けている可能性があるのかもしれません。これは、赤石山脈に限らず、全国の主要な山岳地域についていえることです。

例えば水準測量結果をもとにして、飛騨山脈(北アルプス)は、赤石山脈よりも速い時代に隆起が終了し、現在の隆起は緩慢であるとみる考え方が一般的であったようです。飛騨山脈の麓におけるGPS観測でも、むしろ沈降しているかのような傾向が示されていることから、この考え方は正しいらしいと考えられてきました。ところがり、それはあくまで谷間や麓のデータに基づく推測であって、直接に高山の隆起を測ったものではありません。

そこで、このような疑問に答えをだそうと、飛騨山脈の穂高連峰において、短期間ながらGPSに基づく観測(GNSS)を行われました。

その結果は驚くものでした。なんとこれまでの定説とは異なり、前穂高岳では年間5㎜という顕著な隆起が検出されたのです。さらに観測期間中に起きた東北地方太平洋地震に伴って8㎜程度の沈降も確認されました。
【引用】
西村卓也 国土地理院穂高岳測量班(2013)北アルプス穂高連峰の隆起に関する測地学的検証~一等三角点穂高岳でのCNSS観測~ 

つまり高い山は、麓よりもより隆起が活発であるために、高い山になったと言えるのかもしれないのです。赤石山脈でも同様に考えると、リニアのぶち抜く悪沢岳・小河内岳のような3000m級の高山地帯では、麓での「年間4㎜」よりもずっと活発な隆起をしている可能性が高いと思われます。


●南海トラフ大地震が発生したらどうなる? 
話がガラッと変わりますが、ブログ作者が最も気になるのはこの点です。

南アルプスを形成する岩石は付加体(ふかたい)とよばれ、フィリピン海プレートの表面にたまっていた堆積物が、プレート沈み込みの際、こそげとられるかのように陸側に付着したものです。南アルプスを隆起させる原動力は、フィリピン海プレートの沈み込みということになります。

かたや南海トラフ大地震は、日本列島を載せたプレートの下に、フィリピン海プレートが陸側プレートと固着しながら沈み込み、陸側プレートがひずみに耐えきれなくなって跳ね上がる際に発生すると説明されています。このとき、陸地は海岸側は隆起、内陸側が沈降するように傾くことになります。

ということは、南海トラフ大地震発生時には南アルプスは大幅に隆起するのでしょうか? 

1944年の昭和東南海地震では、浜松市付近の水準点で約20㎝の隆起が検出されましたが、それより北方の「水準点5306」では、急激な変動はしていません。これは震源域が遠州灘までにとどまったためだと思われます。

しかし1854年の安政東海地震では、震源域は駿河湾奥にまで及んだというのが通説であり、富士川河口では断層活動にともなう3mほどの隆起が起きたとされています。

このとき赤石山脈はどのような変動を起こしたのか、それは全く分かりません。

●JR東海の考え方がよく分からない 
JR東海は、「南アルプスの隆起速度は突出した値ではない」とし、トンネルの工事・維持管理に支障はないと結論付けています。



イメージ 4
南アルプスの隆起量に対するJR東海の見解
環境影響評価書の資料編より複製  

しかしこれまで見てきたように、JR東海の見解はおかしい。

赤石山脈の地殻変動についてシロウトなりに総括すると、

短期的には揺らぎがあるが、100年単位(トンネルの耐用年数)でみれば、顕著に隆起している。麓で検出された値は年間4㎜程度であることから、主稜線付近ではより活発な隆起活動の継続している可能性が高い。また、近い将来に起こる可能性が高い南海トラフ大地震の際、赤石山脈がどのような地殻変動を起こすのか全く不明である。

となります。つまり分からないことだらけということになり、大地震という未知のリスクも含まれます。ところがJR東海の見解は、ごく最近10年足らずのGPS観測のみに基づき、「他の地域に比べて突出した値ではない」と強引に結論付けているのです。山岳トンネルの場合、岩盤に一度トンネルを開けたら最後、それを永久に使い続けねばなりません。リニアの耐用年数は知りませんが、少なくとも100年単位で物事を考えるべきでしょう。そしてその間には、確実に南海トラフ大地震も発生するのだから、それも考慮せねばならぬはずです。

また、「周辺地域との間に隆起速度と同等の変位が累積するものではない」としもしていますが、これは誤りでしょう。赤石山脈の東には、標高300m以下の甲府盆地が広がりますが、ここは沈降しているがゆえに盆地となっているのです。それに穂高連峰の例にあるように、主稜線部分が特異的に隆起している可能性もあります。


ところで南アルプスのトンネル工事が極めて困難であろうことを主張すると、しばしば、スイスのゴッタルドベーストンネルが引き合いに出されます。「本場アルプスに50㎞超のトンネルを掘っているから大丈夫だろ」という具合です。

けれどもこれは、彼我の地殻変動の違いを無視した話だと思います。

・最も隆起の活発なスイスアルプス南部での値は年間約1㎜で、北にむかうほど小さくなる。
・St.Gotthardで40㎜/70年=0.57㎜/年
・北側坑口付近で20㎜/70年=0.3㎜/年
・南側坑口付近で50㎜/70年=0.7㎜/年
【引用】
大内俊二訳(1995)「現代地形学」 古今書院 81ページより
(原典)Richard J. Chorley,Stanley A.Schumm David E.Sugden(1984)「Geomorphology」
 

これに比べて南アルプスのリニアトンネルの場合
・約20㎞離れた地点で400㎜/100年=4㎜/年 

というように、値が一ケタ異なります。そして
「問題ない」と主張するわりには、スイスのような、ルート付近でのデータを持っていません(少なくとも公開していない)



地殻変動著しい日本列島の中でも、最も活発な隆起をしている山岳地域に長大トンネルを掘って地震対策にしようというのであれば、安全だといえる根拠を示すべきだと思うのであります。



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