前回の続きになります
赤石山脈(南アルプス)においては、東海地震/南海トラフ大地震を想定すると、隆起だけでなく水平方向の変動も気になるところです。
2011年3月11日の東北地方太平洋地震では、東北地方全体の幅が東西方向に広がったことが分かっています。地震前に比べると、日本海側沿岸は1m程度東に移動したのに対し、太平洋岸は東に3~4m(牡鹿半島では5m以上)移動したため、陸地が引き伸ばされたことになるわけです。
同様にプレート境界で起きたマグニチュード7.9の大正関東地震(関東大震災)でも、陸軍陸地測量部が行った三角点測量で、同様の地殻変動の起きたことが明らかにされています。相模湾沿岸や房総半島南部が(小田原市付近に対して)2~3m南東側に移動したのに対し、いっぽうで丹沢山地北部や房総半島中部の移動は1m程度であった。つまり大地震にともない、丹沢山地や房総半島南部が、北西-南東方向に1~2mのびたことになります。
当然、プレート境界での大地震である東海地震/南海トラフ大地震でも、同様な変動が予想されます。
1976年に発表された「東海地震説」の震源断層モデルによると、静岡県中部は南東方向に2~3m移動するとともに、赤石山脈中部では、東西方向の距離が1mぐらい伸びるような予想となっています。ただ、リニアのトンネル付近での変動についてはよく分かりません。
※40年経て、この断層モデルも見直され、震源域は当時よりも北側に広げられるように想定されるようになっています。また東海地震が単独で発生するというよりは、連動型の南海トラフ大地震として考えられることが多くなっています。なお、大正関東地震や想定東海地震による地殻変動については、石橋克彦(1994)「大地動乱の時代」(岩波新書)に詳しいので、参照にしていただきたい。
いずれにせよ、赤石山脈を東西に貫くトンネルを想定している以上、東海地震/南海トラフ大地震の発生した際には、地殻変動によりトンネルが1m程度引き伸ばされるかもしれないのです。
加えて前回指摘したような、急激な隆起も起こりうる。
これは安倍川沿いにあった崖の写真です(静岡市葵区 竜西橋西岸)。
写真1 安倍川沿いの露頭
縮尺の比較になるものが写っておらず申し訳ありません。右上の緑色のシダの葉が、長さ40~50㎝程度だと思います。
地層がグニャグニャまがっています。強い力により捻じ曲げられたことが伺えます。
地質学の知識は中途半端なので間違っているかもしれませんが、たぶん頁岩か粘板岩だと思います。赤石山脈の東側を構成する瀬戸川層群といって、同じ地層は、リニアの通過する早川町内にも分布します。
下の写真2でお分かりいただけるかと思いますが、この種の岩は、板状にはがれやすいという性質があります。安倍川源流にある大谷崩れや早川町の七面山の大崩壊地(通称ナナイタガレ)のように大崩壊が起きるのも、この性質が一因ではないかといわれています。
写真2 板状に剥がれ落ちているところ
単にトンネルを掘るだけなら、時間とカネさえかけ続ければ、現代の技術なら大丈夫でしょう。しかし大地震による変動に耐えられるのでしょうか?
よく言われるように、地下構造物は揺れに強いとされています。ボルトやコンクリートで岩盤にガッチリ固定してあり、山と一体化しているからです。
しかし赤石山脈の場合、地震発生と同時にトンネルを掘った山自体が変形してしまう可能性が高い。つまりトンネルの壁を固定してある周囲の岩盤自体がズレたりゆがんでしまうのかもしれない。
そのとき、固定してある先が頑丈な岩盤ではなく、写真2のような隙間だらけの岩盤であったら、一緒に動いてしまうのでは・・・? そもそもコンクリート構造物が、山の伸び縮みに対応できるのでしょうか…?
トンネルの壁がグニョグニョ波打ったり、剥がれ落ちたり、岩ごと落下してしまったりすることはないのでしょうか?