この週末、何だか急にアクセス数が増えました。何だろうと思ってましたが、どうやらネットニュースで「リニアは土管列車。車窓を楽しめない」という記事が配信されたためのようです。
こんな巨大土管が延々と続くわけですな
はっきり言って、「何を今さら?」という感じ。そんなことは前々から分かりきったことだったのに・・・。
以下、「土管列車報道」から思いついたことをダラダラと書いています。
東海道新幹線の発案者の1人であり、日本鉄道建設公団総裁を務めた、故・篠原武司氏は、ご自身の回想録の中でリニア構想に触れ、「鉄道の速度は時速300キロ程度におさえ、それ以上の高速を望むなら飛行機を使え。移動手段としての限度をわきまえるべきだ」「電磁波の危険性もある」「まさか全区間を地下に埋めるわけにもいくまい」と、安易な実現化に警鐘を鳴らしておられました。
(『新幹線発案者の独り言―元日本鉄道建設公団総裁・篠原武司のネットワーク型新幹線の構想』1992年 石田パンリサーチ出版局より)
さて、中国・上海に建設されたドイツの常伝導リニア「トランスラピッド」の場合、沿線への磁界・騒音対策のために路線をはさんで50mの緑地を設け、緩衝帯としてあります。フードはありません。
いっぽう日本のリニア中央新幹線の場合、用地取得を極力減らすためか緩衝帯は設けられず、代わりにフードが設けられます。これが「土管」ですな。トランスラピッドよりも速度・磁界ともに影響が大きいことも理由にあるのでしょう。高架橋の両側は、側道をはさんで住宅地等に向き合うことになります。
また、物体が高速で細長い空間に進入すると、圧縮された空気が反対側出口に押し出され、大きな音が生じます。専門的には微気圧波とよばれ、東海道新幹線の時代からの、高速鉄道ならではの課題となっています。リニアは新幹線よりもさらに高速で移動しますから、これを緩和するためにもフードが不可欠となります。
時速505キロというのは、現代のプロペラ旅客機や第二次大戦中の軍用機(「ゼロ戦」とか「隼」とかB-29とか)に匹敵する速度。プロペラ機は上空数千mの薄い大気中を飛行しますが、リニアの場合は地上1気圧の大気中で動きます。上空より濃い大気中ですので、その空気をむりやり動かすことにより様々な現象が生じるのです。
また、切り通し区間での落石、野鳥などとの衝突、往来妨害、降雪などへの対策というという意味合いも強いのでしょう。こんな速度で障害物に衝突したら、それは鉄道事故ではなく航空事故に近い大惨事になってしまいます。
時速505キロというのは秒速140.3mです。そして時速505キロから緊急停止に要する時間は90秒とのこと。計算すると、停止までには6313.5mの距離が必要となります。普通列車並みの110キロまで減速するまでにも70.4秒の時間と6014mの距離が必要です。
言い換えれば、ガイドウェイに異常を検知しても、すでに列車が6㎞以内に近づいていたら、もはや回避は不可能です。
そういう心配から「全てにフタをしてしまえ」という発想に至ったのだと思いますが、「フタ」をしたらしたで、別に様々な問題が出てきます。
・景観をぶち壊す
・日照問題
・緊急時の迅速な対応が困難
・日照問題
・緊急時の迅速な対応が困難
「全てフードで覆ってしまえば安全」みたいなことが言われていますが、大地震のときにトンネルのコンクリート壁が剥がれ落ちた例もあります(中越地震、兵庫県南部地震、伊豆大島近海地震など)。山陽新幹線なんて、建設後20年程度で地震もないのにパラパラ剥がれ落ちる事故が起きました。
そんなふうに、剥がれ落ちたコンクリートに突っ込むリスクはどのように評価されているのでしょうか。
万一火災が発生すれば、土管はただちに煙突に変わります。そういうリスクもどのように検討されていたのか。
火災が起きて消防車が駆けつけても、土管の中ではどうしようもありません。東京-名古屋286kmに、延々と水道管を引いて消火栓を設けるつもりなのでしょうか?
こういうリスクをきちんと検討した形跡が全く見当たらないのですが、いったいどうなっているのでしょう?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そもそも土管列車にしなければ運転が不可能であり、土管列車化しても次々と問題が出てくるのは、最高時速505キロ走行の実現という発想に、ムリが多いことに端を発します。
よくよく考えると、高速鉄道、レーシングカー、離陸時のジェット機などの速度はおしなべて300㎞/h前後。これ以上の速度で地表を移動する乗り物なんて、先の上海リニアと、実験的に改造したケースを除くと存在しないんですよね。
やっぱりこれくらいの速度が、地表での限界なんじゃないのかな?
いろいろな「?」の浮かび上がってくる記事でした。
「土管」もこれぐらいゴージャスにすれば格好いいかも(フランス:ガールの水道橋/Wikipediaより)
リニアに似ていますね(乾燥地帯の地下水路「カナート」の断面図/Wikipediaより)