「山梨県地下水及び水源地域の保全に関する条例」や「水循環基本法」を眺めていると、リニア建設は水環境保全の問題をどのようにクリアしてゆくのだろうという疑問が非常に気になります。
ちょっと調べてみると
●河川の表流水を占用するには河川法上の許可が必要
●河川区域の伏流水を占用する際にも河川法上の許可が必要
●掘った井戸水(地下水)を使うなら(基本的には)許可は不要
●トンネル工事で周辺の水利に影響を与えたら補償の対象となる
こんな具合なので、トンネルに湧き出した水は河川水なのか地下水なのか、それ自体がグレーゾーンになっているかのような印象を受けます。
さて、河川の下にトンネルを掘る場合、河川法に基づく許可がいくつも必要となるようです。主だったものは次のようなもの。
第二十四条(土地の占用の許可)
第二十六条(工作物の新築等の許可)
第二十七条(土地の掘削等の許可)
第二十六条(工作物の新築等の許可)
第二十七条(土地の掘削等の許可)
⇒参考
国土交通省京浜河川事務所
国土交通省
こうした許可の基準は、法律とは別に定められていて、それに照らし合わせて、治水・利水・環境に影響が出ないと判断されて、はじめて許可されることになります。
リニアのトンネル工事の場合、環境影響評価の辞典で「トンネルを掘れば水が減る」という試算結果が出ています。よって「大きな影響が出ない」という合理的な根拠が示されぬ限り、河川の下にトンネルを掘ることは許されないはずです。
だからトンネル建設にGOサインが出た時点で、河川法上の問題はクリアされていることになっているはずなのです。
(科学的な妥当性や、住民が納得できるかは別問題。)
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リニアのトンネル工事に伴う水の問題の中でも、最大級の懸案となっているのが静岡県の大井川です。環境影響評価書によると、大井川の流量が約2㎥/s減少すると試算されてました。これは年間平均値とのことで、渇水時ならば周辺の河川生態系および水力発電所に影響が出ることになります。
最大の難所になるであろう静岡県内での工事計画が全く具体化してこない一因は、このような河川をめぐる法的な問題もその一因となっていることでしょう。
ところで河川の下のトンネルといえば、南アルプストンネル長野県側工区も同じ条件下にあります。既に11月1日に着工式が行われています。
ここには小河内沢という川が流れています。この川は小渋川に合流し、最終的に天竜川に合流して太平洋に注ぎます。
この小河内沢の右岸(南側)の地下浅いところに、リニアの南アルプストンネルが掘られる計画です。本坑だけでなく先進坑と斜坑(非常口)も掘られる計画であるため、多量の水を引き込むことが容易に想像できます。
小河内沢付近を拡大
そして案の定、やはり河川流量が大幅に減少するとの試算が出されました。
環境影響評価書長野県版より複製・加筆
赤枠内が小河内沢
ところで図示したように、小河内沢には長野県企業局の所有する発電所があります。
小渋川の標高1050m地点で取水し、小河内沢からの取水も合わせ、小渋川の標高780m付近へ水を落として発電するものです。長野県営の発電所で、小渋川本流と合わせた常時取水量は0.6㎥/s、最大取水量は4.5㎥/s。常時出力は1200kW、最大認可出力は10000kWだそうです。常時取水量は「いつも取水してよい量」であり、最大取水量は「水が豊富な時に取水できる上限」となります。
なお県のデータによると実際に渇水期に小河内川を流れる量は0.35㎥/sであり、実際に取水している量の平均値は0.29㎥/sだそうです。0.06は河川環境維持のために川に流しています。
さて、環境影響評価書によると、渇水期の現況流量を0.58㎥/s(先の実績値と比較すると過大!)とした場合、トンネル完成後は0.08にまで減るというものです。
この予測が正しいと仮定すると、渇水期には河川環境維持流量を差し引いた0.02㎥/sしか取水できなくなります。現況値が”過大評価”されていてアテにならないことを考慮すると、小河内沢からの取水は困難になってしまいます。
当然、県が売電で得る利益は減りますし、取水により大鹿村が県から受ける水の使用量収入も減るでしょう。
そしてなにより生態系や景観に与える影響は重大なものがあると思われます。ユネスコエコパークの理念(持続可能な自然資源の利活用)にも反しているという大問題もあります。
JR東海が起工式に先立って10月に公表した「南アルプストンネル新設(長野工区)工事における環境保全について」によれば、水資源に影響が出そうになったら代替水源を確保するとしていますが、河川環境および水力発電所を維持するだけの代替水源など、原理的にできるはずがありません(そもそも評価書から進歩していない)。
要するに、河川法上の工事許可を与えるには懸念が大きいはず。
しかし実際には、大鹿村では既に小河内沢の下を掘るトンネルについて、起工式が行われました。
おそらくは事業者のJR東海、河川管理者である国土交通省、発電所をもつ長野県、地元大鹿村との間で協議が行われ、法的な問題はクリアできたという判断がなされたからこそ、起工式が行われたものと思います。
しかしどのような協議が行われたのかは、全くのブラックボックスです。な~んにも分かりません。
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長野工区については、スケールこそ小さいものの、大井川流量問題の先行事例となったはずです。
大井川の環境保全を万全のものとするためにも、長野県にはどのような協議が水面下で行われ、どのように処理されたのか、ぜひ情報を提供していただきたいと思います。