第四南巨摩トンネルの西工区について、今月中にも工事を始めるとのこと。
しかし残土の搬出先が決まっていない現状には変わりなく、やはり既成事実としての工事開始となりそうです。
ところでトンネルを掘れば地下水が湧き出し、地上の川や湧水に影響を及ぼすかもしれないという懸念があります。実際、山梨実験線の建設では、複数の川を干上がらせてしまっています。
第四南巨摩トンネルは大柳川流域をくぐり抜けることから、大柳川流域の水環境に与える影響が懸念されます。しかし環境影響評価準備書において、JR東海は予測を行いませんでした。
この点について、2013年3月の「準備書に対する山梨県知事意見」においては、「大柳川の流量に及ぼす影響を予測し、結果を評価書に記載すること」とする意見が出されました。
しかしJR東海は、この知事意見にも答えなかった。さらに国土交通大臣意見(2014年7月)でも同様の意見が出されたものの、補正評価書の段階では回答をせず、そのまま2014年8月に事業認可されてしまいました。その後、2015年12月24日になってようやく結果が公表されることになります。
それによると大柳川の流量は約20%減少するなどとされています。
⇒JR東海ホームページ
「巨摩山地における水収支解析の結果について(平成26年12月24日)」
添付画像1 巨摩山地における流量への影響予測
JR東海作成「巨摩山地における水収支解析結果」より複製
ご覧の通り、大柳川で流量が20%減少するなど、水源において流量が減少するとの予測が出されています。JR東海は「環境影響評価措置を講じるので影響を最小限化できる」としていますが、現地の実態や環境について何も存ぜぬ私が、この数字自体を評価することは避けます。
ただし影響を見積もる以前の問題として、次のようなものがあげられます。
【1】大柳川の流量が2割減少すると予測され地点は、トンネルとの交差地点より3.5㎞ほど下流である。この3.5㎞間に、トンネルの影響を受けない右岸からの支流が流入している。ならばトンネルとの交差部分に近い十谷渓谷での減少率は、もっと大きい可能性がある。
添付画像2 大柳川本流での流量予測地点の位置
JR東海が大柳川本流で予測したのは●06の場所。トンネルと川との交差地点よりも約3.5㎞下流であり、この間に右岸より支流が流入してくる。そのため仮にトンネル真上で流量が減少したとしても、やや回復していると思われる。トンネル頭上は”大柳渓谷”という景勝地になっているそうだが、そこに与える影響は不明である。
【2】第四南巨摩トンネルは大柳川支流の清水沢を浅い土被りでくぐり抜ける。清水沢は周辺集落の上水道源になっていると評価書には記載されているが、トンネル工事が及ぼす影響は示されていない。JR東海資料によれば試算自体は行っているはずであるから、公表すべきである。
【3】実際の観測データが一切不明である。
【4】第四南巨摩トンネルは、大断面区間や分岐施設を設けるなど、複雑な構造になることが事業認可後の入札情報において示唆されている。流量予測において、トンネルの規模や構造が反映されているか不明である。
特に問題が大きそうなのは【2】だと思うので、ちょっと説明いたします。
大柳川には清水沢という支流があって、合流点近くにかかる不動滝にて水を取水し、鳥屋地区・柳川地区の簡易水道にあてている旨が環境影響評価書に記載されています(添付画像3参照)
添付画像3 巨摩山地における上水道の水源とトンネルとの位置関係
環境影響評価書・山梨県編より複製・調整・加筆
第四南巨摩トンネルはこの清水沢の下を浅い土被りでくぐり抜ける計画です。また列車の走行する本坑だけでなく、保守施設への連絡トンネルも並行して掘られる可能性地があります(詳細不明)。地表からの深さは50~60mと山岳トンネルとしては浅く、山梨実験線で実際に水枯れを引き起こした時と同じ程度の深さとなります。
上水道の水源としている川の流量ががトンネル工事によって減少するかもしれない。だからこそ環境影響評価において取り上げたはずです。
しかし現在にいたるまで、添付画像1に示す通り、清水沢に及ぼす影響については何も示されていません。
もちろん、予測はあくまで予測であり、予測を行わずとも万全な保全措置をとるという考え方も可能かと思います。それはひとつの方法でしょう。
しかしJR東海資料によると、どうやら清水沢における予測は行っていたらしいのです。これがその証拠になります。
添付画像4 巨摩山地水収支解析において解析モデル検証のために試算を行った地点の一覧
JR東海作成「巨摩山地における水収支解析結果」より複製
ここでいう「地点番号9」が清水沢に該当します。
「モデル検証用」というのは、コンピュータ上で計算された結果が実際の河川流量と合っているかどうかを検証してみた地点という意味です。ですから清水沢での試算は行っていたことになります。
けれども公表していない!
公表する・しないは事業者の誠意しだいになりますが、そもそも環境影響評価は地元への説明責任を果たすための制度のはず。簡易水道の水源ならば地域にとっては重要ですので、優先的に公表されるべき地点です。公表せずとも水資源への影響を回避できる自信があるのなら、あるいは重要ではない場所と判断したのであれば、その旨を明記しておけばよろしい。
どちらもしないということは、都合の悪い試算結果を隠していると疑われても致し方がないと思います。
おかしいですよね?
さらに不審なのは情報開示のあり方です。もう一度、添付画像4をご覧ください。
清水沢はじめ大柳川流域一帯では、平成18年から24年にかけて流量の観測も行っていたとしています。これは環境影響評価開始どろか、国土交通大臣による中央新幹線の建設指示(平成23年5月)が出されるより5年も前になります。
何のために観測をしていたのでしょう?
今となっては、それは試算をおこなった際の検証用であったことが判明したわけです。
なにゆえ観測していた事実すら事業認可後まで伏せていたのでしょう?
環境影響評価の結果(準備書)を公表したのは平成25年のこと。しかし流量の観測は、少なくともその時より6年前から開始しており、その結果をもとに流量予測を行うことが可能であったのにもかかわらず、なぜか準備書では公表しなかったことになります。さらに「評価書に試算結果を載せよ」という県知事意見にも答えなかった。
非常におかしい
「都合の悪い試算結果を隠している」のは間違いないだろうと思うのであります。