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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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矛盾だらけの大井川導水路案は実現不可能であろう

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JR東海が、事業認可後に出してきた以下の事項

・大井川の流量減少対策としての導水路案
・燕沢への大規模発生土置設置計画
・工事用道路トンネルの位置変更(4㎞)
 

について環境影響評価を行い、このほど静岡県に事後穂調査報告書の形で送付している。条例に基づき、県庁ホームページにて公開されており、現在、パブリックコメントを受け付けている。

静岡県庁ホームページ
【リニア中央新幹線に係る事後調査報告書の公表及び県民意見の募集について】



このうち導水路案について考えてみたい。

環境影響評価においては、リニアの南アルプストンネル建設により、大井川本流にて河川流量が2㎥/s(毎秒2トン)減少するとの試算が示された。これは大井川下流部での上水道としての水利権と同等の値であり、また、環境維持放流として発電ダムより下流に流されている水量にも相当する値である。

”ダム銀座”としてかつて完全な河原砂漠となっていた大井川としては重大な事態である。このため、流域からはいっせいに懸念の声があがった。

しかし環境影響評価の過程では、具体的な対策を講じることなく事業認可を受けたため、継続審議のような形となり、そこでJR東海が提案したのが導水路案である。

一昨年の11月27に、JR東海が自主的に開催した有識者会議「大井川水資源検討委員会」で提案し、同委員会で容認(?)されたとして県や市に説明していたものを、はじめて公式文書の形で公表したことになる。

はっきり言ってトンデモ案じゃあるまいか?

まず、話の筋が通っていない 

JR東海が作成した環境影響評価書で示した見解は、
●工事中はポンプによってトンネルへの湧水をくみ上げるので河川流量は減少しない。
●流量が大幅に減少するという試算は、トンネルに防水シート設置や薬液注入などの遮水工事を行わない前提で行ったものであるから、適切な工法を用いれば、それほどひどいことにはならない。
●それでも河川流量減少の兆候が確認されれば、新たな案を考える。

といいうものであった。この見解の妥当性はひとまず横においておく。

この見解ではJR東海は、
①トンネルの建設により大井川の流量が大幅に減少するかもしれない。
②けれども適切な工法を用いれば防げるかもしれない

と主張しているわけである。つまり河川流量が減少するかどうかは、実際に工事を行うまでは分からないというわけである。

この後に出てきたのが導水路案である。
イメージ 2
導水路案
JR東海ホームページより複製 

導水路といっても、断面積は10~20㎡、幅3~5mと結構大きく。長さは11㎞にも及ぶ。発電所の導水路のような規模である。静岡市郊外に工業用水のパイプを埋設したトンネルがあるが、おそらくこれと同程度であろう。
イメージ 4
静岡県企業局の工業用水の導水トンネル
地下にパイプが埋設されている。目測で幅4m程度。 

これだけの規模なので、それなりに残土が増えるし(おそらく20万立米程度)、事後調査報告書によれば、やはりそれなりに水を引き込む恐れがあるとしている。つまり、環境保全措置といいながら、結構な自然破壊をもたらすのである。

ところで、自然破壊を侵しながら導水路を建設しても、「②適切な工法を用いたところ流量の減少が生じなかい」ケースもありうる。

もちろん流量が減少しないことに越したことはないのだが、その場合、掘ってしまった導水路は無用の長物となる。非常口や保守管理には使えない。放置すれば漏水ひいては落盤を起こして地上の異変を引き起こすおそれもある。なりより壊されてしまった自然は元に戻せず、無駄な自然破壊に他ならない

評価書の記述に従えばこうした事態は当然起こりうるのだが、報告書では全く検討していないのである。

唐突に、脈絡もなく評価書を否定したことになっている。

万一に備えて事前に対策を講じておくのは当然であろう。けれども騒音対策のフードとか、工事ヤードの仮囲い等とは異なり、導水路トンネルは不要になった場合に撤去・現状復元が不可能なのである。

現時点で必要性すら判断のつかない自然破壊を行ってよい場所ではない。

そしてなりより導水路出口より上流側への対策とはならない!という致命的な問題がある。

イメージ 1
大井川の水利系統図
ダム便覧、中部電力資料より作成  


その区間、実に15km以上にも及ぶ。支流の枝沢へも影響が出るかもしれない。
JR東海は、導水路は”水資源対策”と位置づけ、これが完成すれば下流の生活には影響ないと主張している。確かに机上の論理としては正しい。けれどもそれでは上流部に住む渓流魚をはじめとする水生生物はたまったものではない。

JR東海は移植するなどと言っていたことがあるけれども、影響を受けない区間よりも影響を受ける区間のほうが長いのだから、面積的に受け入れさせることが可能かどうか分からない。水生昆虫なんで移植できるのだろうか??


さらに河川生態系が大きな影響を受けるととともに、この区間から取水している水力発電所4か所も大きな損失を免れない。仮に損失分に対し電力会社が下流での取水量を増やしたら、導水路の存在意味はなくなってしまうこの区間への対策を講じなければ水問題は解決できないのである。
イメージ 3
JR東海資料に発電用の取水堰を記入
なぜか発電用水への影響は検討していない 


・・・ところがトンネル真上に水を戻す芸当が可能ならば、あるいは電力会社との協議により渇水時に取水を停止してもらうような協定を結べば、そもそも導水路なんぞ不要ということになる。河川法第53条の2にはそうした規定もある。

かように導水路案は矛盾に満ちている。矛盾に満ちた案が出てくるのは、「トンネルが河川水を引き込んで河川流量が減少する」という予測に対し、「引き込んだ水を地上に戻す」ことだけを考えているからである。それでは環境保全措置としての導水路ではなく工事のための排水路に過ぎない。

導水路を考えるより先に、トンネルに水を出させない方法を検討するべきであろう。

そもそも、トンネルの構造や河川との位置関係を見直すべきじゃあるまいか?




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