南アルプスの静岡市側に計画されている工事用道路トンネルについての疑問です。
添付図表1 南アルプスの工事関係図
図中央の緑点線が工事用道路トンネル
この工事用道路トンネルとは、大井川最上流部の西俣(川の名前)の斜坑(非常口)と、燕沢発生土置場とを結ぼうというものです。環境影響評価書公表時から発生土置場の位置が変更されたため、工事用道路トンネルの位置も変更されました。
添付図表2 工事用道路トンネルの概要
平成28年度 静岡県版事後調査報告書より
位置関係については次の図も参照していただきたい
添付図表3 工事用道路トンネルの入り詳細
国土地理院ホームページ 電子国土Webより複製・加筆
幅約10m、断面積約50㎡、長さ約4000mという計画で、けっこう大規模なトンネルとなります。これを3年程度で完成させるとのこと。静岡市街地郊外に、新東名高速道路の建設に際し、住宅地を迂回するために建設された道路トンネルがありますが、JR東海が計画しているものは、断面積がこれよりも一回り大きくなるのでしょう。
添付図表4 新東名高速道路の工事用道路トンネル
静岡市街地北側にある北トンネル。住宅地を迂回するためにつくられたもの。なおJR東海が計画しているこ工事用道路トンネルは、これよりも一回り断面積が大きくなると思われる。
さて環境影響評価書では、工事用道路トンネルは環境保全の一環として建設するとされていました。
添付図表5 環境保全措置としての工事用道路トンネル
静岡県版 環境影響評価書より
今般の事後調査報告書によれば、同じ理屈で、さらに周辺の登山施設(二軒小屋ロッヂ)への影響も低減できるとしています。改めて環境保全措置としての位置づけを継承するものなのでしょう。しかし、疑問なのであります。
●工事用トンネルの建設工事用車両の影響は?
リニア本線の工事用車両の往来を専用トンネル内で行うことにより、地上への影響を低減できるという理屈であります。しかし工事用道路トンネルの建設それ自体で、かなりの数の車両が通行するはずですよね・・・??
JR東海の試算では、一月に4000台以上の車両が通行することになるとされています。数字の意味がよく分からりませんが、単純に一月の作業日数を28日として割れば、一日平均143台となります。トンネルは二方向から掘るでしょうから、片側の坑口で、それぞれ70台程度の車両の出入りがあるのでしょうか?
ところで現在、長野・静岡県経で三遠南信自動車道というものが建設中です。その環境影響評価書が公開されているのですが、同じくらいの断面積のトンネル建設がメインの事業であるものの、工事用車両の通行台数は最大で往復60台/日としています。
(長野県庁ホームページ)
http://www.pref.nagano.lg.jp/kankyo/kurashi/kankyo/ekyohyoka/hyoka/tetsuzukichu/aokuzuretoge/hyokasho.html
http://www.pref.nagano.lg.jp/kankyo/kurashi/kankyo/ekyohyoka/hyoka/tetsuzukichu/aokuzuretoge/hyokasho.html
それと比較すると、リニアの工事用道路トンネル建設の場合でも、通常の道路建設と同等の工事車両が必要になりそうに思えます。
工事用道路トンネルを建設しない場合、より多くの車両が地上を通行することになります。その状況よりは確かにマシなのでしょうが、これで果たしてワシ・タカ類への影響を低減できるのでしょうか。
さらに作業工程上も不審です。
JR東海は、このトンネル建設に3年をかけるとしています。それから本線トンネルに続く斜坑(非常口)を掘るとすれば、斜坑掘削開始は早くとも2021~22年頃となり、2027年名古屋開業には間に合わなくなります。
となれば、斜坑の掘削は工事用道路トンネル建設に並行して進める必要が出てきます。斜坑の断面積は工事用道路トンネルと同程度であるから、車両の通行台数は2倍となってしまいます。
次の添付図表6をご覧ください。
添付図表6 工事用道路建設時における発生土運搬車両の流れ
二軒小屋ロッヂの前は、工事用道路北口・西俣非常口と燕沢発生土置場とを行き来する車両が通行することになります。さらに千石非常口と燕沢平坦地との間は、4つの坑口とを行き来する車両が集中することとなります。本坑に着手する前から、大量の車両が通行することとなります。しかし、この部分での通行台数は明らかにされていないので、影響の程度を推し量ることさえできません。
●河川流量への影響が予測されていない
このトンネルは西俣に注ぐ悪沢という河川と交差します。北坑口が標高約1550m、南坑口は1400mぐらいとみられるから、勾配から判断して、悪沢での土被りは40m程度しかないとみられます。これは山梨実験線で水枯れを引き起こした箇所よりも小さく、流量の減少が懸念されるところです。
もしも悪沢の水をトンネルに引き込んでしまった場合、悪沢下流部の河川環境に影響を及ぼすだけでなく、西俣に注ぐべき水が、トンネルを伝って南坑口へ流れ去ることにもなります。
環境影響評価書では、西俣は本坑・先進坑・斜坑の掘削によって大幅に流量が減ると予測されています。その減ると予測される区間に合流する悪沢の流量が工事用道路トンネルによって減れば、西俣の流量もさらに減ってしまうでしょう。生態系だけでなく、この部分に存在する東京電力田代ダムにも影響を及ぼすことになります。
ところが事後調査報告書では、工事用道路トンネルの建設による河川流量への影響を取り扱っていないのです。
これは不審といういとで、先に県知事に提出された静岡市市長意見でも、工事用道路トンネル頭上の沢について、きちんと調査するよう求められています。
●残土が増える
断面積が50㎡、長さ4000mとすれば、残土の量はおおよそ30万立米に達します。ただでさえ大量の残土処分で大きな環境破壊や土砂災害の懸念が生じているところへ、さらに残土を増やす。
ダンプの通行による環境負荷は、通行さえ終われば収拾がつきますが、残土は永久に消えることが無い。万が一、重金属でも出てくれば処分に四苦八苦してしまう。
環境負荷が、予期される保全措置を上回っているように思えるのですが・・・?
そんなこんなで、環境保全措置としては「なんだかおかしな話だよなあ~」と思うのであります。
”環境保全措置”などとデタラメなことなど言わず、素直に「工事に必要な道路だから環境負荷もやむを得ない」としておいたほうが、まだ筋が通っています。
そもそも、環境保全のためとして二軒小屋ロッヂ付近を迂回するトンネルをつくる必要性と財力があるのなら、こんな山奥よりも、大鹿村中心部など生活環境に深刻な影響を及ぼしかねない場所こそ、迂回トンネルを設けるべきでしょう。