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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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南アルプス河川流量調査は何のためだったのか?

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リニア計画にともない、静岡県を流れる大井川などの河川流量や、トンネル周辺での地下水位に悪影響を及ぼすことが懸念されています。

環境への影響を回避するのであれば、早期に問題点を見つけ出して対策を練っておくのが基本。後々になって考え出したところで、根本的な解決策を生み出すのは不可能に近い。

それではいつごろから懸念が共有されてきたのでしょう・・・?

大井川の問題もさることながら、今回、南アルプス山梨県側の巨摩山地を中心に考えたいと思います。ここは手続き上の問題が凝縮されているように見えるのです。


イメージ 1

南アルプスの東側を占める山梨県の巨摩山地。

リニア中央新幹線はここを第一~第四南巨摩トンネルで貫きますが、途中で大柳川などいくつかの河川をくぐり抜けます。また上水道の水源地帯でもあります。したがって周囲の水環境に大きな影響を及ぼすおそれがある。

それにも関わらず、環境影響評価ではマトモに扱われてきませんでした。データを持ち合わせていなかったわけではなく、それどころかアセス開始以前にデータを取得していたのに、なぜかアセスではその事実を伏せていたようです。

そういう不審な話です。

以下、時系列で出来事を並べます。紫色が全国新幹線鉄道整備法(以下:全幹法)に基づく事項、赤色が環境影響評価法(以下:アセス法)に基づく事項です。


2000年(平成12年)
運輸省より鉄道総研、JR東海、鉄建機構に対し、東京-名古屋間の地形・地質等の調査を指示。(全幹法第5条)
この指示はそれまでにも何度か出されている。

2006年(平成18年)
1月1日
大井川上流に位置する東京電力田代ダムの水利権更新。同ダムから年間を通じて環境維持放流がなされることとなった。それまで静岡・山梨両県、国、地元自治体、電力会社による大井川水利流量調整協議会による協議が続けられてきた。

同年”豊水期”以降
鉄道総研、JR東海、鉄建機構のいずれかが巨摩山地一帯と大井川流域において河川流量調査を実施運輸大臣指示による地質・地形調査の一環だという。ただしその事実が公表されたのはずっと先のこと

2008年(平成20年)
国土交通大臣に地形・地質調査報告書が提出される。 

2010年(平成22年) 
2月24日
前原国土交通大臣から交通政策審議会へ諮問。鉄道部会中央新幹線小委員会が発足。審議を開始
7月2日
第5回中央新幹線小委員会。静岡県の川勝平太県知事が出席。県として南アルプスの地質調査や河川法上の認可に協力する意向であると発言。大井川の環境保全については特に言及せず。
 
イメージ 5
第5回中央新幹線小委員会 静岡県提出資料 
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/tetsudo01_sg_000074.html 

10月20日
第9回中央新幹線小委員会。当時候補に挙げられていたA,B,Cの3ルート案について環境面からの審議。水環境については、著名な湧水、河川類型についての情報を並べただけであり、河川流量や利水についての検討はなされていない。
イメージ 6
第9回中央新幹線小委員会配布資料より複製 

12月15日
中央新幹線小委員会が中間取りまとめ案を公表。南アルプスルートが妥当とする内容

2011年(平成23年) 
5月20日
大畠国土交通大臣はJR東海を中央新幹線(東京-名古屋市間)の営業・建設主体に指名。(全幹法第6条)
同年5月26日
中央新幹線の整備計画が決定。(全幹法第7条)
5月27日
大畠国土交通大臣はJR東海に中央新幹線(東京-名古屋市間)の建設を指示。 (全幹法第8条) 
6月7日
JR東海は計画段階環境配慮書を公表(長野県を除く)。ただし環境影響評価法に基づくものではなく、JR東海による自主配慮という取り扱い。また、この時点では、南アルプス一帯で既に流量調査に着手していたことは明らかにされていない。
9月27日
JR東海は環境影響評価方法書を公表(アセス法第5条)。この時点でも、南アルプス一帯で既に流量調査に着手していたことは明らかにされていない。

2013年(平成25年) 
9月18日
環境影響評価準備書が公表される(アセス法第14・15条)。大井川において流量が大幅に減少するという試算結果が公表される。ただし、この時点でも既に流量調査が開始されていたことは明らかでない。また巨摩山地一帯での試算結果は全く掲載されていない。

2014年(平成26年) 
1月18日
巨摩山地に位置する山梨県富士川町は準備書に対する町長意見を県知事に提出(アセス法第20条第2項)。意見書の中で、町内の南川、大柳川および上水道水源地帯についての準備書での記述が不十分であるとして、さらなる調査を要望。

3月20日
山梨県知事意見がJR東海に送付される(アセス法第20条第1項)。この中で南川、大柳川について、トンネル工事に伴う流量への影響予測を行い評価書に記載するよう求めている。また、富士川町内の温泉についても「予測を実施する旨を評価書に記載すること」と要望している。
4月23日
JR東海は環境影響評価書を国土交通大臣に送付(アセス法第22条)。山梨県知事意見で求められた南川、大柳川に関する事項については「準備書に書いてある通り」とする内容であり、実質的に無回答。
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山梨県編 環境影響評価書「山梨県知事の環境の保全の見地からの意見及びそれについての事業者見解」より複製・加筆  
7月18日
環境影響評価書に対する国土交通大臣意見がJR東海に送付される(アセス法第24条)。トンネル工事実施までに巨摩山地一帯における水収支解析を行うよう求めている。

8月26日
JR東海は国土交通省に対して事業認可の申請を行う(全幹法第9条)。
8月29日
JR東海は環境影響評価書を公告(アセス法第27条)。 大井川流域において、平成18年時点で河川流量を観測していたことが初めて明らかになる。
イメージ 3
静岡県版 補正評価書より複製 
建設指示の出される前の平成18年から一部で流量調査を開始しており、平成19年以降は、登山道すらない山奥(魚無沢、瀬戸沢など)での調査も実施している。 
 
10月17日
太田国土交通大臣は中央新幹線整備事業を認可(全幹法第9条)

2015年(平成27年) 
12月24日
JR東海は山梨県巨摩山地における水収支解析結果を公表。ここで初めて、平成18年時点で流量観測を行っていたことが明らかになる
イメージ 2
「巨摩山地における水収支解析」より複製 


2016年(平成28年) 
1月30日
JR東海は第四南巨摩トンネル西工区新設工事の公募競争見積方式について公示。
7月21日
JR東海は第四南巨摩トンネル西工区新設工事について、西松建設・青木あすなろ建設・岩田地崎建設からなる企業共同体(JV)と契約を結んだと発表。



要するに、

【疑問1】
国は早い段階で、南アルプスのトンネル工事においては、河川流量についてのデータが必要と判断して、全国新幹線鉄道整備法に基づき、事業主体になるであろう諸機関(国鉄、JR総連、鉄建機構、JR東海)に対して、調査を命じていた。

それにもかかわらず、南アルプスルートを選定した際、河川流量の調査が既に開始されていたことは明らかにされなかった。また、国が南アルプスルートを選定した際、その時点で入手していた南アルプス各地の河川流量データをどのように考慮したのか定かでない。

ルート選定段階で、国として南アルプスの河川流量とトンネル工事遂行との間に何らかの関係があると予見していることを公の場で明らかにしていれば、関係する市町村等が意見を提出し、適切なルートないしトンネル構造での計画決定をすることが可能であったかもしれない。

【疑問2】
山梨県知事意見では、巨摩山地についてトンネル工事による河川流量等への影響予測結果を評価書に記載するよう要望していた。しかしJR東海は試算結果を評価書に記載せぬまま評価書を作成。国土交通大臣意見では、改めて巨摩山地について試算を工事実施前までに行うことを指導。結局、事業認可から1年2ヵ月を経て結果が公表された。

県知事意見は無視したが、一応、国土交通大臣意見には従っている。しかし流量についてのデータは平成18年から取得していたはずだから、準備書ないし評価書において試算結果を記載することは可能であったはずである(大井川の河川流量試算結果は準備書に記載)。つまり、通常のアセス手続き内で巨摩山地の流量予測を検討することが可能であったのに、なぜかJR東海は避けていたこととなる。

【疑問3】
国土交通省はJR東海から平成20年に地形・地質調査報告書を受け取っているのだから、JR東海が早い段階から南アルプス一帯で河川流量のデータを所有していることは把握していたはずである。それならば、評価書の補正作業において、巨摩山地一帯での水収支解析を行わせることも可能だと判断できたはずである。つまり事業認可後にまで試算結果開示を遅らせる理由は希薄ではなかったのか。

【疑問4】

静岡県知事は、ルートが決まる前の平成22年5月の段階で、大井川での河川法上の許認可に協力する旨の発言をしている。関係者の間では、すでに南アルプスルートを選定することが共有されていたこととなる。それならば、その段階およびアセスの早期段階で南アルプス一帯での河川環境について検討することは可能であったはずである。

また、大井川の下をくぐり抜けることを承知しておきながら、大井川の流量保全について全く言及しなかったのは不自然である。




河川流量調査とは、河川環境を保全するためには全く使われてこなかったと思います。これが適切な環境影響評価であったのか・・・?




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