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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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なぜ巨摩山地での水資源予測は事業認可後まで先送りOKだったのか?

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前回のブログの続きです。

リニア計画における水資源問題というと、大井川の問題がクローズアップされており、ブログ作者も静岡県在住ということで頻繁に取り上げています。けれどもこれまでの手続きという点では、山梨県の巨摩山地一帯のほうが、問題があるんじゃないかと思います。

【要旨】
評価書に対する国土交通大臣意見では、巨摩山地における水資源への影響予測をトンネル工事実施前に行うことを求めた。しかし地元では、影響予測の結果は評価書に記載するよう求めていたのであったのだから、そんなに遅らせることは不自然である。

国土交通省はJR東海から平成20年に地形・地質調査報告書を受け取っているのだから、JR東海が早い段階から南アルプス一帯で河川流量のデータを所有していることは把握していたはずである。南アルプストンネルについては、このデータをもとに試算がなされ、準備書に結果が公表された。

巨摩山地のデータも、同じ期間に取得して国に報告しているのである。それならば、評価書の補正作業において、巨摩山地一帯での水収支解析を行わせることも可能だと判断できた可能性がある。つまり早い段階での試算結果公表を望む地元の声を無視したうえ、事業認可後にまで試算結果開示を遅らせる理由は希薄ではなかったのか。  

この意見書についてもう少し考えてみたいと思います。
イメージ 1
国土交通大臣意見と事業者の見解 補正評価書より  

事業の許認可を与える者(この場合国土交通大臣)は、「対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない」と定められています(環境影響評価法第33条)。第二十四条の書面とは、リニア事業の場合は、評価書に対する国土交通大臣意見になります。

事業、つまりトンネル建設等によって巨摩山地一帯の河川流量や地下水位等に大きな悪影響を及ぼしかねない懸念があることは、準備書に対する県知事意見の段階で表明されました(さらに遡れば富士川町長意見による)。そして県知事からはそれを評価書に記載するよう要望されていました。
イメージ 2
準備書に対する山梨県知事意見 
巨摩山地に関わる部分を複製 

ところがJR東海は、評価書においては全く答えなかった。

環境省はその評価書についての審査を行った結果、「事業着手までに試算すること」という環境大臣意見が国土交通大臣に出されることとなります。

そして国土交通大臣意見では、その文面がそのまま踏襲されることとなりました(冒頭)。

ここに大きな疑問というか、疑念があります。

元々、山梨県知事意見では「結果を評価書に記載すること」としていたのに、なぜか国が審査した後の国土交通大臣意見では、「トンネル工事実施前に」というように、情報公開をギリギリまで遅らせてよいこととしたのです。

なぜ、結果公表を着工直前にまで先送りさせることが許されたのか?

「トンネル工事実施前に」という表現は、環境大臣意見で先に用いられています。すると環境省が猶予を与えたかのように見えるけど、ちょっと事情が違うかもしれない。

環境省が評価書の審査を行ったのは2014年の5月頃です。

法律上、環境省は、評価書の文面について審査を行っていることとなっています。その評価書記載事項だけでは、巨摩山地での水環境のデータがどれだけ集まっているか定かでありません。アセス開始が2011年秋であったから、この時点ではまだ2年半程度しか経っていないので、評価書の文面だけだと、この程度のデータ蓄積では試算に使えないと判断した可能性があると思います。

だから環境省の立場としては、試算を行うために必要なデータが揃うまで観測を続けさせること、つまり「工事着工までに」という、猶予を与えるかのような意見になってしまったということは、考えられなくもないと思います。

ところが国土交通省の場合は事情が異なります。

河川流量の調査は旧運輸大臣の指示に基づいたものだそうです(静岡市における準備書説明会でのJR東海の説明)。そして、その結果は国土交通省に提出されているのですから、国土交通省としては、調査内容を全て把握しているはずです。

つまり国土交通省は、少なくとも2006年以降のデータ蓄積があることを知っていることになります。

ここで大井川のデータに目を向けます。
イメージ 3
静岡県版 環境影響評価準備書資料編より複製   

大井川では、28の調査地点のうち4地点では2006年から調査が続けられており、12地点は2007年から続けられています。アセスの始まった2011年以降に改めて調査を開始した地点は9地点でした。

この結果をもとにしてトンネル工事に伴う河川流量への影響を試算し、2013年9月の環境影響評価準備書に掲載することとなりました。その結果、本流においては年間平均で2㎥/sもの流量減少が予測され、大騒ぎとなりました。なお準備書では、大井川だけでなく、同じく南アルプストンネル近傍となる山梨県側の内河内川、長野県側の小渋川水系についての予測結果も掲載されました。

つまり南アルプスにおいては、2006/2007年から2012年にかけての6~7年のデータ収集で流量予測ができたこととなります。

この事情は補正後の評価書、つまり環境省審査後になって明らかにされたことなので、環境省としては知らないことかもしれない。けれども国土交通省は知っていた可能性が高い。

さて巨摩山地でも、大部分の地域は2006年からデータが集められていました。また、水収支解析に必要となるであろう地質データについては、準備書に記載されていましたから、その時点で取得していたと思われます。
イメージ 4


したがって評価書どころか、その前段階の準備書を作成した時点で、試算を行うための準備は整っていた可能性があります。そして国土交通省はそのことを把握していたはずです。ここが環境省とは違う。

ではなぜ、予測結果の公表を補正評価書ではなく、「着工まで」と、かなり時間的猶予を与えてしまったのでしょうか?


冒頭に示したように、環境影響評価法第33条では、事業の認可にあたって、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならないとしています。

けれども一連の流れでは、巨摩山地一帯の水環境について、適正な環境配慮を行えるための情報を公開させる前に、「適切に配慮すればよろしい」とのお墨付きを与えて事業認可したようにも受け取れます。シロウト考えですが、法律の主旨から逸脱しているように思えてしまいます。

巨摩山地での水環境への影響予測とは、もともとは地元の懸念に端を発しているのだから、国土交通省としては地元の懸念より、リニア整備――JR東海の事情?――を優先したともとれます。

・・・はやりの言葉で言えば、「特例」ってヤツでしょうか?






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