何度も繰り返しているけど、リニア中央新幹線は、東海地震等への備えとして、東京-名古屋-大阪の交通を二重系統化することに整備目的があるらしい。
東海道新幹線は、その沿線の大部分が、東海地震を想定した法律”大規模地震対策特別措置法”により指定された”地震防災対策強化地域”を通っている。この範囲内では、東海地震により震度6弱以上の強い揺れが起き、大きな被害がでるおそれがあることから、様々な事前対策を講じておく必要があるとされている。
また東海地震は予知を行える可能性があるとして、警戒宣言等が発令された際の対策を定めておくことも決められている。これは科学的・社会的に予知が可能か否かは別問題として、そういうルールが定められている、ということでご理解いただきたい。
よく分からないのが、リニア中央新幹線の整備目的と、この地震防災対策強化地域との整合性である。
地図を見ても明らかな通り、リニアのルートも大半が地震防災対策強化地域内である。
また最近になり、大規模地震対策特別措置法の対象を南海トラフ全体に拡張する方針で議論が進められている。実現されれば、近畿地方南部のほとんどは地震防災対策強化地域に指定されることになるだろう。
かたや基本計画としての中央新幹線は、名古屋以西では三重~奈良~大阪とつなぐこととなっている。すると東海道新幹線よりも南海トラフ地震の震源域に近いところを通過することとなるから、東京~名古屋~大阪の大部分が地震防災対策強化地域に含まれることになるに違いない。
すると矛盾が生じるのである。
現時点でJR東海は、警戒宣言が発令された場合には、東海道新幹線について地震防災対策強化地域への列車の進入を停止するとしている(厳密に言えば震度6弱以上の揺れの想定される区間)。
この方針をそのまま将来のリニア中央新幹線にも踏襲するのであれば、もしも東海地震警戒宣言が発令された場合、リニアは東京-名古屋で運休することとなる。
そして”南海トラフ地震警戒宣言”なるものが発令された場合について、杓子定規に考えれば、東京-大阪の全区間で運休せざるを得なくなるはずである。奈良経由であろうが京都経由であろうが、名古屋~大阪の大部分で震度6弱以上の揺れが想定されているからである。
ちなみに愛知県から三重県にかけてでは、液状化リスクが高いうえ津波浸水も想定されている。
もしも警戒宣言発令時にリニアを運休させるのであれば、そこには運休せざるを得ない理由がある、すなわち大きな事故や被害の起きる可能性を想定しているのだから、JR東海が自ら掲げた「二重系統化」を否定することとなってしまう。
ところで先日(6/2)、「大地震が発生して東海道新幹線のトンネル付近で土砂が崩れた」という想定で避難訓練が行われた。
下り新幹線が熱海-三島間を走行中に県内を震源とする大規模地震が発生し、トンネル出口で崩落した土砂上を通過して緊急停車したとの想定。乗客役は誘導係の指示のもと、避難はしごで列車から降り三島駅までの約1キロを歩いた。高齢者など歩行困難な乗客は保守用車で送り届けた。…
三島駅まで1㎞を歩いて逃げられる想定らしい。
けれど、リニアの南アルプストンネルならどうするんだ?
かつて、静岡県の審議会でこんな質疑がおこなわれていたのだけど、これでは周辺自治体にとっては余計な災害リスクを抱えることに他ならないのである。地震発生時の混乱した状況下で、おそらく道路も寸断されるだろうに、どうやって救助しに行くんだ?
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”加計学園疑惑”で、文部科学省の元事務次官だった前川氏が述べておられるように、リニア計画においても行政手続きがゆがめられているんじゃないか?と思うことが多々ある。その一端が、この”東海地震対策として必要”という主張である。
実際に避難や救助が困難であるだろうし、法制度上のうえでも矛盾があるように見えてしかたがない。
この主張は、ことあるごとに繰り返されているし、それを根拠にリニア計画は”国土強靭化計画”なるものに組み入れられ、そのうえ財政投で3兆円を融資することまで決まってしまった。
しかしその割には
●東海地震発生時に東海道新幹線にどのような被害が生じると想定しているのか?
●リニアがどう地震対策として役立つのか?
●東海地震発生時にリニアのルートはどうなるのか?
といった、しごく基本的なことが全く示されていない。本当に役立つのかどうか分からないのに、何も検証せずに国策として進めることを決定しちゃったのだから、そこには行政のゆがみがあるんじゃないか?と勘ぐってしまうのである。
もっとも財政投融資の決定は国会審議を経ているのだけど。。。