参議院選挙が終わり、衆参両議院とも自民・公明党が過半数を獲得することとなりました。自民党が推し進める、総額200兆円の国土強靭化計画の一環として、リニア計画のような巨大プロジェクトにとってはまさに追い風といったところなのでしょう。
でも同時に自民党はTPP参加にまっしぐら。たしかTPPの交渉項目には、日本国内の公共事業に海外企業の参入を容易にするといったことがあったように記憶しています。そうなれば、今までどおりのバラマキ型が国富の海外流出につながる可能性も出てくるわけですので、いったいどうなることやら。
→日経新聞
さて、リニアの話でございます。
「リニア計画の様々な問題は国土交通省中央新幹線小委員会というデタラメな審議会に起因する」ということを何度もこのブログで強調しました。ところが、よくよく調べてみると、この委員会がデタラメになっていた以前に、その前に設置されていた別な審議会がそもそもいい加減だったのではないかと感ずるようになりました。
リニア中央新幹線の計画に先立ち、超電導リニア技術の実用性を審議する専門家会議として、「超電導磁気浮上式鉄道技術評価委員会」というのが平成16~21および23年度、国土交通省に設けられました。
「山梨実験線での走行実験結果をもとに、超伝導リニア技術が実用化の域に達しているかどうかを見定める」という位置づけだったようです。
こちらが超電導磁気浮上式鉄道技術評価委員会のページになります。
とはいえ、この委員会についての説明は「超電導リニアの実用化に向けた総合的な技術評価を行う。」というただ一行のみ。実態が全く分からない審議会です。上のURL先には資料のようなものもがPDFファイルで掲載されていますが、それが審議会の結果としてまとめられたものなのか、それとも審議会のために用意された資料なのか、それすら不明です。議事録もありません。
どういう人選なのかも分かりませんが、この点をお調べになった「東濃リニアを考える会」様のブログによれば、鉄道関連の専門家(しかも東大関係らしい)で固められているとのこと。
この技術評価委員会が「実用化の域に達した」と評価したことがJR東海のリニア計画へのお墨付きになりました。でも本当に真剣な審議の結論だったのでしょうか?
ちょっと中身を見てみましょう。
以下、平成21年度の委員会資料について記述。
騒音や微気圧波(トンネル進入時に発生する衝撃波)については緩衝工の改良によって克服できると書いてあります。
あるいは、トンネル進入時の大きな音(微気圧波)については、長さ150mの緩衝工を設ければ対応可能と書いてあります。
それを受けて結局のところ、中央新幹線の明かり区間は全てコンクリート壁で覆われることになりました。甲府盆地や伊那谷の場合、高さ20mの位置に延々20㎞もの巨大土管を造ることになってしまったわけです。目の当たりにする多くの人々にとっては、すなからず違和感を感ずる構造物だと思いますが、何の異論もでなかったのでしょうか?
このようなことは、「専門家」の方々ならリニアの特性上ある程度は予見できたはずです。それにもかかわらず全く疑問視されなかったとしたら、あるいは異質な構造物を生活空間に造ることになんのためらいもないのだとしたら、それは一般市民の感覚とかけ離れているんじゃないのかな?
資料[2]のp30~31には「万一の異物衝撃に備え、車両先頭部に排障(緩衝)装置を装備」なんて書いてあります。
だけどリニアはガイドウェイにスッポリはまって走行しているから、普通の鉄道のように排障装置(いわゆるスカート)で障害物を横に押しのけることは不可能なように見受けられます。停止するまで押し続けたり、あるいは乗り上げてしまうことが避けられないのではないでしょうか。
そもそも最高時速505キロ、秒速140mなのですから、ぶつかった時の衝撃は現行新幹線の比ではありません。その際、通常の新幹線よりも軽量素材の車体という条件で、どの程度の衝撃まで乗客の安全が確保されるのか、どういう緩衝装置をつければよいのか、そういったことは(表向きには)検証されていないのに、なぜ堂々とこのような文章を書けたのでしょう。
極め付きはこれ
資料[2]p.31を見ると「火災発生/検知時には、減速として次の停車場又はトンネル(緩衝工、明かりフード区間含む)の外まで走行して停止し、非難する。」とあります。
この審議会の時点で「ほとんどがトンネル、明かり区間もほとんどフード」ということは分かっていたでしょうに、こんな文章を書いていておかしいと思わなかったのでしょうか?
その他、実験線建設当初より問題視されていた電力消費に関する記述、様々な自然破壊を助長する「曲がれない」というリニアの特性についても全く触れていません。
すなわち、フツーの感覚では、「それってどうなのよ?」と疑問に感ずるような種の疑問は、ここの検討過程では無視されてしまっていたかのようなのです。
鉄道の専門家ばかりではなく、せめて他分野の専門家が加わっていれば、この検討過程には違和感を覚えていたかもしれません。たとえば景観やデザインの専門家なら「巨大土管」には違和感を覚えるかもしれませんし、環境アセスメントや自然環境の専門家が加わっていれば「曲がれない」という制約を実用化することに疑問を抱いたかもしれません。
環境影響評価制度なら、事業者作成の方法書に記載された調査項目・手法に対し、住民・自治体意見が出され、調整してゆく過程が組み込まれています(この過程をスコーピングという)。一応は、国民の意見を聞く、あるいは外部の専門家が意見を出す機会が、建前上とはいえ法的に設けられているわけです。
だけどこの超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会においては、国民の抱く疑問も、他分野の専門家の声を聞く機会も皆無。官僚&官僚の選んだ偉い学者様という閉鎖空間なのでした。
この技術評価委員会の審議結果については、妥当なものであったのかもしれません。詳細な内容に逐一突っ込むほどの知識も持ち合わせておりません。しかし、地球上に前例のないものを「実用化」して、大きな構造物を造って多くの人々を乗せる計画であるのならば、その評価過程はオープンなものにして広く意見を求めるべきだったんじゃなかったのでしょうか。
まあ、今さら言っても後の祭りですが。