先日24日、静岡新聞朝刊にあった小さな記事です。
「リニア整備と空港新駅設置 県、JRにウィン・ウィン 県議会で知事、持論展開」
とあります。
とあります。
要点をまとめますと…。
川勝県知事には、赤字に苦しむ静岡空港の乗客増加の切り札として、空港直下を通る東海道新幹線のトンネルに、空港直結の駅を造ろうという構想がある。それはリニア開業後にダイヤに余裕ができれば可能であり、知事自ら、個人的にJR東海の葛西会長とも話をしている。
といったところです。
確かに空港直下に新幹線の駅があれば便利でしょう。
でも、た~くさんの「」があります。
既存のトンネルを拡張して駅を造る方針なのでしょうか?
地下鉄でも、営業中の路線に新駅を設置したという話はあまり聞きません。ちょっと考えただけでも、様々な障害があります。
第一の問題として、どうやって工事をおこなうのでしょう。
270㎞/hで列車が営業運転しているトンネルの幅を広げることなど可能なのでしょうか。浅い地下鉄の場合なら掘削工法といって、いったん上から掘り下げて駅をつくり、再度埋め立てる方法をとることができますが、空港新駅の場合は深さが50m以上あり、この手段はとれません(そもそもトンネルの真上が営業中の空港ですから不可能)。馬鹿でかいボーリングマシンで既存トンネルの横を掘っていくことも可能かもしれませんが…。
第二の問題として、風圧対策があります。
トンネル内は風の行き場がありませんから、列車が高速で通過すると、ものすごい風圧が生じ、横で停止中の列車が脱線する可能性があります。
東北新幹線を青函トンネルに通す際に、停止中の貨物列車の横をどう通過させるかで問題視されている事項です。これを回避するためには、トンネルの幅を広げたうえで、各線路を分離するための強固な壁を築くか、あるいは通過車両を減速させねばなりません。青函トンネルの場合は後者の手段をとり、新幹線を160㎞/hまで減速させることになりそうですが、東海道新幹線の場合は不可能でしょう。この駅に用のない列車が、わざわざ減速するメリットは皆無ですし、乗客から不満が出るのも確実。
第三の問題として、勾配の問題があります。
地形図を見ると、島田側の標高は60m、菊川側の標高は80~90mとなっています。長さは1750mほどですので、14パーミルの勾配となっています。14パーミル勾配というのは100mで14cmの勾配ですので、長さ400mの新幹線の場合、先頭と最後尾で50cm以上の高度差が生じることになります。
これでは停まれません!
すなわち、これらの問題を一挙に解決して空港直下に新駅を設けるためには、既存のトンネルの両側に新たな空港駅専用のトンネルを造るぐらいしか手段がないように思われます。
この場合、いくらかかるのでしょう?
現在の整備新幹線の1㎞あたりの建設単価は約69億円とのこと。もし既存トンネルの前後から分岐する新線を2㎞つくったら約140億円となります。さらに駅のホームをつくったり地上までの通路をつくったりすれば、数百億円に達するのでしょう。
空港の建設費2500億円が、さらに1割増しになってしまいます。
仮に完成したとしても…
この空港新駅、これだけの費用をかけても、利用者は空港利用者、それもマイカーを利用しない人に限られます。そうなると極めて利用者は少なくなります。
静岡空港の平成24年度年間利用者は約44万6755人。1日平均1224人。
仮に空港新駅による利便性向上により、空港利用者が県の当初目標142万人に達したとすれば1日平均3890人。全てが新駅を利用するとしても、これは東海道線の六合駅の1日利用者の半分にすぎません。ちなみにリニア中央新幹線の甲府新駅や飯田新駅よりも少ない…。
赤字空港のために、赤字になりかねない新駅を造るの…?
私自身のもつ違和感は、さらに別なところにあります。
この記事だけでなく、過去の記事(2011年5月18日の静岡新聞記事※)を参照すると、静岡市北部つまり南アルプスでの大工事に静岡県側が協力する見返りに、空港新駅を造ってほしいという構想なのだそうです。
空港の赤字解消(できるとは限らない)のために南アルプスを差し出す…?
どーにも納得がいかない。
県知事が、議会とは関係もなくJRの会長と勝手に話を進めている(?)という点も疑問。公共事業に関して自民党議員に問われるというのもヘンな話。
確かに、静岡空港構想を打ち出したのは前々知事で、建設したのは前知事であり、その責任を現在の知事に負わすのは酷な話ですし、どうにかしなければならないという立場はよ~く理解できます。しかしながら、南アルプスという重要な場所での大工事を、軽々に口約束のようなかたちで認めてしまうというのもおかしな話です。世界遺産富士山をかかえる自治体のトップが持つ、自然環境保全に対する認識というのはこんな程度なのですかな?
※リンクが切れているので概要を以下に記載
静岡県の川勝知事と静岡市の田辺新市長とが会談し、南アルプスのリニア中央新幹線トンネルの調査・工事に全面的に協力することで一致。また作業用道路を観光用道路として活用できるようJR側に要請することで一致。静岡市北部の観光拠点にしたい考え。さらにはトンネル工事の土砂を活用する方針を表明。