先日、中央アルプストンネルの計画されている長野県南木曽町において、同県が設けた水資源対策についての審議会が現地視察を行ったという報道がありました。
(7/6 信濃毎日新聞より一部転載)
JR東海のリニア中央新幹線中央アルプストンネル(延長23・3キロ)建設を巡り、掘削工事が木曽郡南木曽町妻籠の水道水源に与える影響を審査する県環境審議会の専門委員会が5日、現地を視察した。その後、町役場で2回目の会合を開き、「町、JRの双方から出ているデータでは、トンネル工事によって水源の渇水が起きるかどうかを判断できない」として資料の追加提出を求めた。
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170706/KT170705ATI090024000.php
JR東海のリニア中央新幹線中央アルプストンネル(延長23・3キロ)建設を巡り、掘削工事が木曽郡南木曽町妻籠の水道水源に与える影響を審査する県環境審議会の専門委員会が5日、現地を視察した。その後、町役場で2回目の会合を開き、「町、JRの双方から出ているデータでは、トンネル工事によって水源の渇水が起きるかどうかを判断できない」として資料の追加提出を求めた。
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170706/KT170705ATI090024000.php
この妻籠地区の水源となっている地区については、長野県水環境保全条例により、水資源に影響を与えかねない行為を制限することとなっています。
(長野県庁のHP)
http://www.pref.nagano.lg.jp/mizutaiki/suidousuigen.html
長野県水環境保全条例に基づき、知事が指定した水道水源保全地区内において、次の行為をしようとする場合には、知事に協議し、その同意を得る必要があります。
http://www.pref.nagano.lg.jp/mizutaiki/suidousuigen.html
長野県水環境保全条例に基づき、知事が指定した水道水源保全地区内において、次の行為をしようとする場合には、知事に協議し、その同意を得る必要があります。
・ゴルフ場の建設
・廃棄物最終処分場の設置
・土石類の採取その他の土地の形質の変更で、変更に係る土地の面積が1haを越えるもの
・廃棄物最終処分場の設置
・土石類の採取その他の土地の形質の変更で、変更に係る土地の面積が1haを越えるもの
ところで水資源を大事にしなければならない地区でありながら、JR東海はどうもおかしな進め方をしているように思えるのです。
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個人的に見て主な不審点は3つ。
①妻籠地区の環境保全計画が決まる前に着工を宣言
中央アルプストンネルは長野・岐阜県境をまたいでいます。行政区分でいうと、東から飯田市、阿智村、南木曽町が長野県側で、西坑口に近い部分が岐阜県中津川市となっています。
複数工区に分けて工事契約がなされており、南木曽町は長野県に属するのですが、そのうち妻籠地区の地下は、岐阜県中津川市の山口地区から掘る計画となっています。
さてJR東海は、工事を開始する前には、地元向けに環境保全の内容について報告すると公約しています。
岐阜県中津川市山口工区については、JR東海が今年5月31日に『中央新幹線 中央アルプストンネル(山口)工事における環境保全について 平成29年5月』という書類を公表しています。
この書類におかしな点があります。
タイトルは『中央新幹線 中央アルプストンネル(山口)工事における環境保全について 平成29年5月』となっています。
以下にコピーして貼り付けてありますが、赤線部分には「環境影響評価書【岐阜県】に基づいて・・・」と書いてありますよね。つまり、この書類は岐阜県版の環境影響評価書に基づいて作成されたわけです。
しかし青い線を引いた工事場所の項目には「岐阜県中津川市地内及び長野県木曽郡南木曽町地内」となっています。
ならば、「長野県木曽郡南木曽町地内」の環境保全計画はどうなっているのでしょうか?
煩瑣になるため掲載は省きますけど、水資源モニタリング計画では、南木曽町側の監視地点を●で示してあります。けれども、そこで行われる調査方法や調査結果については、やはり岐阜県版の環境影響評価書に基づくとしか書いていません(4-11ページ)。
つまり、長野県側にまで工事を行うと宣言しているものの、この書類では長野県側での環境保全については触れていないこととなります。
②一方的に着工を宣言
冒頭記事でお分かりの通り、妻籠地区で工事を行うには、県知事の許可が必要です。それなのに、事実上の着工宣言というべき書類が岐阜県中津川市に送付されてしまった。
http://www.city.nakatsugawa.gifu.jp/news/047411.php
実際には、妻籠地区での工事許可を得る目途はたっていません。また、当然のこと地元の合意も得ていません。
おそらくJR東海の言い分としては、妻籠地区にまでトンネル工事が進むのは当分先のことであり、それまでに許可を得ればよいと考えているのでしょう。
けれども常識的には順序が逆じゃないのかな?
③環境影響評価書との整合性
評価書は県単位で作成されており、そこには、トンネルの工区設定も県単位でおこなうかのような表現がなされていました。
環境影響評価書での「工事計画」
当時は矢印の方向に掘削を行うとしていた。矢印は県境(=分水嶺)で途切れている。
しかし評価書策定後に行われた地元協議や工事入札において、妻籠地区での掘削は岐阜県側から行うことを表明。
ならば、実行可能な環境保全措置についても再検討されるべきではないでしょうか。
⇒具体的に考えると、例えば、水が枯渇した場合に代替水源をどうするか、という話につながる。流域界をくぐり抜けた工区を設定すると、工事中にポンプアップで表流水を補うという手法が使えなくなる。妻籠地区の水を抜いてしまった場合、湧水は岐阜県側に流出する。けれども妻籠地区まで貫通させるまでは、ポンプで汲み上げることすらできない。
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ところで、静岡県の大井川でも同じ状況となっています。
南アルプストンネル山梨工区についての書類『南アルプストンネル新設(山梨工区)工事における環境保全について 平成27年12月』では、工事場所は南巨摩群早川町新倉地内」となっているものの、添付された図によると、「今回の実施範囲」は県境をくぐり抜けて静岡県側にかかっています。縦断面図等から判断すると、静岡県側つまり大井川流域に1.2㎞ほどかかっているとみられます。
「南アルプストンネル新設(山梨工区)工事における環境保全について」より複製・加筆。中央アルプストンネルのように、「静岡県まで工事を行う」旨の文章表現はない。
同じく南アルプストンネル長野工区についての書類『中央新幹線南アルプストンネル新設(長野工区)工事における環境保全について 平成28年10月』では、工事場所は「長野県下伊那郡大鹿村大河原地内」となっています。けれども下の方の図によると、やはり今回の実施範囲は県境をくぐり抜けて静岡県側にかかっています。
静岡県側つまり大井川流域にかかっている部分は約0.7㎞程度とみられます。
静岡県内での本坑・先進坑は約11㎞ですが。そのうち2㎞程度つまり2割弱は、既に「着工」していることになるようです。
妻籠地区と同様に、山梨県側での”環境保全について”でも長野県側での”環境保全について”でも、大井川流域での保全については触れていません。
静岡県知事は、「大井川流域での湧水はすべて大井川に戻すこと」をJR東海に求めています。
けれどすでに無視されています。
これでいいのかな?