リニアへの3兆円融資が終了…云々というニュースが流れ、その記事にて
リニア中央新幹線の用地取得、残土処理はいずれも、地域住民に丁寧に説明し、理解を得ることが引き続き求められる。難工事が予想される南アルプストンネルなど、各工事はリスク管理も不可欠だ。
と書かれていますが、まさにそのリスクの話。
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このたび九州北部の豪雨により、福岡県と大分県を中心に大きな被害が発生しています。
気象庁の発表した特別警報は、”経験したことのないほどの豪雨が起こりうる”と形容されます。
それは、ある特定地点にとっては数十年に一度程度の低確率で起こるような豪雨、という意味合いであって、視野を日本列島全体に広げてみれば、同じような規模の豪雨は年に数回程度は起こりえます。だから特別警報が年に数回出されたとしても、必ずしも特異な異常現象ではありません(遭遇した方としてはたまったものではないけど)。
というわけで、今回と同じ程度――1時間に100㎜、半日程度で500㎜という豪雨――は、日本列島のどこで起きてもおかしくはない。
リニア沿線で大規模な発生土置場を計画している地点でも、そのことは頭に入れておく必要があるでしょう。
静岡市街地では、2003年、2004年と2年続けて半日で300㎜以上の豪雨に見舞われていますが、これも線状降水帯によるものです。この手の豪雨で最悪だったのが昭和49年の七夕豪雨。8時間で500㎜の雨が降り、市内の広い範囲が水没、土砂崩れも多発しました。
静岡県内で起きた線状降水帯(バックビルディング型)による近年の極端な豪雨事例としては、2010年の台風9号があげられます。
山陰近海を東に進み、熱帯低気圧に変わりながら福井県に上陸、東海地方を経て関東に抜けた。富士山南西麓から丹沢山地北西部にかけて線状降水帯が出現し、24時間降水量は500㎜を越える。10時間足らずの間に、静岡県小山町小山で490㎜、同町須走で686㎜、神奈川県山北町水ノ木では実に787㎜の降水量を記録。河川が氾濫、土石流が多発したが、幸いにも迅速な非難が功を奏し、人命には異常なし。
牛山素行・横幕季・貝沼征嗣(2012)「2010年9月8日静岡県小山町豪雨災害における避難行動の検証」
土木学会論文集B1(水工学)68-4 pp.1093-1098
http://disaster-i.net/notes/2012suiko.pdf#search=%27%E5%B0%8F%E5%B1%B1%E7%94%BA+%E6%B0%B4%E5%AE%B3%27
土木学会論文集B1(水工学)68-4 pp.1093-1098
http://disaster-i.net/notes/2012suiko.pdf#search=%27%E5%B0%8F%E5%B1%B1%E7%94%BA+%E6%B0%B4%E5%AE%B3%27
デジタル台風 台風201009号(Malou)の記録
http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/news/2010/TC1009/
http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/news/2010/TC1009/
わずか半日足らずで500~800㎜もの雨が降ったのですから、ごく狭い範囲ながらも、今回の九州北部の豪雨を上回る勢いです。
南アルプスの方に目を転じると、こちらは地形の影響があるのか、線状降水帯は発生しにくいようで、1時間100㎜クラスの極端な短時間豪雨の事例は少ないように感じます(観測点が少ないという事情もある)。
しかしながら、台風がゆっくりと通過する際には、湿った風が山地を上昇することとなり長時間にわたって積乱雲を発生させ、強雨が長時間続きやすくなります。だから南アルプスの静岡県側では、数年に1度程度は日雨量400㎜以上の大雨に見舞われるし、10年に1度程度の頻度で日雨量500~600となる。
長々と書いてきましたけど、つまり九州で起きたような豪雨は、南アルプスでも起こりやすいというわけです。そして豪雨が起きれば山崩れが起きやすい。
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というわけで、大量の発生土を河川沿いに置き去りにする、あるいは仮置きにする、というJR東海の方針は、やはり危険であり、考え直すべきなんじゃないかと思うのであります。
こちらは、今回の豪雨によって大規模な山崩れ(幅約300m)が発生し、川をせき止めている現場の写真です。崩落の比高は150mぐらいであるのに対し、体積土砂は100mくらい先まで到達し、川を越えて集落にまで押し出しています。
大分県日田市小野地区にて山崩れが川を塞いでいる状況
写真下方が下流であり、せき止められた上流側では池のようになっている
国土地理院ホームページ(電子国土Web)より複製・加筆
比較のために、同じ縮尺で南アルプスの発生土置場候補地の写真を並べます。
右が静岡市の南アルプス燕沢平坦地
中央を上から下に流れるのが大井川であり、JR東海は川沿いに370万立米の発生土を山積みにする計画。燕沢平坦地を取り囲む山の稜線は標高2200~2400mであり、多数の大規模崩壊地を抱えている。
国土地理院ホームページ(電子国土Web)より複製・加筆
JR東海の案は、現在200~250mほどある河原を、流路部分50mほどを残して発生土で埋め立てるというものです。
この付近における大井川の両岸には既に大規模な崩壊が複数生じていることから、一帯はかなり不安定な状況にあるとみて差し支えないでしょう。
もしも九州・日田市と同程度の崩落が起きれば、川がふさがれてしまいます。燕沢平坦地のほうに、日田での崩壊土砂の堆積範囲を重ね合わせてみます。
紫色の線が上記日田市の山崩れ現場で崩壊土砂が堆積している範囲
現状なら流路は崩落土砂を迂回できる、つまり新たな流路が変更するという自然現象が起きるだけの話に過ぎないけど、盛土を行った後だと、途端に川を塞ぐリスクが出てきてしまう。
これはかなりヤバイ話だと思います。
それに、万一川を塞いでしまうような山崩れが起きたら、大量の土砂をどこかに運び出さねばならない。けれど、論理的には不可能でしょう。それが可能なら、そもそも燕沢に発生土を置くのが誤りということとなる。
いろいろと考え直した方がいいんじゃないのでしょうか?
現在までに、JR東海はこのあたりの山々の安定性や崩壊の履歴等について、まったく調査結果等を公表していません。
しかしJR東海は、既に静岡工区でのトンネル施工業者の募集を開始しました。トンネルを掘るなら、当然掘り出したズリ(発生土)を置く場所が必要であり、それはこの燕沢を計画しています。地元自治体に対し安全性の報告もしていない段階で、なんで工事開始が可能なんだろうと、不思議に思うところです。