静岡市の委託事業として行われた平成28年度南アルプス環境調査の結果が公表されました。
(静岡市役所ホームページ)
http://www.city.shizuoka.jp/041_000081_00004.html
http://www.city.shizuoka.jp/041_000081_00004.html
関連情報
静岡新聞
大井川流量減、導水路効果でJRと差 リニア工事・静岡市調査
日本経済新聞
リニア予定地に希少動植物確認 静岡市、JR東海は把握せず
この中ではトンネル工事が水資源に与える影響予測も行われています。
年平均値では田代ダム付近において1.3㎥/s、中部電力木賊堰堤にて約1.6㎥/sの減少が予測されています。特に減少率の大きいのは低水期で、田代ダム付近では36%の減少が試算されています。
添付図表1 トンネル工事に伴う流量変化の予測結果 静岡市による
添付図表2 トンネル工事に伴う流量変化の予測結果 JR東海による
JR東海の試算は、独自に設定した”平均流量”に与える影響を予測したものらしいです(ただし詳細は不明)。しかし静岡市調査では、降水量が比較的少なかった平成24年(2012年)のデータをもとに試算したということです。このため、試算の前提とした気象や流量の値が異なることに留意する必要があります。
ただ、値に差があるものの、全体の傾向としては、JR東海の試算と似たような結果になったように思えます。
重要なのは多量のトンネル湧水の起こりそうだと予測された場所。
添付図表の1と2とで、同じ場所での予測値の違いにご注目ください。
JR東海の試算だと、流量減少は西俣の上流部から生じると予測されています。つまり、トンネル湧水の過半は大井川流域下の西寄り(つまり西俣沿い)で生じるとされている。そこで、本坑の大井川流域区間中央部から大井川に排水することによって、下流の流量減少をある程度回復できるという理屈となっています。
いっぽう静岡市の試算だと、トンネル湧水は主に大井川流域下の東寄り(つまり田代ダム付近)で生じると予測されているようです。添えられている説明によると、これは大井川本流に沿っている畑薙断層の破砕帯による影響が強く出たというものらしい。
したがって静岡市予測を信用するならば、JR東海案の導水路のままだと、トンネル湧水の大半は山梨県側に流れて行ってしまうという結果になっています。
どちらの試算結果がより正確なのかは分かりません。
しかし
・用いるデータの種類により試算結果は変化する
・JR東海が導水路案にこだわるのなら、トンネル湧水がトンネルのどこで生じるかを示す必要がありそう。
・JR東海が導水路案にこだわるのなら、トンネル湧水がトンネルのどこで生じるかを示す必要がありそう。
ことが判明したのが重要だと思います。
なお静岡市の試算では工事用トンネル(長さ約4㎞)への湧水量も試算されました。その値は約0.4㎥/s。
トンネルの規模の割には大きな値ではないかと思います。
このトンネルは悪沢を除くと、交差するのはごく小さな沢だけです。それなのにこれだけの湧水が生じるとなれば、周囲の浅層の地下水が相当に抜かれてしまうことを意味しているのではないでしょうか。
したがってもしもこの予測が現実になった場合、湿った環境を好む動植物に大きな打撃を与えそうに思えます。
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それから気になったのは、静岡市調査でカジカが見つかったということです。
カジカ――
漢字で書くと鰍。大きくなっても15㎝足らずの、ハゼに似た形態の小魚です(カジカガエルとは別物)。かつては食用とされることもあり、今でも金沢などではゴリと呼んで名物とされているいるようですが、全国的にも減少傾向にあるようで、環境省版レッドリストでは準絶滅危惧(NT)に指定されています。
静岡県版レッドリストでも準絶滅危惧種に指定されていますが、県内での分布には偏りがあり、伊豆半島ではやや生息数が多いものの、県西部では絶滅状態、中部では南アルプスを流れる一部の渓流でしか確認されていないようで、絶滅危惧ⅠA類に位置付けられています。これは「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」とされています。
静岡県庁ホームページ
護岸工事、林道建設、電源開発等による河床の荒廃、砂防ダム建設による生息地分断などにより個体数が減少していると考えられており、県内のアセスにおいてこれまで度々議題にあがってきたヤマトイワナよりも、保全のひっ迫度は高いと思います。
これは絶対に保全してもらわねばならない。
希少種ゆえに、どこで確認されたのかは秘密事項ですけど、トンネル工事により流量が減少した場合は、大きな影響を与えかねません。かろうじて生き残ったものに、とどめを刺すような事態は絶対に避けてもらいたい。
そのためには、まずは事業者であるJR東海が分布状況を把握しなければならないでしょう。そのうえで適切な保全措置を考案しなければならない。
ちなみに一連の環境影響評価手続きにおいて、静岡県内で絶滅危惧ⅠA類に指定された動物種が確認されたのは、イヌワシについて2例目のことです。
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先日、JR東海は静岡県内区間の工事業者の募集を開始しました。
業者を募集するということは、工事内容や環境保全措置をある程度決めているに違いありません。
しかし現実には、環境保全に関する地元との協議は進んでいない。それどころか、静岡市調査で明らかになった通り、調べれば調べるほど様々な重要動植物が発見されるし、流量予測にはバラつきが出てくる。
こんな状況なのだから、工事の内容なんて決められるはずがないと思うのだけど。