このほど静岡市が公開した平成28年度南アルプス環境調査では、トンネルを掘ったときに、どこでどれだけ水位が低下するかの予測もなされています。
（静岡市役所ホームページ）
それによると、大井川に沿って南北に伸びている畑薙断層に沿って、大幅に水位低下が起こると予測されています。
⇒図の右上隅から中央下部に向けて、地下水位の低下が予測されたエリアが線状に伸びている。ここが畑薙断層に該当する。
なお、畑薙断層についての詳しい知見は蓄積されていないが、活断層である可能性が指摘されている。産業技術総合研究所の活断層マップでは、その南部での活動度は暫定的にC級とランク付けされており、中部電力赤石発電所は、活動時の地震規模をM.6.7と想定して耐震設計を行ったらしい。
一般的に断層近傍では、過去の断層活動によって岩が砕かれ隙間だらけとなっており、地下水が大量に含まれやすいとされています。したがってこの畑薙断層にトンネルを掘ると、大井川から断層を通じて大量の水を抜いてしまうと予測されたのでしょう。
以上３枚は静岡市調査による予測結果。なお３枚目の図右上にある「工事用道路トンネル湧水量」は、１・２枚目の図を基にブログ作者が記入したものである。
比較のために、JR東海による予測結果も掲載しておきます。
JR東海による予測結果および導水路案
第２回大井川水資源対策検討委員会資料より複製
JR東海導水路案だと、分岐地点の標高は1150ｍ付近、出口の標高は1130ｍ付近（椹島ロッヂ付近）を想定。
トンネルは山梨側に向かって下り勾配になっていますから、静岡市の予測結果に従えば、トンネル湧水は山梨側に流れ出します。湧水を導水路で大井川に自然流下させるなら、畑薙断層の東側から分岐させねばならないこととなります。
縦断面図によると、畑薙断層と交差するあたりでのトンネル路盤標高は1020ｍ程度。ここから大井川に自然流下させるなら、出口を標高1000ｍぐらいに設定しなければなりません。
この場合、出口を現在の想定よりも直線で５㎞ほど下流（川に沿うと約７㎞下流）に移す必要があり、長さ自体も３㎞ほど伸びて15㎞くらいになります。
つまり、静岡市調査の結果に従うのなら、導水路の設計は大きく変更する必要があることとなります。
さて、前回も触れたように、ここで私が疑問というか問題だと思うのは、どちらがより正確かということではありません。
トンネルのどこでどれだけの湧水が生じるかは現段階で分からないはずなのに、導水路を唯一の恒久的環境保全措置にしようとするJR東海の考え方はオカシイのではないか、ということです。
単なる排水路ならば、分岐地点の標高はさほど制約を受けないでしょう。仮に畑薙断層交差部よりも高い位置から導水路を分岐させ、断層付近で多量の湧水が生じた場合でも、工事期間だけポンプで汲み上げ、完成後は山梨側へ垂れ流せばよい。つまり工事を進める側としては、導水路をどこで分岐させようとあまり自社の事業には関係がない。
だから、導水路を設けるにあたって重要であるはずの「どこで多量の湧水が生じるか？」ということを、これまで無視してきたのかもしれません。
いっぽう河川流量の減少が大きな問題である以上、これは無責任です。あくまで導水路を環境保全措置に位置付けるのであれば、トンネル湧水を全て地上に戻す構造にせねばなりません。そして、最適な分岐地点は、工事を始める前では分からないはずです。
（注）分水嶺直下（＝山梨県境）から導水路を分岐させれば、大井川流域でのトンネル湧水はほぼ全て大井川に自然流下させることが可能かもしれない。しかしこの場合、導水路出口は約20㎞下流の畑薙第一ダム貯水池に設けねばならない。ここまで20㎞区間の水は減ったままだし、導水路自体が相当量の水を引き込む可能性がある。残土も増える。したがって非現実的である。
論理的に、施工前では湧水ポイントがハッキリしない――けれども事前に対策を講じておかねばならない――だから恒久的なポンプ揚水を行うことを確約するか、改めて導水路の分岐地点を再検討すべきだという意見が出されたわけです。そしてその上で、導水路出口より上流側に対する対策を考えねばならない。
しかし、この意見には耳を傾けず、施工業者の募集を開始した。
⇒４月２９日ブログ記事
JR東海の姿勢は全く筋が通っていないわけでして、これでは単なる排水路のことを導水路と言い換えているだけじゃないかと疑ってしまいます。