昨日(23日)、リニアの南アルプストンネル山梨工区にて、坑道内部の工事現場が報道陣に公開されたそうな。それで、各社が一斉に報道しているのであります。
産経新聞
静岡新聞
朝日新聞
読売新聞
記事を見た限り、JR東海の担当者はやたらと「2027年開業に向けて順調」を強調しているようだけど、ホンマかいな?
今回公開されたのは先進坑。先進坑とは本坑に並行に掘られるトンネルで、地質調査と作業効率向上の目的があるそうです。ちなみに、ほぼ同じ長さで活断層だらけの中央アルプストンネルでは計画されていません。
その先進坑と地上をつなぐのが斜坑。完成後は緊急時に使用するってぇことで、JR東海は”非常口”と称しています。今回公開された先進坑に通じる早川非常口の長さは約2500m。
さてJR東海は、地質調査のためとして、この斜坑の掘削を2008年に開始しています。2014年に建設認可を受ける前だし、そもそも環境影響評価も始まっていなかった段階です。
⇒日経ケンプラッツ
「リニア新幹線、南アルプスのボーリング調査現場はいま…」2008年12月1日
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/knp/column/20081127/528432/
「リニア新幹線、南アルプスのボーリング調査現場はいま…」2008年12月1日
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/knp/column/20081127/528432/
この”地質調査”では、長さ2500mの非常口のうち2000mが掘削されています。ちなみに掘り出された発生土は、使い道のない残土として早川町内に山積みにされています。なお隣接して中部横断道からの残土も積まれています。、
国土地理院ホームページ 電子国土Webより複製・加筆
JR東海が、国土交通大臣から全国新幹線鉄道整備法に基づき、正式事業認可を受けたのは2014年10月18日のことです。そして早川町内で改めて起工式を催したのは2015年12月18日。これに先立って公表された環境保全計画書では、掘り終えた”調査坑”の坑口付近の写真も掲載されています。
「中央新幹線南アルプストンネル新設(山梨工区)工事における環境保全について」より複製
起工式を経て工事が再開され、新たに斜坑500mと先進坑90mを掘り進めたところで、今回の報道公開となったわけです。
記事によると、掘削作業は1日に5m進んでいるとのこと。けれどその割には、工事再開から600日程度経っているのに600m程度しか進んでいないってのは、なんだか妙に遅れている気がしませんか?
実際のところ、起工式の後に工事計画が二転三転しています。
●発生土置場は当初4.1万立米分しか確保せずに工事を再開したたため、すぐに満杯となってしまった。このため新たな仮置場を確保せねばならなくなった。
●起工式の後になって土壌汚染対策の必要性が判明したとして、新たな汚染土置場を2か所確保せねばならなくなった。
そして早川町内へは最終的に326万立米もの発生土が吐き出されますが、これの最終的な処分方法は確定していません。そのうち120万立米を使うとされるのが早川芦安連絡道路の整備事業なのですが、これとて実態は不透明らしい。
(今年4月時点での記事)
掘削工事そのものは”順調”なのかもしれません。工事を進める手立ては、とても順調とは言い難いと思うんですけど、そのあたりは全く記事になっていませんねえ…。沿線での関心事――早い開業を願う立場であっても――は、掘削工事が順調かどうかだけではなく、残土処分とか汚水処理とか土壌汚染対策だと思うんですけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝日新聞やNHK静岡の報道によると、この早川非常口からは毎分1.5トンの湧水が生じているとのこと。
毎分1.5トン
=毎秒0.025トン
=毎秒25リットル
=2160トン/日
=25mプール約4杯/日
=毎秒0.025トン
=毎秒25リットル
=2160トン/日
=25mプール約4杯/日
これでも工事担当者としては「少ない」ということで、工事には支障がないらしい。
早川非常口は、静岡・山梨県境の稜線から東へ突き出した大きな尾根を掘ります。地形図に水色で示されるような明瞭な河川をくぐり抜けるわけではありません。けれども毎分これだけの水が湧きだしということに驚いてしまいました。これで明瞭な断層破砕帯や河川と交差したらどうなるのだろう?
それに、本来はどこかから浸み込んで、どこかで湧き出すはずだった水です。その流れを断ち切ってしまったわけで、どこかの水循環に影響を及ぼしているに違いない。けれども地上への影響についてどうなっているのか、記事からでは何も分かりません。
いろいろと「?」が残るのでありました。