先日、東京都町田市でリニア中央新幹線の環境影響評価についての説明会が開かれました。参加された方のブログによれば、次のような質疑があったということです。
(問い)山梨実験線の環境影響評価の資料はどこで見られますか?
(JR東海の回答)要領を得ず、曖昧なまま。
なんでもないやり取りのようにも見えますが、リニア計画における環境アセスメントが抱える、重大な問題を突いた質問だと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
山梨リニア実験線は、延長42.8kmあります。将来的に中央新幹線の一部に組み込まれる計画なので、営業路線が既に完成していることになります。東京-名古屋286kmのうち、おおよそ15%に相当します。
現在行われている環境影響評価において、この区間も対象に含まれていますが、既に路線が完成しているわけですから、結果を反映することはできません。できることはせいぜい騒音対策をどうするかということぐらい。
よって、当時の環境影響評価がいかなるものであったのかなどが、重要な論点になるはずです。
ところが、建設時にいかなる環境影響評価がおこなわれたのか、さっぱりわかりません。
制度的にどのような扱いだったのか、できる範囲で調べてみました。
1973(昭和48)年 全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画路線として中央新幹線が選定される。
1979(昭和54)年 整備5新幹線に関する環境影響評価の運輸大臣通達(準備書段階から)
1984(昭和59)年 整備新幹線など、国が関与する大規模事業を対象に環境アセスメントを行うことを閣議決定(一般に閣議アセスメントとよばれる)。
1987(昭和61)年 国鉄民営化。リニア研究は財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が継承。
1988(昭和62)年 石原運輸大臣(当時)が東京-甲府間で本格的実験線の建設に着手したいとの意向を表明。同年、超党派の国会議員によるリニア中央新幹線建設促進国会議員連盟が発足。会長は自民党の堀内光雄氏(山梨選出)。
1990(平成2)年 鉄道総研・東海旅客鉄道株式会社(JR東海)・独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄建機構)が「山梨実験線環境影響調査報告書」を作成。山梨リニア実験線着工。
1997(平成9)年 3月、山梨リニア実験線先行区間18.4㎞完成、走行実験開始。4月、環境影響評価法(以下アセス法)成立。
1998(平成10)年 6/12 アセス法施行。技術指針等を定める主務省令(鉄道)制定。アセスメントのマニュアルのようなもの。
2000(平成12)年 JR東海、鉄道総合技術研究所、鉄建機構に対し、地形・地質等の調査を指示。
2007(平成19)年 1月山梨リニア実験線の延伸工事開始。JR東海が中央新幹線構想を発表。
2009(平成21)年 1月に「山梨実験線の建設計画」の変更について国土交通大臣の承認。
2011(平成23)年 5月超伝導リニア方式による中央新幹線の建設指示。6月中央新幹線(東京・名古屋間)について環境影響評価開始。
山梨実験線の計画が具体化したのは1988年頃のようです。まだアセス法は制定されておりません。かわりに国の関与する大規模事業に対して環境影響評価を行うことが閣議決定されていました。これは通称、閣議アセスメントとよばれます。http://www.env.go.jp/policy/assess/2-2law/2/ex-120.html
着工前後における、環境影響評価制度の変遷を時系列に並べてみます。
1973(昭和48)年 全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画路線として中央新幹線が選定される。
1979(昭和54)年 整備5新幹線に関する環境影響評価の運輸大臣通達(準備書段階から)
1984(昭和59)年 整備新幹線など、国が関与する大規模事業を対象に環境アセスメントを行うことを閣議決定(一般に閣議アセスメントとよばれる)。
1987(昭和61)年 国鉄民営化。リニア研究は財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が継承。
1988(昭和62)年 石原運輸大臣(当時)が東京-甲府間で本格的実験線の建設に着手したいとの意向を表明。同年、超党派の国会議員によるリニア中央新幹線建設促進国会議員連盟が発足。会長は自民党の堀内光雄氏(山梨選出)。
1990(平成2)年 鉄道総研・東海旅客鉄道株式会社(JR東海)・独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄建機構)が「山梨実験線環境影響調査報告書」を作成。山梨リニア実験線着工。
1997(平成9)年 3月、山梨リニア実験線先行区間18.4㎞完成、走行実験開始。4月、環境影響評価法(以下アセス法)成立。
1998(平成10)年 6/12 アセス法施行。技術指針等を定める主務省令(鉄道)制定。アセスメントのマニュアルのようなもの。
2000(平成12)年 JR東海、鉄道総合技術研究所、鉄建機構に対し、地形・地質等の調査を指示。
2007(平成19)年 1月山梨リニア実験線の延伸工事開始。JR東海が中央新幹線構想を発表。
2009(平成21)年 1月に「山梨実験線の建設計画」の変更について国土交通大臣の承認。
2011(平成23)年 5月超伝導リニア方式による中央新幹線の建設指示。6月中央新幹線(東京・名古屋間)について環境影響評価開始。
2013(平成25)年 山梨実験線の延伸工事が終了。秋から走行実験が再開される予定。
実験線の着工に先立ち、「山梨実験線環境影響調査報告書」なるものが1990年に作成されているようです。これがいかなるものであったのか、さっぱり実態が分かりません。ちょっとこれについて考察してみます。
山梨実験線の計画が具体化したのは1988年頃のようです。まだアセス法は制定されておりません。かわりに国の関与する大規模事業に対して環境影響評価を行うことが閣議決定されていました。これは通称、閣議アセスメントとよばれます。
山梨実験線は、建設当初から将来の中央新幹線の営業路線となることを見越して建設されたといわれています。
それでは、事実上のリニア営業路線となる山梨実験線の建設は、閣議アセスメントの対象事業だったのでしょうか?
鉄道の建設事業のうち、閣議アセスメントの対象事業は「新幹線」だけだったそうです。しかしこの「新幹線」とは、当時建設が具体化されていた整備新幹線5路線(北海道、東北、北陸、九州2路線)が対象であり、中央新幹線は対象になっていません。
また、「特別の法律により設立された法人によって行われる土地の造成」というのも対象事業に挙げられていますが、これは住宅・都市整備公団、地域振興整備公団、環境事業団、農用地整備公団の事業とされており、実験線の建設に携わった日本鉄道建設公団の名は挙げられていません。
したがって実験線が閣議アセスメントの対象であった可能性は、制度的にも小さいと思われます。
また、過去の環境影響評価法および閣議決定に基づくアセスメントの事例は、環境省のHPで検索できます。(ここにURLを貼りますhttp://www.env.go.jp/policy/assess/2-2law/2/ex-120.html)
また、過去の環境影響評価法および閣議決定に基づくアセスメントの事例は、環境省のHPで検索できます。(ここにURLを貼りますhttp://www.env.go.jp/policy/assess/2-2law/2/ex-120.html)
しかし山梨実験線の事例は見つかりません。
次に、山梨県立図書館の資料検索ページで調べてみましたが、山梨県内の図書館で保管されているのは中部横断自動車道のアセス文書だけのようでした。
また、山梨県の環境影響評価条例が公布されたのは1998年。条例以前に環境影響評価を規定した 山梨県環境影響評価等指導要綱が公布されたのは1990年とのことで、いずれも山梨実験線環境影響調査報告書が作成された後になります。
「影響評価」ではなく「影響調査」という名であることから、騒音や震動など、走行実験が環境に与える影響を実証するための基礎調査だったのかもしれません。
鉄道ファン向けの本にあった一文。
『鉄道総研、JR東海、鉄道建設公団は、実験線の建設に先立ち、実験線の建設及びその後の各種試験に伴う周辺環境への影響を把握し的確に対処するため、建設予定地の環境調査を実施し、その結果を「山梨実験線環境影響調査報告書(平成二年七月)にまとめている、この報告書により環境保全目標が設定されており、実験線での各種試験を通じて、この保全目標が満足されているかの実証を行った。』
(鉄道総合研究所(2006)「ここまできた! 超電導リニアモーターカー」 p123より)
これを読んだ限りでは、やはり実験のためのデータ集めだった性格が強かったと判断せざるを得ない…。
以上のことを勘案すると、「山梨実験線環境影響調査報告書」なるものは、環境影響評価法、閣議アセスメント、山梨県条例といった制度に基づく、正式な環境影響評価の形式ではなかった公算が大きく、山梨実験線つまり営業路線42.8kmは正式な環境影響評価制度を経ずに建設された可能性が高いと思われます。
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最後になりますが、山梨実験線建設時の環境影響評価資料の開示が重要だと思うのは、次のような理由によります。
①実験線42.8㎞分を、適切な環境影響評価を経たかどうか確認もできないまま営業路線に転用することになる
②情報が公開されない限り、この実験線の立地条件が営業路線の立地条件としても適正なのか、検証しようがない。
③当時の環境影響予測や対策が適切であったか検証するための貴重な資料である。例えば、現実問題として、実験線のトンネル掘削にともない、周辺で水枯れが起きている。今般の環境影響評価においては、当時の資料を公開し、なぜ予測・対応ができなかったのか検証しなけれはならないはずである。
これらは環境影響評価制度の本質に関わる重大な問題です。①の懸念が真実だったら、結果的にせよ「アセス逃れ」と言われてしまわれても仕方がないと思います。