ここ数日、複数のとリニア関連の報道がネット上に配信されていますが、それらとは全く視点の異なり、環境影響評価手続きの話です。
リニア計画の問題点を追いかけているジャーナリスト樫田氏のブログに興味深いことが書かれていました。
環境影響評価書の疑問点について国土交通省担当者とやり取りをしているうちに、本題とは少し離れたところで、
事業認可にあたり、大臣意見を守らなければならないとの定めはない、という見解が国土交通省側より示されたそうです。
9/20の投稿
9/24の補足説明
シロウト考えながら、国土交通省がボロを出したのかな?という印象を受けました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここでいう「大臣意見」とは、環境影響評価書に対する国土交通大臣意見のことです。
環境影響評価と事業認可との関係は次の通り。
事業者が評価書を作成し担当機関に送付
↓
担当機関の長は評価書を環境大臣に送付
↓
環境大臣から担当機関の長に意見を送付
↓
担当機関の長は環境大臣意見を勘案して意見書を作成・事業者に送付
↓
事業者は評価書を補正し担当機関の長に送付(通常、一緒に事業認可の各種書類も送付)
↓
担当機関の長による許認可審査
↓
事業認可
ふつうの感覚では、所轄官庁は評価書審査において、自ら事業者に課した意見に対し、事業者がきちんと対応しているかどうかきちんと審査されるものと思ってしまいます。
ところが、国土交通省としては、必ずしもそうではない、と言っているのですから、樫田氏は驚かれたわけです。
実はちょっと法律書をめくってみると、この担当者の見解は通説として運用されているものらしいです。
専門書より引用
横断条項は、許認可基準を横出し的に追加する効果を持つ。根拠法を一般法とすれば、環境影響評価法は特別法といえる。もっとも、環境配慮がされるかどうかの法的評価は、あくまで許認可の根拠放棄の枠組みのなかでなされることになる。環境大臣意見によれば配慮が不十分とされていたとしても、許認可権者は根拠法の観点からはそれくらいの配慮で十分と考えることはありうる。
「北村喜宣(2011)『環境法(第3版)』弘文堂 P325より」
「北村喜宣(2011)『環境法(第3版)』弘文堂 P325より」
(補足)ここでいう横断条項とは、環境影響評価法第33条1項のことです。この条項により、環境配慮義務のない様々な根拠法に対し、許認可において環境配慮を課すころができる。様々な法律を横断しているので横断条項とよばれます。
それから、リニア事業における根拠法とは、全国新幹線鉄道整備法をさします。この法律には環境配慮義務も、許認可の基準についても明記されていない。
国土交通省担当者の言い分は、このような見解に基づいているのでしょう。
ところが、本件はちょっと違うんじゃないのかな、と思います。繰り返しますが、あくまでシロウト考えですけど・・・。
JR東海の作成した評価書は、アセス制度に詳しい人々の間では、前代未聞とか時代錯誤と指摘されるほど酷評されました。そのため環境大臣意見も、厳しい言葉が並べられる異例の内容となりました。
(例)原科幸彦 千葉商科大学教授(当時/現在は学長)へのインタビュー
ここで、環境大臣意見の前文にご注目ください。
環境大臣意見では、確かにいつも似たような字句が並んでいるのですが、今回リニア計画はちょっと違うように思えます。赤く囲った「本事業の実施に当たっては、次の措置を講じることにより、環境保全についての十全の取組を行うことが、本事業の前提である。」とした部分。これがかなり異例だと思うのですよ。
この場合、「次の措置を適切に講ずることが必要である」という表現ですね。
この他、いくつかの道路整備についての大臣意見も調べてみたのですが、みな判で押したように「次の措置を適切に講ずること」といった書き方です。リンクだけ貼っておきます。
●1・4・3号京奈和自動車道(大和北道路) 及び相楽都市計画道路(1・4・2号大和北道路)環境影響評価穂への環境大臣意見
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8982
●1・4・3号京奈和自動車道(大和北道路) 及び相楽都市計画道路(1・4・2号大和北道路)環境影響評価穂への環境大臣意見
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8982
●一般国道19号瑞浪恵那道路に係る環境影響評価書に対する 環境大臣意見
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=17403
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=17403
●一般国道17号本庄道路に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=10111
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=10111
●都市計画道路甲府外郭環状道路北区間に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見
しかしリニア評価書への意見は違う。
いつもは、「次の措置を適切に講ずることが必要である」というように、努力を奨励するだけです。しかしリニア評価書に対しては、「本事業の実施に当たっては、次の措置を講じることにより、環境保全についての十全の取組を行うことが、本事業の前提である。」というように、列挙される措置を講じることが事業の前提だ、と言い切っている。事業を進めるための条件として課したようにも解釈できます。
しかも、
「さらに、国土交通大臣におかれては、本事業者が十全な環境対策を講じることにより、本事業に係る環境の保全について適切な配慮がなされることが確保されるよう、本事業者に対して適切な指導を行うことを求める。」
と、リニア事業を担当する国土交通省に対しても、手抜きをさせるな、ちゃんと指導しろよって、念を入れている。これは珍しいことと言ってよいかと思います。
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さて、国土交通大臣意見も、この環境大臣意見をそっくりそのまま踏襲しています。
だから、「事業認可にあたり、大臣意見を守らなければならないとの定めはない。事業認可に必要なのは全幹法に適合しているかどうか。」という国土交通省側の見解は、今回に限っては、大いに議論の余地があるのではと思うわけです。
ここで、大臣意見について、環境影響評価法第24条の規定を確認しておきましょう
(免許等を行う者等の意見)
第二十四条 第二十二条第一項各号に定める者は、同項の規定による送付を受けたときは、必要に応じ、政令で定める期間内に、事業者に対し、評価書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べることができる。この場合において、第二十三条の規定による環境大臣の意見があるときは、これを勘案しなければならない。
(補足)同項の規定による送付⇒事業者から担当機関に評価書が送付されること
国土交通省風に解釈すると、「環境大臣の意見があるときは、これを勘案しなければならない」と書いてあるけれども、「そっくりそのまま引用せよ」とはしていません。
法律の専門家によると、ここがミソだそうです。
再び、同じ法律書より――
環境大臣意見は、まさに環境保全の観点からの意見である。これに対して、許認可権者等意見は、環境保全の観点とはいうものの、環境大臣とはややスタンスが異なりうる。すなわち、許認可の根拠法を踏まえたものであるから、ほかの利益を考慮して、受け取った環境大臣意見を結果的にトーンダウンさせたものになることもありうる。
つまり、合理的理由さえあれば、国交省として環境大臣意見を変更する、つまり事業者がラクにクリアできるできる程度にトーンダウンさせるだけの裁量は与えられているらしいのです。
しかし今回、国土交通省はその裁量権は行使せず、環境大臣意見をそのまま踏襲しました。環境大臣の意見を100%引き継ぐ道を選択したことになります。
ですから、本件リニア事業については、事業者が補正評価書において大臣意見を確実に守っていることが事業認可の前提だし、国土交通省はそれをきちんと審査せねばならないと思うのです。
・・・環境大臣から念を押されているのに「大臣意見を守らなくてもよい」という言葉が出てきたあたり、「JR東海には無視させてます」って言っているようなものじゃないのかなぁ。
大臣意見が守られているかどうかについては、次の機会(たぶん)に検討したいと思います。