前回の続きになります。
静岡県川勝知事VSJR東海柘植社長の言い争い(?)は、前の石川知事から続くゴタゴタの延長戦なのでしょう。私はそれよりも、隣の山梨県で進められている早川芦安連絡道路と南アルプスユネスコエコパークとの整合性がどのように説明されているのかに興味があります。
というわけで、ウェブ上に公開されていた情報を時系列に並べてみました。読み辛くて申し訳ありません。
ホントは静岡県立市図書館に保管されている古い山梨日日新聞の記事をめくって見たかったのだけど、県立図書館の床が抜けて無期限閉館中という有様…。
2001年(平成13年)
山梨県内11町村(当時)が南アルプス周遊自動車道路整備促進期成同盟会を設立。
2007年(平成19年)2月28日
山梨・静岡・長野各県の10市町村が、南アルプス市において「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会」設立総会を開催。
2009年(平成21年)
公益社団法人山梨県建設事業センターが「南アルプス周遊自動車道の整備に関する検討」基礎調査報告書を作成。
2010年(平成22年)11月19日
南アルプス周遊自動車道路整備促進期成同盟会はA,B,Cの3のルート案を公表。 うちAルートが現早川芦安連絡道路に一致。(山梨日日新聞 南アルプスNET掲載)
南アルプス周遊自動車道路整備促進期成同盟会はA,B,Cの3のルート案を公表。 うちAルートが現早川芦安連絡道路に一致。(山梨日日新聞 南アルプスNET掲載)
2011年(平成23年)5月27日
全国新幹線鉄道整備法に基づき中央新幹線の建設指示が出される。
全国新幹線鉄道整備法に基づき中央新幹線の建設指示が出される。
2012年(平成24年)11月13日
山梨総合研究所作成 「南アルプスの世界自然遺産化に向けての周辺整備に関する構想調査報告書」が公表される。南アルプス周遊自動車道路整備を軸として山梨県側での観光施設整備の強化等を訴える内容。
山梨総合研究所作成 「南アルプスの世界自然遺産化に向けての周辺整備に関する構想調査報告書」が公表される。南アルプス周遊自動車道路整備を軸として山梨県側での観光施設整備の強化等を訴える内容。
2013年(平成25年)
9月4日
日本ユネスコ国内委員会MAB計画分科会の第26回会議が東京都内で開催され、翌年のユネスコでの登録に向けて、南アルプス地域をユネスコエコパークの国内推薦に選定することが決定される。
日本ユネスコ国内委員会MAB計画分科会の第26回会議が東京都内で開催され、翌年のユネスコでの登録に向けて、南アルプス地域をユネスコエコパークの国内推薦に選定することが決定される。
11月5日
中央新幹線の環境影響評価準備書に対し、「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会ユネスコエコパーク推進部会」および「ユネスコエコパーク登録検討委員会は連名で意見書を提出。発生土について、早川町内は残土処理の場としては不適当であり、他に適地を求めるとしている。(南アルプス市ホームページより)
中央新幹線の環境影響評価準備書に対し、「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会ユネスコエコパーク推進部会」および「ユネスコエコパーク登録検討委員会は連名で意見書を提出。発生土について、早川町内は残土処理の場としては不適当であり、他に適地を求めるとしている。(南アルプス市ホームページより)
12月中
JR東海が山梨県に発生土処理について協力を要請。協議の結果、南アルプス周遊自動車道路の盛土として使う話がまとまったとされる。(2014年2月5日朝日新聞記事より)
JR東海が山梨県に発生土処理について協力を要請。協議の結果、南アルプス周遊自動車道路の盛土として使う話がまとまったとされる。(2014年2月5日朝日新聞記事より)
2014年(平成26年)
2月19日
横内山梨県知事は早川芦安連絡道路について、
「ユネスコのエコパークに登録される可能性が高い南アルプス周辺の観光振興や災害時の孤立集落の解消などに大きな整備効果が期待される」
「県としてはリニア発生土の有効活用及び搬出路の確保のためにも必要な道路である」
との認識を明らかにしたうえで、県として整備を行うことを決定したと説明。 (県議会2月定例会議事録より)
横内山梨県知事は早川芦安連絡道路について、
「ユネスコのエコパークに登録される可能性が高い南アルプス周辺の観光振興や災害時の孤立集落の解消などに大きな整備効果が期待される」
「県としてはリニア発生土の有効活用及び搬出路の確保のためにも必要な道路である」
との認識を明らかにしたうえで、県として整備を行うことを決定したと説明。 (県議会2月定例会議事録より)
2月26日
横内山梨県知事は早川芦安連絡道路の事業費70~80億円のうち30億円程度をJR東海が負担するよう協議中であること、発生土の盛土により大規模駐車場の造成を行う方針であることを明らかにする。 (県議会2月定例会議事録より)
横内山梨県知事は早川芦安連絡道路の事業費70~80億円のうち30億円程度をJR東海が負担するよう協議中であること、発生土の盛土により大規模駐車場の造成を行う方針であることを明らかにする。 (県議会2月定例会議事録より)
5月28日
山梨県の第1回公共事業評価委員会が開かれ、事前評価事業として早川芦安連絡道路を「妥当」とする。同年度は測量、地質調査、環境調査、設計を進めて施工方法を検討し、用地買収、工事用道路工事も予定。15年度から工事を進め、19年度の事業完了を目指すとしている。リニアからの発生土160万立米を盛土に活用。総事業費は約80億円。財源は、国費32億5000万円、県費17億5000万円、JR東海の負担金30億円を見込む。
山梨県の第1回公共事業評価委員会が開かれ、事前評価事業として早川芦安連絡道路を「妥当」とする。同年度は測量、地質調査、環境調査、設計を進めて施工方法を検討し、用地買収、工事用道路工事も予定。15年度から工事を進め、19年度の事業完了を目指すとしている。リニアからの発生土160万立米を盛土に活用。総事業費は約80億円。財源は、国費32億5000万円、県費17億5000万円、JR東海の負担金30億円を見込む。
6月12日
スウェーデンで開かれたユネスコMAB国際調整理事会において、南アルプス一帯が生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)に登録される。早川芦安連絡道路の整備予定地は保全水準が中レベルの緩衝地域に指定される。
スウェーデンで開かれたユネスコMAB国際調整理事会において、南アルプス一帯が生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)に登録される。早川芦安連絡道路の整備予定地は保全水準が中レベルの緩衝地域に指定される。
11月19日
山梨県県公共事業評価委員会は、早川芦安連絡道路など8事業について「実施が妥当」と評価。
山梨県県公共事業評価委員会は、早川芦安連絡道路など8事業について「実施が妥当」と評価。
2017年(平成29年)
4月1日
山梨県が早川芦安連絡道路について、同月中に着工することを決めたと報道される。発生土の搬入は同年11月を予定し、盛土(120万立米)費用約67億円はJR東海が全額負担するとしている。
山梨県が早川芦安連絡道路について、同月中に着工することを決めたと報道される。発生土の搬入は同年11月を予定し、盛土(120万立米)費用約67億円はJR東海が全額負担するとしている。
9月16日
山梨県の公共事業評価委員会は「道路修繕事業(県単)南アルプス公園線(早川大橋外5橋)」について審議。これら6橋は、リニア中央新幹線からの発生土を早川芦安連絡道路の整備予定地へ運ぶルート上にある。詳細設計の結果、事業費を17億7500万円増額して24億7700万円に変更し事業を継続していくことが了承された
山梨県の公共事業評価委員会は「道路修繕事業(県単)南アルプス公園線(早川大橋外5橋)」について審議。これら6橋は、リニア中央新幹線からの発生土を早川芦安連絡道路の整備予定地へ運ぶルート上にある。詳細設計の結果、事業費を17億7500万円増額して24億7700万円に変更し事業を継続していくことが了承された
9月29日
山梨県議会の一般質問で、県道南アルプス公園線の補強対象となる橋は22にのぼり、費用の総額は34億9000万円となることが明らかになる。
山梨県議会の一般質問で、県道南アルプス公園線の補強対象となる橋は22にのぼり、費用の総額は34億9000万円となることが明らかになる。
早川芦安連絡道路は、当初は南アルプス周遊自動車道路という名称で計画が生まれてきたようです。
2010年11月19日に南アルプス周遊自動車道路整備促進期成同盟会が下の図のようにA,B,Cの3つのルート案を公表したのですが、このうちAルートが後に早川芦安連絡道路と名を改めて具体化してくることとなります。
この報告書の35ページには、「この道路はトンネルと橋梁が主体のため林道として整備することは困難」「地表の工事がほとんどなく自然にやさしい」と書かれています。つまり当初は、地上部分は盛土ではなく橋梁構造で建設し、それで環境破壊を回避する想定であったと考えられます。
県とJR東海との協議後の2014年3月に出された構想だと、地上区間3か所に盛土を用いることになっています。ちなみにまだ正式決定する前。
リニアの南アルプストンネルからは大量の発生土が出ます。しかし早川町内には処分場適地がなく、JR東海は困った。
そこで2013年12月に山梨県と協議を行った結果、早川芦安連絡道路の地上部分を橋梁ではなく盛土にしてしまおう、という話がまとまりました。そうすれば、JR東海が盛土費用を出すだけでその部分の工事が可能となり、JR東海としても発生土の約半分を処理することが可能となる。まさしく「ウィン・ウィンの関係」となりました(山梨県議会平成25年度2月定例会議事録にあった表現)。
その後、2014年度中には県の公共事業評価委員会の諮問を受け、建設が妥当とされています。
しかし環境保全や地質・地形条件からの検討経緯については、ついぞ見つけることができませんでした。
なぜ120万立米もの大量の発生土を緩衝地域(基本的に開発はNO)に埋め立てることとなったのか? ここが全く不可解だし、リニア計画の場当たりさ・いい加減さが表れているように思えます。
ユネスコエコパークの登録を申請することが決まったのは2013年9月4日。その時点でどこを緩衝地域にするのかは決まっており、関係する環境、林野、観光など各行政機関との調整も終了していたはずです。
このとき南アルプス周遊自動車道路はまだ事業決定していません。もし本決まりであったなら、地上区間を緩衝地域から外すとか、逆に緩衝地域を地上区間にかからぬよう設定するなどしていたことでしょう(例:自然公園選定要綱)。
・・・何となくですが、南アルプス周遊自動車道路改め早川芦安連絡道路は、リニア計画の面目を保つために、関係する機関との調整を行わず、実現性やユネスコエコパーク制度との整合性も顧みず、文字通り場当たり的に進めているような気がします。だから当初予定を3年経ても着工できず、そのうえ事業費がどんどん増え続けているのではないでしょうか。