先日のブログ記事と重複する内容ですが、静岡県内でのリニア計画に対する受け止め方について、中日新聞の静岡版に興味深い記事が掲載されていると教えて頂きました。
2018年(平成30年)1月28日 中日新聞 静岡版
県道トンネル 新設は難航 葵区井川地区 JR東海と溝
県道トンネル 新設は難航 葵区井川地区 JR東海と溝
2027年に名古屋-東京・品川間で開業を目指すリニア中央新幹線。静岡県は東海道新幹線の駅が6ヵ所もあるのに、リニア沿線7都県で一番、関心が薄いように感じる。県内が関係するルートは、南アルプスを通過する10キロ弱で大半がトンネル。中間駅ができないのが原因の1つだろう。顕在化している大井川の流量減少など、十年近くにおよぶ工事が県内に与える影響は少なくない。工事予定地に近く、最も影響を受ける可能性がある静岡市葵区井川地区を訪ねた。
人口が500人を切った地区中心部までには、県庁から車で二時間弱。井川への主要道路である県道三ツ峰落合線は急な坂道が続く難路だった。途中で数台のダンプとすれ違ったが困難な場所も多く、手に汗握る運転を強いられた。
JR東海によると、工事期間中は1日最大216台の工事車両の通行が見込まれる。井川森林組合の○○組合長は「工事車両がどれだけとってくれても構わない。でも道は狭いし、安全対策だけはしてくださいよと注文している」と話す。地区は2014年12月、JR東海に井川ダム手前から4キロほどのトンネルを県道に新設することなどを求める要望書を提出している。
県道のトンネル新設は地区の悲願と言える。トンネル区間は現在、県道の13キロの区間に相当する。狭くて急な坂道が続き、冬場は凍結や積雪に住民は難儀してきた。
1953(昭和28)年の井川ダム建設、69年に旧静岡市と合併する際もトンネル新設を中部電力や市に要望してきた。
JR東海が昨年末、井川地区で開いた住民説明会で、JR側は道路改修や安全対策について、川根本町に至る静岡市道でのトンネル新設を提案し、地区が求める県道は、道路一部拡幅にとどめる考えを示した。
井川地区自治連合会の△△会長は「井川の住民は工事に大きな反対もせず、信頼して紳士的に付き合ってきた。JRの説明ではトンネルの件を含めて地区の要望を何一つ聞き入れてもらえていない。これでは住民は協力できない」と語気を強める。
工事の「見返り」として、トンネル新設など道路整備を求めるのは静岡だけではない。山梨県早川町では連絡道路を新設し、長野県大鹿村ではトンネル二本を新たに掘る。いずれも地元住民が要望したもので山梨、長野両県とJR東海が応分の負担をする。
井川地区は工事で排出される残土置き場や、大井川上流部の流量減少などへの対応も求めるが、少なくない住民はトンネル新設を巡り、態度を硬化している。工事の早期着工には地元・井川の理解が不可欠で、JR東海は再度の協議に応じる姿勢を見せている。
記事の性質上、なんとなく実名部分を伏せた方がよろしいような気がして匿名としました・・・。
井川ダムや畑薙ダムなど、昭和30年前後の電源開発では、中部電力が道路整備や井川線(現大井川鐡道)建設を行いました。その後の長島ダム建設の際には、旧建設省が本川根町内で大々的に道路整備を行いました。
こうした過去があるので、リニア建設事業で”何匹目かのドジョウ」をねらったのかもしれません。
けれども、こうして道路整備等が行われたのは、集落水没に対する補償のためだったはずです。
今回のリニア建設では、井川集落は、直接的にそれほど大きな損失・迷惑を受けるわけではありません。静岡県内では二つの非常口(斜坑)と工事用トンネル、370万立米の発生土置場が造られますが、これらは井川集落からは30~40km離れた南アルプス山中となります。
こう書くと語弊がありますが、井川集落が受ける迷惑というと、ピーク時で片道216台の工事用車両が通行すること「だけ」です。
もちろん、集落にとっては迷惑に違いないのだけど、他の地域とは比較になりません。
”談合事件”で知れ渡ったように、住宅地のど真ん中に直径36m・深さ100m級の穴を掘るとか、
神奈川県相模原市鳥屋地区のように集落を発生土で埋め立てて車両基地を設けるとか、
山梨県内地上区間のように高さ20~30mの高架橋が市街地を分断して建設されるとか、
長野県大鹿村や中川村や阿智村のように猛烈なダンプ公害が起きるとか、
長野県南木曽町のように簡易水道の水源地帯にトンネルを掘るとか、
岐阜県東濃地域のようにウラン鉱床から掘りだした土が置き去りにされる懸念があるとか、
神奈川県相模原市鳥屋地区のように集落を発生土で埋め立てて車両基地を設けるとか、
山梨県内地上区間のように高さ20~30mの高架橋が市街地を分断して建設されるとか、
長野県大鹿村や中川村や阿智村のように猛烈なダンプ公害が起きるとか、
長野県南木曽町のように簡易水道の水源地帯にトンネルを掘るとか、
岐阜県東濃地域のようにウラン鉱床から掘りだした土が置き去りにされる懸念があるとか、
集落の頭上に発生土を積み上げるとか、
そういう大迷惑に比べれば”はるかにマシ”です。
これら、住居移転等を伴ったり、直接的に公害を押し付けられるう地域であっても、必要最小限の補償以上の”プラスアルファ”がJR東海から示されたという事例は今のところ聞いたことがありません。
記事中にある早川町や大鹿村の道路整備にしても、これはJR東海の都合―早川芦安連絡道路は発生土処分事業と一体化、大鹿村ではトンネルを新設せねば工事車両の通行が困難―と、地元要望とが一致していたから事業化されたわけであって、けっして工事に協力する見返りを求めたものではありません(だから記事の表現はオカシイと思う)。
…地区は2014年12月、JR東海に井川ダム手前から4キロほどのトンネルを県道に新設することなどを求める要望書を提出している。
そんなことをするわけがありませんし。
記事中には
…地区の要望を何一つ聞き入れてもらえていない
とありますが、2014年12月というと事業認可を受けた後の話。既にアセスの段階で、JR東海は(地域社会に与える影響を含む)環境保全という大前提でさえロクに対応しないということが、リニア関係者の間では広く知れ渡っていたはずです。
それは井川地区に知られていなかったのでしょうか?
またも失礼な言い方になるけど、認識が甘すぎるか、他地域の情勢が全く伝わっていないのではないかと思うのであります。
それと、静岡県の「リニア反対派(たぶん街の住人)」とリニアに一番近い現地との間で、リニア事業に対する受け止め方に大きなギャップがあることを改めて確認することとなりました。そういう意味で、興味深い記事なのでありました。