リニアのトンネル工事に伴って大井川源流域に掘り出される建設発生土のはなしです。
JR東海の計画では、大井川沿いの平坦地に370万立米の発生土を積み上げることとなっています。
平成29年 事後調査報告書「導水路トンネル等に係る調査及び影響検討結果」より複製
国土地理院ホームページ 電子国土Webより複製した空中写真にブログ作者が発生土置場等を記入
この場所、
●70年位前までは大井川の流れにさらされていた
●背後の斜面上部には大きな崩壊地がある
●対岸は崩壊地だらけ
という地形条件ですから、安全性については非常に疑問があります。
また、絶滅危惧種の高山蝶の生息が指摘されているほか、植林地とはいえ大木が育っているとのことで、生態系や景観の保全という観点からも疑問のある場所です。
さて、トンネル工事で掘り出された岩・砂利・土のことを、土木業界ではズリと呼ぶそうです。このズリを含め、建設工事で地面を掘り起こしたり山を切り崩して出てきた岩・砂利・土のことを、総じて建設発生土と呼んでいます。
この建設発生土はゴミではありません。もう少し正確にいうと、廃棄物処理法でいう廃棄物ではない。
建設発生土は造成工事や埋立等で再利用できるため、再生資源とみなされているのです。金属や紙と同じように、リサイクルの対象となっています。
国土交通省
さて、静岡県版の環境影響評価書では、「静岡県における建設リサイクル推進計画2009」を基に、静岡県内での建設発生土の90%を有効利用すると記載しています。
平成28年3月28日第6回静岡県中央新幹線環境保全連絡会議にJR東海が提出した資料より
【リサイクルホームページ】
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/fukusanbutsu/genjo/teigi.htm
【発生土利用基準】
そして、建設発生土を含む建設副産物のリサイクル率目標も国が定めています。建設事業者は、この目標に沿うことが望まれています。
詳細は知りませんが、1997年から3度改定されており、現在は「建設リサイクル推進計画2014」が適用されていると思います。ただしリニア中央新幹線の計画策定段階では、「推進計画2008」が用いられていたはずです。
この国の方針に沿って、各都道府県も同様の計画を定めています。JR東海は、これらに従い、環境影響評価書の廃棄物の項において、再資源化についての方針を示しています。
例えば山梨県。
このように、リニア建設事業内で変電施設/保守施設の盛土、 駅周辺整備、早川芦安連絡道路などに転用する方針を示しています。早川芦安連絡道路については事業内容がきわめて不審なのですが、「発生土を再利用する」という観点からだと、一応、理屈は通っています。
なお、ここに掲載されているのは2015年版で、建設発生土の有効利用率を「平成30年度目標値」として80%以上と定めています。またも詳細を知りませんが、2015年版策定時に目標値を下げたのでしょうか。
いずれにせよ、360~370万立米※の発生土のうち90%を再資源化するというのが静岡県における目標値です。
※静岡県内に掘り出される発生土は、環境影響評価書作成時には360万立米とされていましたが、その後トンネルの位置が変更されたり導水路建設が新たに追加されたりしたため、370万立米程度にまで増えそうです。
しかし・・・。
冒頭にある通り、このほぼ全量を、大井川沿いの平坦地に山積みにする計画です。長さ約500m、最大幅約300m、盛土の厚さ70m程度という規模が見込まれています。静岡ローカルなもので例えると、静岡市街地にある八幡山よりもずっと大きくなります。
そして環境影響評価書によると、積み上げたのちは盛土上に林道を付け替え、全体を種子吹付や植樹によって緑化するのだそうです。
静岡県庁で開かれた会議でJR東海が提出した資料には、盛土終了後の予想図が示されています。側面や盛土上から眺めたものです。
平成28年3月28日第6回静岡県中央新幹線環境保全連絡会議にJR東海が提出した資料より
こちらは環境影響評価書にあった予想図。高い所(悪沢岳に向かう登山道)から見下ろした構図となっています。
予想図では、全てが木々に覆われることになっていますが、このように法面等の緑化を行うことで、周囲の山林に溶け込んだ景観になるのだそうです。
はい。ここが問題です。
JR東海は緑化して周囲の景観に馴染ませる、としています。側面からみた予想図、見下ろした予想図、両方を見比べたところでは、表面全てを木々で覆う方針のようです。何か建物を造るようなことは計画していないらしい。
これでも発生土を資源として再利用することになるのでしょうか?
環境影響評価書において、一方のページでは「資源として90%再利用する」としておきながら、別のページでは木を植えて森にする予想図が示された。
これは矛盾しているのではないでしょうか?
JR東海は、昨年11月に静岡工区での施工業者を決定させました。
業者が決まったからには、工事の内容も決まっているはずです。工事内容について全く音沙汰がないことから、巨大盛土の「完成後」については、山積みにして木々を植える当初計画のままで進める可能性が高い。つまり再資源化する見込みはゼロになると思われます。
再資源化率90%を宣言しながら0%で終わらせるような事業内容が、果たして容認されるのでしょうか。