JR東海がはじめて残土に関して具体的な試算を示しました。
長野県内区間約50㎞から発生する残土の量は、おおよそ950万立方メートルになるとのこと。
私が以前に試算したときには、南アルプスの52㎞のトンネルから発生するのは610万立方メートルとなったので、それにくらべるとかなり多めです。
私のシロウト試算が妙に過小評価だったのは、「変化率」という概念を考慮していなかったためでした。
私の試算した610万立方メートルという値は、掘削される空間の容積です。
実際には、空間から排出される岩は細かく砕かれ、デコボコの石となります。デコボコ・大小さまざまな大きさで出てきたものを積み重ねると、当然すき間ができて容積が増します。この容積増加の割合を「土量の変化率」と呼ぶそうです。http://cat-japan.jp/ms-net/yougo/machine/n57a2474.html
山地を形成する硬岩の場合、土量の変化率は1.65~2.00だそうです。仮に間をとって1.825とします。
先ほどの610万立方メートルに1.825を掛けると1113万2500立方メートル。(比重は1.51になる)
これが南アルプスを横断する長大トンネルから発生する残土の大まかな量になると思われます。中日新聞の記事では、「トンネル区間47㎞で950万㎥」となっていますから、52㎞の南アルプス横断の長大トンネル群52㎞の値としては妥当な数字でしょう。
※ただ、搬出に要するダンプカーの台数には変わりがなさそうです。
一般的な10t積み大型ダンプカーに積み込めるのは、通常9トンあるいは約6立方メートルまでだそうです。
一般的な10t積み大型ダンプカーに積み込めるのは、通常9トンあるいは約6立方メートルまでだそうです。
610万トンを運び出すには、610万t×(2.75t/㎥)÷(9トン/1台)で、のべ186.4万台。
1113万立方メートルを運び出すには、1113.25万㎥÷6㎥/1台で185.5万台。なお6㎥はちょうど9t。
1113万立方メートルを運び出すには、1113.25万㎥÷6㎥/1台で185.5万台。なお6㎥はちょうど9t。
さて、間もなく環境影響評価準備書が公表されることと思います。残土の扱いも、当然、環境影響評価の対象です。
環境に配慮した処理方法などあるのでしょうか?
掘り出し口は5ヶ所あります(山梨県富士川町鰍沢、山梨県早川町新倉、静岡市二軒小屋、長野県大鹿村釜沢、伊那谷の長野県豊丘)。
一ヶ所当たりに掘り出されるのは222.6万立方メートルになります。年間作業日数280日、10年かけて掘り出すと、1ヶ所あたり毎日795立方メートルとなります。
以下、もっとも山奥である静岡市二軒小屋を念頭において書きます。
795立方メートルの岩クズを運び出すためには、毎日133台の車両が必要です。
しかもこれは「年間工事日数2800日(月23日程度)」という前提です。
実際には悪天候などによって搬出の困難な日も想定されるため、環境アセスメントの予測段階では、月間工事日数を20日程度と見込むことが多いようです(注1)。
すると、のべ工事日数2400日で搬出することになり、1日あたりの搬出量は927.5立方メートル、大型ダンプカー155台分となります。
また、このほかにも環境影響評価の結果として作業日数を制限しそうな要素がいくつかあります。
①この一帯にはクマタカをはじめとする様々な希少動物が棲息しています。これらの繁殖期(春~梅雨)は車両の通行を見合わせるなんてこともよくあります(注2)。
②工事予定地は南アルプスのど真ん中で登山基地になっている場所です。登山者に配慮し、登山・紅葉シーズンの工事や車両の通行を禁止することも想定されます(上高地の砂防工事はオフシーズン)。
③マイナーな生き物ですが、アカイシサンショウウオ(絶滅危惧ⅠB)など移動能力の低い小動物が数多く棲息しています。これらが活発に活動する雨天・日没・夜明け前後の通行は避けるべきでしょう。
これらを勘案すると、搬出作業のおこなえるのは1~3月と11~12月の100日前後に集中します。
のべ日数1000日で222.6万立方メートルの残土を搬出すると1日あたり2226立方メートル、ダンプカー248台分となります。この集中日において、1日7時間通行(冬季の谷底だから夕方には真っ暗!)すれば、1時間あたり35往復となります。ある場所に立っていれば、51秒に1台通る計算になります。
現状ではほとんど車の通らない場所において、大型ダンプカーを絶え間なく走らせて、どこが「環境に配慮」した計画なのでしょうか?
しかも、長期にわたって搬出を行えなくなると、どこかに仮置き場を設けねばなりません。例えば60日分だと4.77万立方メートル。厚さ5mで積むと約97m四方(実際には若干縮みます)。
そんな用地が山奥の谷底のどこにあるのでしょう?
二軒小屋からの搬出を断念する…となると、今度は東側の早川坑口、西側の大鹿村坑口への残土搬出量がそれぞれ1.5倍に増加します。すると、ダンプカーの通行だけでも毎日400台近くになり、とてつもない負担となります。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はっきり言ってムチャクチャです。
これだけ膨大な残土が発生すると、小手先の環境配慮では焼け石に水です。
あるいは、ある項目への”環境対策”が、別の環境破壊を引き起こしかねません。
これでも”環境に配慮した”工事が可能だというのでしょうか?
(注1、注2 リニアと同じく静岡・長野にまたがる、「一般国道474号 三遠南信自動車道青崩峠道路 環境影響評価書」ではこのような”環境対策”がある)