南アルプストンネル工事により大井川の流量が大幅に減るかもしれないというい懸念。JR東海は導水路案で対応するとしていますが、それでは絶対に払拭できないのが水生生物への影響です。
その象徴的な存在に位置付けられているのがヤマトイワナ。
現地を訪れたベテラン釣り師の方にご提供いただいたヤマトイワナの写真です。
絶滅の恐れがあるとしてレッドリストに記載されながら、遊漁の対象ともなっている微妙な位置付けです。そのため地元では天然魚の増殖や保護区の設置など、保全に力を注いでいます。一般的に釣りによる影響は、解禁期間を定めたり、持ち帰ってよい数を制限するなどして、生息数の激減を避ける措置をとることが可能だと思います。
いっぽう河川流量の減少は、生息地そのものの縮小・質の低下となりますから、川が育むことのできる魚の数の減少に直結します。
また、トンネル工事により流量減少が引き起こされるケースでは、流量を復元することは原理的に不可能のようです。そのため破壊された生息環境を元に戻すこともかないません。この点が利水目的での取水とは異なる。
生息可能な環境が大幅に縮小/悪化して個体数が激減してしまうと、自然環境の変動に対する種全体としての抵抗力といったものが弱まってしまうかもしれません。
すると絶滅のリスクは途端に高まってしまいます。
上千枚沢合流点付近
JR東海の試算ではこのあたりでの流量が2㎥/s程度減少するとされる
このように、生息地が限定されている生物の生息環境を不可逆的に改変する場合は、月並みな表現ですが、まずは分布状況や生息環境の現状を把握し、そのうえで十分な対策を練っておかねばなりません。
ヤマトイワナについては、2011年6月の環境影響配慮書段階(ルートが3㎞幅で示された段階)で、既に静岡市から生息情報および懸念がJR東海に伝えられていました。
しかしこの時点で生息情報を工事計画に反映させてゆこう、という明確な姿勢は示されていません。事業者見解で「存在が確認された場合は・・・」とあるように、見つかるまで具体的な対策をとるつもりがない、という姿勢もうかがえます。
その後、2014年8月までの手続きにおいても、「ヤマトイワナは確認できない」「流量が減るかもしれないが他にも生息環境は残されるから影響は小さい」とするばかりであり、具体的な対策については全く示されないままでした。
さすがに県のほうとしても問題視し、分布状況の継続調査を要求するとともに、改めて具体的な環境保全措置を求めることとなりました。
実はこの間、地元漁協や静岡市が現地調査をもとに「ヤマトイワナは生息している」として保全を求めているのですが、JR東海としては「それは魚体の模様が微妙に異なるのでヤマトイワナではないと考える」といった対応に終始して、明確な対応を渋っています。
漁協の要望
平成28年度静岡市調査
最後にJR東海が公式に見解を示したのは昨年6月のこと。「事故調査報告書(導水路トンネル等に係る調査及び影響検討結果」に対する県知事意見への事業者見解という形です。
ところでJR東海の論理がよく分からない。
こちらは環境影響評価書です
「仮に一部の河川で流量が減っても他にハビタット(生息地)がある」と述べていますが、同社が何年間も調べながら「見つからない」としている以上、生息地は非常に限られていると認めていることになります。
また、「相当上流部には生息しているとされている・・・」としています。同社の試算では、”相当上流部(※)”にまで流量減少が生じるとの結果が出ていますので、生息(しているかもしれない)地域にまで影響が及ぶかもしれません。したがってこの記載からは、ごく限られた生息地が破壊されうるとの解釈が導かれます。
(※)西俣取水堰より上流。ヤマトイワナ保全のため禁漁となっている。
昨年6月の「事故調査報告書(導水路トンネル等に係る調査及び影響検討結果」に対する県知事意見への事業者見解についても、やはりよく分からない。
一番上の欄には、導水路出口より上流や支流に生息する生物について、場合によっては移植で対応する可能性が示されています(ここでいう生物とは、おそらく水生生物全般を指すものと思われる)。
しかし移植するといっても、流量現象の起こる範囲が不明である以上、現時点では現実的な手立てとはいえません。
それに・・・。
広範囲に流量減少が及んだ場合、その範囲に生息している生物を受け入れるだけの河川がどこにあるのでしょうか?
保全対象となっている種には、ちっぽけな水生昆虫等も含まれていますが、そうしたものをを探し出して移植することなど非現実的なのでしょうか?
また、同社が6年以上にわたって現地調査をしながらヤマトイワナを「確認できていない」と主張している以上、その結果を信頼するならば、生息地は確認できていないことになります。保全対象となっているヤマトイワナでさえ、移植を行う事前調査は済んでいないと言わざるを得ません。すべての種について、見つかるまで延々と調査を続けるのでしょうか?
また、同社が6年以上にわたって現地調査をしながらヤマトイワナを「確認できていない」と主張している以上、その結果を信頼するならば、生息地は確認できていないことになります。保全対象となっているヤマトイワナでさえ、移植を行う事前調査は済んでいないと言わざるを得ません。すべての種について、見つかるまで延々と調査を続けるのでしょうか?
別の欄(次表右下)には、導水路出口への対策として電力会社との協議により放流量を調整する案が示されています。しかし取水堰より下流での現地調査で「確認できていない」と主張している以上、これはヤマトイワナへの対策としての有効性は薄いことになってしまう。
もっと直接にヤマトイワナの保全を訴えている項目もありますが、それはこんな具合。
見事に無視。
このように、現時点でヤマトイワナをはじめとする水生生物への対策は、まだまだ不十分であると思われます。これでは工事認可をすることはできないと思います。
なお本種に対し、冒頭で「象徴的」という表現を用いましたが、これは別にリニア計画に異論・反対を唱えるためのシンボルという意味ではなく、環境影響評価手続きにおいて事業者自ら南アルプスの河川生態系保全のキーストーン種に選定しているという意味合いを含めて用いています。
ヤマトイワナをはぐくむ河川環境を維持してゆくことは、同時に他の多くの生物をも保全してゆくことになります。これこそ保全すべき象徴としての意味があるので、「水槽で養殖してりゃいいじゃん」というわけにはいかないでしょう。