リニアのトンネル工事にともなう水環境への影響というと、南アルプストンネルと交差する大井川の流量や、中央アルプストンネルが貫く南木曽町の水源保全が特に問題視されています。
また、甲府盆地~伊那谷間にある水系については、環境影響評価書への大臣意見において事前予測の実施が要求され、アセス手続き終了後に試算がなされています。そして案の定、河川流量の減少が予測されたものの、具体的な対策等は示されぬままのようです。
路線の8割がトンネルとなる中央新幹線。水環境がネックとなりそうな場所は他にもたくさんありそうです。
例えば神奈川県相模原市から山梨県上野原市にかけて、道志川の左岸に沿って計画されている長さ10449mの藤野トンネル。
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地形図を眺めてみると、稜線の標高は500~600m程度で、浅い谷が複雑に入り組み、ところどころに山村が分布しているようです。
藤野トンネルは、地上の地形と全く関係なく、一直線に一帯を貫きます。そのため多数の沢と小さな土被りで交差することとなります。
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一般的に、トンネルへの地下水湧出による地表付近の水環境への影響は、トンネルの土被りが大きい(地表から深い)ときは広く弱く現れ、土被りが小さくなるにつれ、狭く強く現れる傾向にあるとされています。
山梨実験線の建設工事においては、数か所で川の流れが消滅する事態となりました。環境影響評価書に記載されている事例について、川と交差する地点での土被りを調べてみたところ、以下のようになっています。
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山梨実験線の場合、水枯れが公式に認められた8流域のうち、5ヵ所は土被り200m未満でした。
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神奈川県の藤野トンネルの場合はどうなっているのでしょうか。JR東海発表の環境影響評価書関連図や縦断面図をもとに、目立つ沢と交差する箇所の土被りを調べてみました。結果は以下の通りです。
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いずれも国土地理院ホームページ 電子国土Webより複製・加筆
青い数字は河床の標高(m)
赤い数字はトンネルの路盤標高(m)
黒い数字は土被りの推定値(m)
数値は環境影響評価関連図から読図
総じて、土被りが100m未満となり、中には50m未満で交差する箇所もあります。トンネルと河床とが近接していることから、万が一大量に湧水が生じた場合、マトモに河川流量や近傍の地下水位に影響を与えるのではないかと思われます。
評価書には、地域ごとの簡易/小規模水道の水源所在地が示されています。いずれもトンネルがほぼ真下を通過することとなっています。
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藤野トンネル沿いにおける飲料用水源の分布
環境影響評価書より複製
特に仲沢川という川が気になりました。
この川の表流水は生活用水に供されているようです。
リニアのトンネルは、この川の真下を、55m前後と小さな土被りで1㎞近くも沿う構造になることが計画されています(①参照)。しかも、より地表に近いところに斜坑(非常口)が計画されており、そちらの土被りはおそらく20mぐらいになると思われます。
大事な水源地帯において、あえてトンネル川に沿わせたうえで、さらに斜坑を並行させのは、水環境への影響を軽視しているのではないか?という思いがいたします。
地元に対し、どのような説明がなされているのか知る由もありませんが、ルート検討経緯から水枯れ発生時の対策に至るまで、住民の方々が納得できるような説明はなされているのでしょうか。
また、事後調査としてトンネル近傍の沢での生物調査が行なわれています。この調査自体、1年に1回しか行っていないので、有効性がきわめてアヤシイのですが、それはともかく、重要種としてヤマメどが見つかっているようです(放流個体かどうか不明)。
河川の表流水が消滅してしまえば、当然、そこに生息する動植物は大打撃を受けます。種によっては消滅してしまうかもしれませんが、評価書の記述を見た限りでは、具体的な対術を考えていないように見えます。
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なお、環境影響評価書には、道志川とトンネルとの位置関係が示されています(掲載)。この図の言わんとしていることが不明ですが、トンネルは本流よりも高い位置にあるため、本流の水を引き込むことはない、との趣旨であろうと思われます。
しかし、左岸の多数の支流の水を引き込んでしまった際の影響については触れていません。
トンネル湧水により支流の水を引き込んだ場合、それは最終的に東側坑口すなわち道志川橋梁で本流に戻されることになります。調べたところ、道志川に設けられた横浜市水道局の鮑子(あびこ)取水堰を素通りすることになりますが、その下流にある城山ダム(津久井湖)に放流することになるようです。横浜市水道事業の詳細を把握していないので、利水への影響の有無については分かりません。
http://www.city.yokohama.lg.jp/suidou/kyoku/suidoujigyo/jigyogaiyou.html