アオキラン
という植物が、南アルプス山中での宿舎建設により失われる恐れがあるとして、JR東海は昨年秋に移殖および種を採取して播いていたそうです。
ブログ作者はハイキング・サイクリングがてら植物を観察することを楽しみとしておりますが、残念ながらアオキランという植物を実際に観察したことはありません。
図鑑などで生態を調べてみたところ、次のような特徴があるそうです。
・ランの一種で菌従属栄養植物
・開花は8~9月
・毎年地上に姿を現すとは限らない
・激レア→環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠA指定
(⇒日本のレッドデータ検索システム)
・2005年に、静岡県内で確認された動植物の目録が県から発行されているが、その中に本種の記載はない。そのため静岡県版のレッドリストでの指定もなされていない。
http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-070/wild/mokuroku.html
http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-070/wild/mokuroku.html
どうも南アルプスの山梨県側での生育は以前より確認されているようでして、個人ブログなどでは、北岳周辺で撮影された写真が紹介されています。しかしこれまで静岡県側での生育は確認されておらず、静岡県版の動植物目録やレッドリストでの記載はありません。そんな植物が、環境影響評価での現地調査で100個体以上確認されたということです。
それが改変予定地内だったので・・・・いつの間にやら移殖を終えてしまったらしい。
以下、環境影響評価手続きを振り返ります。
まず、アオキランが見つかったことを報告した準備書(2013年9月)です。
これに対する知事意見(2014年1月)と事業者回答(同4月)。
右上欄のJR東海の主張は、全く意味不明です。
確認されたのが100個体以上で、そのうち100個体以上が「改変の可能性のある範囲」内で見つかったのですから、知事意見のように「ほとんどが失われるおそれがある」と解釈するのが普通だと思うのですが、JR東海によると「相当離れた地域」に確認された個体があるから、ほとんどの自生地・生育環境が失われることはないのだそうです。
菌従属栄養植物とは、従来は腐生植物といわれていたものです。自らは光合成をおこなわず、根茎を介して共生する菌類から栄養をもらって生活する植物のグループを指す用語です。身近なところではギンリョウソウ、ムヨウランなんてものが(多少は)有名かもしれません。
菌従属栄養植物の生態についてはまだまだ分かっていないことが非常に多く、どの植物がどういう種の菌類に依存しているのかも、まだまだ研究途上のようです。
ただでさえ希少価値が高いうえに、観察例が少なく、生態についても不明な点が多い植物であるなら、移殖にはリスクがあることでしょう。まずは回避を検討すべきだと思うのですが・・・。
そしてこちらが、知事意見を受けて書き換えてある(はずの)補正評価書。何も変わっていません。
そして、なんだかよく分からぬうちに、JR東海としては移植することに決めたようです。
こちらが事後調査計画書(2014年11月)。
で、今年6月に公表された平成29年度事後調査報告書によると、すでに昨年秋のうちに、移殖を終えてしまったとのこと。
そしてほとんど同じものが、先月18日に公表された「宿舎建設前事後調査報告書」にも掲載されています。
結局、具体的なことは何にも分かりません。
・100個体以上が確認された「改変の可能性のある範囲」と、今回の宿舎建設予定地との位置関係
・移殖せざるを得なかった理由
・移植が可能であると判断した根拠
・移殖個体の数
・移殖当時の個体の状況
・今年の状況
これらはどうなっているのでしょうか。
だいたい、写真で移殖個体を隠していることに何の意味があるのでしょうか。仮に盗掘を避ける意図があるのなら、アオキランそのものではなく周囲にモザイクをかけねば無意味でしょう。
失敗したのを隠してるんじゃないのか?と勘ぐってしまうわけです。