ここ2ヵ月ほどの間に、JR東海がトンネル湧水を全量ポンプアップすることを表明するなど、大井川の流量保全についての協定締結に向け、動きが活発化しています。
全国紙の報道などでは、何となく「協定が結ばれれば工事が可能…?」みたいなニュアンスが感じられるようになってきました。
しかし、果たしていかがなもんでしょう?
経緯を振り返ってみます。
JR東海がトンネル湧水を川に戻す導水路案等について、環境影響の検討結果を事後調査報告書の形式で提出したのは2017年の1月17日のことでした。
これに対し県の審査が行われている最中の3月13日、水利用団体(上水道、土地改良区、電力会社など計11)はJR東海と県に対し、流量減少対策の内容を明記した協定を同年4月末までに下流利水者と締結するよう要望書を提出しています。
4月3日にJR東海に提出された静岡県知事意見では、利水者団体の要求を全面的に反映したものとなっています。
しかし、導水路を補助するポンプアップ量についての見解の違いや、そもそもの試算の妥当性などで話がまとまらず、知事意見から1年半を経た先月中旬にJR東海から協定案が出されそうですが、いまだ締結には至っていません。
さて、協定の締結が要求されているわけですが、具体的な内容等については公表されていないようです。
協定締結を要求したのは大井川水利調整協議会を構成する11の団体。県庁のホームページによると、要求書提出時のメンバーは次の通り。
私、この表を見て「あれっ?」と思ったことがあります。
東京電力の名が見当たらないのです。
大井川の最上流部にある田代ダムは、大井川から最大4.99㎥/sを取水し、山梨県側の早川水系に落として発電しています。この水使用について下流の住民から強い批判が巻き起こり、長年にわたる「水返せ運動」を経て下流へ一定量の水(環境維持放流)を獲得するに至っています。
田代ダムは他水系へ導水していることから、大井川水系の環境保全を考える上で、流域から非常に厄介者扱いされてきた歴史があるようです。
いっぽう、リニア建設による流量減少が起きた場合に、最も顕著な影響を受けると予測されるのはこの田代ダムです。
また、JR東海が計画している導水路出口よりも上流に位置することから、今のところ、導水路案で対応することはできません。
その田代ダムを管轄するのは東京電力です。
大井川上流部の電力施設とリニア渇水予想区間との位置関係
田代ダム(東京電力)、西俣・木賊の両取水堰(中部電力)は導水路で対応できぬ区間にある
ややこしいことに、大井川水利調整協議会に加わっている中部電力は、導水路案では対応できぬ区間にも取水堰を持ちます。ここの取水堰での対応について、おそらく中部電力としては、大井川水利調整協議会の立場とは別に電力会社tしての立場で東京電力との調整が必要になるはずです。
さらに下流の利水への対応とは別に、導水路出口より上流部での環境保全のためにおこなうべき対応も必要になってきます。これは取水堰の操作(=発電所の稼働率)と関わるので、電力会社と他の利水団体、および漁協との調整が必要となるかもしれない。
さらにさらに、富士川水系で田代川ダムからの放流水を加えて発電をおこなっている日軽金の発電所とか、それらの発電所を抱える山梨県側の自治体の意向とか・・・。
キーパーソンが多くで複雑怪奇でありますが、協定締結など可能なのでしょうか?