ふと気になったのですが、トンネルの中に湧き出した水は誰のものになるのでしょうか?
まず、河川法には次のような条文があります。
第二条 河川は、公共用物であつて、その保全、利用その他の管理は、前条の目的が達成されるように適正に行なわれなければならない。
2 河川の流水は、私権の目的となることができない。
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=339AC0000000167
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=339AC0000000167
この第2項は、河川の流水は誰の所有にも属しないと解して私権を排除し、河川管理者の管理下においていると解釈できるのだそうです。
それでは、河川の近傍に集水パイプを埋めて川の下から水を抜きとることが可能のように思えますが、それはダメだそうです。
許可の対象となる「河川の流水」の範囲は、河川法上の河川を構成する水である。基本的に表流水をいうが、これと一帯をなしている水、すなわち表流水と一体となった伏流水も、その占用によって河川の流況に影響を及ぼすものであるから、河川の流水としての管理の対象となる。従って、地下水であっても、明らかに伏流水でないと認められる水以外は河川の流水として考えるべきであろう。
「河川法研究会 編(2006) 逐条解説 河川法」 より
河川の近傍にて、地下の浅い部分に存在する地下水は、河川の表流水と一体として管理すべきということです。この解釈、裏を返せば「地下水であっても、明らかに伏流水でないと認められる水は河川の流水ではない」ということになります。
ですから、トンネルの所有者が、トンネル湧水をミネラルウォーターとして販売したり、小水力発電に用いることが可能なのでしょう。「巨大な井戸」という意味合いなのかもしれない。
大清水トンネルからの湧水を、JR東日本の駅にて販売しているケース。
https://toyokeizai.net/articles/-/147365
https://toyokeizai.net/articles/-/147365
⇒「関西広域小水力利用推進協議会のブログ」によると、飛騨トンネルの湧水に水利権は適用されない。
さてさて、分からないのが南アルプストンネルの湧水。
一般的に伏流水というと、河川水を起源として、地表近くの粗粒な層(砂とか小石)の中を比較的早い速度で流下する水がイメージされます。
ところが南アルプストンネルの場合、大井川の川底から数百メートルも深い岩盤内となるため、そこで水が湧き出しても、これは一般的に伏流水とはいえないと思います。ふつう、岩盤内の水は「裂か水」というらしい。
つまり、大井川流域内での湧水でありながら、大井川の水としては認められない可能性が高いのではないでしょうか。
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以下、ブログ作者の想像の世界です。
もしもトンネル湧水が、法的には大井川の水ではないのであれば、JR東海に対して大井川に戻すことを要求する根拠は弱いといえるかもしれません。協定を結んだとしても、法的根拠が希薄であれば心もとない。
そもそもJR東海にっては、トンネル完成後の湧水は、先進坑を使って山梨県側の早川に放流すればほとんどコストがかかりません。300mもの標高差を逆流させる大井川へのポンプアップや導水路の維持管理費は、JR東海にとって全くのお荷物でしょう。しかも永久につきまとう。
ですから仮にリニア新幹線が赤字路線で徹底的なコストダウンが必要になれば、真っ先にカットされうる。
また、トンネル湧水がJR東海にとって商品化など潜在的に利益を生み出す可能性を秘めているとすれば、それを手放すよう要求することは困難なのかもしれない。
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南アルプストンネルは、富士川水系、大井川水系、天竜川水系と、3つの一級水系に一跨ぎ(?)にします。
全国各地に数多くのトンネル工事が行われてきましたが、一級河川の下を山岳工法(水抜きを前提)でくぐり抜け、かつ、水利権への影響が生じるような事例は皆無であったdしょう。
静岡県は大井川の水問題について、自然科学系の専門家や技術者を集めて会議を行っていますが、法律上の問題も大きそうに思えます。