静岡県庁で開かれた会合において、JR東海側が、河川流量が減少しそうな場合は、事前に水生生物を他の場所へ移殖することを提案したそうだ。
提案によると、工事によって沢の水が枯れることが予想された場合、魚や河川に生息する生物を別の場所に移す。植物も移植する。
JRの沢田尚夫・中央新幹線建設部次長は「県やさまざまな専門家の意見を聞いて具体的に進めたい」と述べた。
こちらは地元SBSテレビの動画ニュース
ここでは「希少な魚」という表現をしているので、何の魚かはっきりしませんが、これまでの協議や市長意見、県知事意見を踏まえると、ヤマトイワナを念頭においているのではないでしょうか。すると不思議な話になる。
そもそも環境影響評価書では、2012年に行われた現地調査で、ヤマトイワナは確認されなかったと報告しています。その後、毎年行われている追加調査でも、見つかったという報告はありません。
JR東海はヤマトイワナを保全対象種に位置付けているのですが、平成30年6月時点で式にはまだ、分布範囲を把握できていないことになります。
「いる」と結論付けたのなら、保全策の一案として移殖という手法を考えることも理解できなくはない。しかし現時点ではあくまで「いるかいないか分からない」段階です。
このほど出された提案は、昨年度の調査で分布が確認されたのか、あるいは今後見つかった場合の方針を示したものなのか、そこのところがはっきりしません。
別の魚類や水生生物を対象としているにしても、以下のような疑問があります。
1.不確定要素の多い案件での移植は危険では?
河川や池を埋めたてるようなケースでは、改変する(影響を受ける)場所・程度・時期は定まっています。どのタイミングで捕獲してどこへ移殖すればよいのか見当をつけることができますから、保全措置の手法として有効かもしれません。
しかしトンネル工事による河川流量の減少は、事前に影響の程度や範囲を知ることはできません。
したがって下手をすると、移殖前に川が枯渇する、移殖した先の川も枯渇する、なんてこともありえます。逆にトンネル完成後も河川流量が減少しないというケースも考えなければなりませんが、その場合、事前に動植物を移植させていたとしたら、無駄に自然をいじっただけになります。しかし生態系を元通りに直せるかどうかは知りません。
というわけで、河川の場合には不確実性が甚だ大きいのではないかと思われます。
2.移植先の環境が長期にわたり保全される確証がない
この付近を流れる河川は、地図でも想像できるようにごく小さな規模であり。養える生き物の生息数上限は、自ずと小さなものになるはずです。
ちょっと思考実験していただきたいのですが・・・。
A川とB川があるとします(水槽でも金魚鉢でもいいです)。どちらの川も100匹の魚を養えるとします。トンネル工事でB川の水が枯渇するかもしれない…として、B川の魚100匹をA川に移すとします。
このとき、本来100匹しか養えないA川に200匹の魚を住まわせることになります。
果たしてA川に住む魚達はどうなるのでしょうか?
もうちょっと具体的に考えると、エサ、隠れ場、繁殖場、該当種と競合関係にある種の情報など、生息個体数を決定づける様々な要素を調べ、最適な環境の河川を見出せなければ移植は成功しません。しかし、そもそも良好な環境が広く残されていたのだったら、その種はなぜ数が減少しているんだ?という話になるわけで。。。
また、生息域を縮小させることには変わりありません。すると、急激な環境悪化(人為的・自然的問わず)への耐性も弱くなってしまう。移殖した先が集中豪雨で破壊されて全滅なんてこともありうるわけです。
・・・JR東海の提案は、どうも着工という既成事実づくりへの「その場しのぎ」というようにしか思えません。本当に環境保全を考えているのなら、まずは水を減らさない方法を考えてほしい。
【参考文献】