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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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河川法第三十一条(原状回復命令等)に対応できるのか?

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4月15日に静岡県庁で開かれたJR東海と有識者との協議を伝える記事に、興味深いやり取りが掲載されていました。


大井川流量減対策、JR回答に委員ら苦言 リニア工事・連絡会議

一部引用します。
リニアが廃線になったり、JR東海が存続できなくなったりした場合の水量回復措置を巡り、同社側が「しっかり引き継ぐとしか言いようがない」と繰り返した。難波喬司副知事は「そういう、むちゃくちゃな話をしたら議論が終わる」と苦言を呈し、森下部会長が結論を保留した。

このやりとりですけど、掘り下げて考えてみると、実は南アルプスルートの妥当性を疑うようなところに端を発しているかもしれないと思うに至りました。


河川法の適用されている河川の水を使う場合、河川管理者から水を使用する許可を受けなければなりません。「流水の占用」といいます。
国土交通省 水利権申請の手引き 

河川流量を減らすことは、流水の占用という形態でなければ許されません。水を使うわけでもないのに流量を減らすことは、河川法で禁じられた「河川の損傷」にあたる可能性があるようです。

さて、「流水の占用」は、河川に堰やダムなどの工作物を築いて取水することでなされます。

こうした取水施設などの工作物が使われなくなったときは、河川法に基づき河川管理者に届出を出すことが定められています。

(原状回復命令等)
第三十一条 第二十六条第一項の許可を受けて工作物を設置している者は、当該工作物の用途を廃止したときは、速やかに、その旨を河川管理者に届け出なければならない。
2 河川管理者は、前項の届出があつた場合において、河川管理上必要があると認めるときは、当該許可に係る工作物を除却し、河川を原状に回復し、その他河川管理上必要な措置をとることを命ずることができる。 

静岡県の場合、廃止の届出に必要な書類はこちらからダウンロードできるそうです。
http://www2.pref.shizuoka.jp/all/sinsei.nsf/06.html/CBD81192A5343D774925772D0018CBBA

廃止した後は、「原状に戻すことが原則」なっているそうです。場合によっては第七十五条(河川管理者の監督処分)により原状回復を命じることもできるとされているようです。
(参考)
国土交通省近畿地方整備局
https://www.kkr.mlit.go.jp/river/shinseimadoguchi/shinsei/sinsei_09.html
「なお、廃止後は、必要な措置(一般的に原状回復)を工作物を設置した者の負担において行うのが原則となります。 」との説明がある。


ところで、リニア新幹線の南アルプストンネ建設は、静岡県から河川法上の許可を受けることが前提とされています。


(2018/11/20静岡新聞記事)
https://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/568012.html
記事では、
河川法は河川区域で橋などの工作物を新改築する際、河川管理者の許可を受けなければならないと規定。国の通達では「治水上または利水上の支障を生じる恐れがないこと」を許可の条件にしている。 
と説明していますが、これは第二十六条の条文と、河川敷地許可準則のことを指すと思われます。

(工作物の新築等の許可)
第二十六条  河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。河川の河口附近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、同様とする。 
(第2項以下 省略) 

第二十六条の許可が必要、ということですので、この許可が出たならば、南アルプストンネルは自動的に第三十一条の適用対象となるのではないでしょうか

つまり遠い将来、何らかの事情で南アルプストンネルが放棄されたり、リニア事業が中止になったりした場合、JR東海は原則として原状に戻すことが要求されるように思われます。

ところで、河川直下に掘られたトンネルにおける「必要な措置(一般的に原状回復)」とはいかなるものでしょうか?

トンネル工事では地表を改変することはありません。河川への影響は流量減少という形で現れます。ですから「必要な措置(一般的に原状回復)」とは、一般的な感覚では流量の維持、あるいは回復、ということになろうかと思われます。

冒頭に述べた堰ならば、撤去して取水口を塞げば、全く元通りとはいかないまでも、もとの姿に近づけることができるでしょう。少なくとも減った流量は元に戻せます。2018年には、熊本県の荒瀬川ダムの撤去が終了していることから、大型ダムであっても、費用と時間さえかければ原理的には原状回復が可能と言えそうです。取水と関係ありませんが、橋や係留設備なども同じ扱いになるはずです。


いっぽう、トンネルというものは撤去できるわけでありません。

トンネルの出現によって減った河川流量が、トンネルの使用停止によって元に戻るわけがありませんし、(未固結層の浅いトンネルならともかく)岩盤中に掘られるトンネルならば、仮に埋め戻しても水脈が復元されるわけでもない。

トンネルが別用途に転用される場合ならば、引き継いだ所有者が責任をもってポンプアップ等の維持管理を負うことで(下流の)流量を維持できるかもしれません。しかし地殻変動などで使用不可能になって放棄されるようなケースなら、どうしようもなくなってしまいます。年間4㎜以上隆起しているとされる山岳地域のトンネルの耐用年数はいかほどか…?
⇒災害により使用不可能になった許可工作物も撤去対象となりうる事例

河川法が許可工作物の使用廃止後の現状復元を原則としている以上、現状復元の困難な工作物は作ることが難しいのではないでしょうか。



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