―仮に、将来リニア中央新幹線が廃止となったり、JR東海という企業が存続できなくなった場合ても、大井川の流量維持は当社がしっかり引き継ぐ―
先日、静岡県庁での会合や、その後に開かれたJR東海の社長さんの会見で、こうした見解が示されました。
けれども、河川について定めた河川法について調べると、どうも難しいじゃないのかな?という気がしてきました。いや、難しいというより法律が想定していないのかもしれない…。
河川法には次のような条文があります。
(土地の占用の許可)
第二十四条 河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
ここでいう「河川区域内の土地」は川の上下方向にも及び、例えば川を越えるケーブルやトンネルでも、許可が必要であるとされています。したがって地下深くを通るリニアのトンネルでも、河川(大井川)との交差部分の土地を使うことについて、河川管理者(静岡県知事)の許可を得ねばなりません。
この許可とセットで、トンネルという工作物を設置する許可を受ける必要があります(第二十六条)。
さて、こうして設置された工作物が用途を終えた場合には、速やかに河川管理者に届け出ねばなりません。
第三十一条 第二十六条第一項の許可を受けて工作物を設置している者は、当該工作物の用途を廃止したときは、速やかに、その旨を河川管理者に届け出なければならない。
また、リニア中央新幹線そのものが廃線になるケースばかりではなく、工事中にルート変更されるようなことも想定されます。
第三十一条 第二十六条第一項の許可を受けて工作物を設置している者は、当該工作物の用途を廃止したときは、速やかに、その旨を河川管理者に届け出なければならない。
2 河川管理者は、前項の届出があつた場合において、河川管理上必要があると認めるときは、当該許可に係る工作物を除却し、河川を原状に回復し、その他河川管理上必要な措置をとることを命ずることができる。
工作物等の使用が廃止された場合、現状に戻すことが原則となっています。
しかし通常の工作物と異なり、トンネルは撤去することができません。ですから「必要な措置」としてポンプだけでなくトンネルそのものの維持管理やを続けることが求めらるのかもしれません。
(普通、「必要な措置」とは、役割を終えた堰や橋台など工作物を撤去するのが困難な場合などに、崩壊や流出を防ぐための管理を行え、というようになるらしい。)
いっぽう河川法では、河川区域内の土地の使用について、「あくまで河川管理者のものであって、期間を限って使うことが許される」という仕組みになっています。
(河川法第二十四条、河川敷地占用許可準則)
(河川法第二十四条、河川敷地占用許可準則)
つまり大井川の地下といえども、そこは静岡県が管理する土地であり、JR東海は”一時的に”トンネルとして使用する許可を得ているということになります。言い換えると、南アルプストンネルの廃止が届けられた時点で、JR東海がトンネルの河川区域地下部分の占用を続けることは難しくなってしまうように思われるのです。
その時点で用途を終えている工作物のために、河川敷地の占用許可を出すことは可能なのでしょうか。
それとも、JR東海が管理費用を出して静岡県が管理する施設に変わるのでしょうか。
廃止となる場合には、地殻変動等によりトンネルそのものが使用不可能に陥ったり、ルートが変更されるようなケースも想定されます。鉄道トンネルとしての利用が不可能に陥ったものの維持管理費用を出せるのでしょうか?
また、リニア中央新幹線そのものが廃線になるケースばかりではなく、工事中にルート変更されるようなことも想定されます。
上越新幹線中山トンネルの建設では、掘削の最中に条件の悪い地層にぶつかり、大量出水が繰り返された挙句、最終的にその地層を避けてトンネルが掘られました。
あるいは、三遠南信自動車道の長野・静岡県境での工事では、ある程度までは道路が完成したものの、そのままでは非常な難工事が予想されたため、結局自動車道は別ルートとなっています(中途半端に造られた部分は国道152号草木トンネルとして供用中。
リニアの南アルプストンネルでこういうケースとなった場合、中途半端に掘りかけたトンネルが河川と交差する箇所の法的取扱いはどうなるのでしょうか。
トンネルとして使えず、ただ山中から水を抜いているだけの空洞に、河川敷地の占用許可を出すことができるのでしょうか。
何度も述べてますけど、一級河川の下を民事業で大規模な山岳トンネルで通過している前例はないと思われます。
まだまだ詰めるべき点はたくさんあるように思われます。