昨日の続きです。
リニアの南アルプストンネル静岡工区が着工できず、2027年開業が遅れる可能性をJR東海が示唆したことで、愛知県知事が「国が前面に出て調整すべきだ」とおっしゃっているそうです。
これについて、昨日のブログでは、環境影響評価手続きとの整合性を考えると難しいんじゃないのかなと書きました。
さて、国が調整に乗り出すことは難しいと思われる理由がもうひとつ。
JR東海が2025年名古屋開業を目標とした中央新幹線構想を発表したのは2007年(平成19年)のことです。
同社はその後同年12月25日に、整備事業費9兆300億円全額を自社負担すると発表。
ところが、その前年の2006年(平成18年)、JR東海は大井川上流部で河川流量の調査をおこなっています。後にJR東海は、これは国による地形・地質調査の一環であったと説明しています。
補正後の環境影響評価書(2014年8月)より
この図は一般の公衆や県に向けた準備書(2013年9月)段階では掲載されていなかった。つまり2006年段階で調査を始めていたことを知らされたのは2014年8月になってから。
ここを不審に感じます。
国土交通省は2006年の段階で、中央新幹線の実現においては大井川の河川流量のデータが必要になると認識していたことになります。
ところが、2010年から2011年にかけてルート検討をおこなった中央新幹線小委員会の場において、大井川の流量についてのデータは提出されず、検討課題とはされませんでした。
こちらが中央新幹線小委員会が国土交通大臣に提出した答申です。南アルプスルートを採用した検討経緯はこんなものだったと説明していますが、大井川がネックとなる可能性については言及していません。なぜなのでしょうか?
国土交通省ホームページより引用
それから8年が経ち、その大井川の流量をめぐり、リニア中央新幹線事業は停滞しています。
中央新幹線小委員会の場において、大井川―もうちょっと踏み込んで南アルプスにおける環境保全の実現性―について審議していれば、事業認可後5年も停滞しているという状況は回避できていたかもしれません。ある程度予測していたリスクを無視していたのですから、事業推進の立場にたってもおかしな話です。
結局、JR東海の立てた事業計画にお墨付きを与えたのは国土交通省です。
今、大井川の水問題に国土交通省が首を突っ込むと、当時の国土交通省における審議の進め方や採用したデータの妥当性などが問われることとなるでしょう。
なお、愛知県知事は「2027年開業が遅れることは受け入れがたい」とおっしゃっていますけど、そもそも「2027年開業」というのは、アセスどころか建設指示の前にJR東海が勝手に決めた目標です。工事工程どころかルートも決まっていない段階で定めた目標ですから、それに合わせろというのはムチャクチャです。当時、2027年開業に向けて具体的工事計画が定まっていたとしたら、アセスにおける様々な情報隠しが訴訟において問われることになる。