鉄道ジャーナリストの杉山淳一氏が次のような記事を書かれました。
ITmediaニュース(2019/6/21)
中立的な立場で書かれた、立派な記事だと思います。ぜひご覧ください。
あたかも静岡県だけが開業遅れの原因となるかのような扱いですが、最近はそのほかにも
・愛知県庁のすぐそばの名城非常口で、掘削に伴う大量出水により非常口が水没し、工事が1年近く停滞することになった(2018/12~)、
・名古屋駅周辺の用地買収が滞り2年延長された(2018/12/25)、
・長野県大鹿村の工事車両通行ルートをめぐり、地権者との合意形成の目途がつかず、結局予定通りの車両通行が見込めない(2018/12/19長野県公害審査委員会に調停を申請⇒2019/5/31不成立)、
・長野県松川村での大規模残土処分計画が中止された(2019/1)、
・山梨県南アルプス市で建設差し止め訴訟が起こされた(2019/5/30)、
・中央アルプストンネル山口工区の非常口掘削現場で陥没事故が起きた(2019/4/8)
などとトラブルが続出してますので、別に静岡県だけが遅れの原因じゃないと思いますけどねえ・・・。
ところで「2027年開業」という目標ですけど、これを定めるにあたりどのような検討がなされたのでしょうか?
超電導リニア方式での中央新幹線構想は、国鉄時代から何度も浮上してきたようですが、現在の計画の端緒となったのは、2007年4月26日のことのようです。JR東海は東京-名古屋間を先行開業すると発表しました。
同年12月25日、JR東海は東京-大阪間の整備事業費9兆300億円を全額自社負担すると発表します。
その後、JR東海は国土交通大臣の指示に基づき、地形・地質や整備費等の調査を行い、2009年12月24日に最終報告書を提出します。
これを受け、国土交通大臣は交通政策審議会へ諮問し、鉄道部会中央新幹線小委員会が発足。2011年3月から審議が始まります。
審議最中の2011年4月28日、JR東海は突如、開業予定年を2年先送りすると発表します。当時の報道ではリーマンショックの影響などと報道されていますが、小委員会の議事録等では未確認です。
というわけで、「2027年度東京-名古屋間開業」というのは、2011年に発表されたものです。もちろんこの段階では、事業主体としてJR東海が指名されるのかも、南アルプス/伊那谷どちらのルートが採用されるのかも、中間駅の建設費負担も、まだ決まっていません。
いつ「建設指示」が出されるか分かってなかったし、その後のアセス手続きに必要となる期間も全く不明のはずでした。アセス手続き開始前だから、どこでどういう工事を行うのかも、用地買収の概要も、どういう環境対策が必要となるのかも全くの未知だったはずです。
ですので、「2027年開業」というものをどうやって定めたのか、全く不可解なのです。
2011年6月から、環境影響評価手続きが始まりました。この環境影響評価の内容が非常にずさんであり、沿線各県で強い批判を浴びました。調査内容や評価方法が不適切だという以前に、事業計画に具体性がなく環境への影響が評価できないという声が強かったのです。別にブログ作者の偏見ではなく、準備書への意見などからも明らかです。
例えば準備書への愛知県知事意見(2014年3月25日)
こっちは神奈川県知事意見。
2013年の準備書公告の段階になっても、どこに何を造るのかは(少なくとも表向きには)まだまだ未定だったという証拠です。
だから、「2027年度開業」は、もともと確固たる根拠はなかったのではないでしょうか。
言い換えれば、周囲としても「2027年開業」に振り回されなければならぬ必然性は薄いでしょう。まして、具体性がないとしてJR東海の環境影響評価を批判していた愛知県知事が、その「具体性のなさ」に立脚した計画にこだわるのは矛盾だと思います。