今年になってJR東海が県に提出した資料に次のようなものがありました。トンネル湧水を川に放流する際のリスク評価についての質疑です。
河川水は、雨水や浅層から湧き出した水が主体となっています。これに対し地下深くの水は、浅層の地下水に比べてず～～～～～っと長い期間地下に閉じ込められていたのだから、おそらく
溶存酸素が少ない、
金属イオンなどを多く含む
水温が一定
溶存酸素が少ない、
金属イオンなどを多く含む
水温が一定
といった傾向にあると思われます。また、いきなり地下から出てくるので、生物由来の有機物（つまり水生生物のエサのモト）も乏しいのではないでしょうか（超・貧栄養ということ）。
河川水とは性質の異なった水を大量に川に流した場合、水資源や河川生態系への影響はどうなるのであろうか？ということが質問の趣旨だと思われます。
いろいろと気になる点がありました。
上から３段目の資料のとおり、地下水の水温自体は調べていたということです。
なぜ、今まで公表してこなかったのでしょうか？
調査期間は、
西俣では2013年7月1日～9月4日東俣では2012年9月1日～11月7日
となっています。
環境への影響の予測・評価・対策などを記載した図書（環境影響評価準備書）がJR東海から公告されたのは、2013年9月18日でした。また、公衆等の意見や自治体との協議を経て準備書が書き換えられたもの（評価書）が公告されたのは2014年4月13日のことでした。
JR東海は、地下水調査の結果を準備書もしくは評価書に記載することは可能であったはずです。しかし、結局公開されたのは2019年になってからのことでした。
表向きには、こうした調査をしていた事実を誰も知らぬまま、協議が進められていたことになります。
この点について、事業者側が情報公開に不熱心であったということは否定できないと思います。
それと、このグラフ（？）は一見しただけでは意味が分からない。ふつうは横軸を調査日、縦軸を水温とした折れ線グラフにするんじゃないの？
また、水温調査はわずか２ヵ月で終了していますが、これも解せません。
一般的に、河川水と地下水の水温差が最も大きくなるのは冬場です。
ここは標高1400ｍ前後の土地ですから、厳冬期にはマイナス20℃近くにまで冷え込む日があると思います（東電の二軒小屋ダムでの観測ではマイナス１５度はザラらしく、施設が凍結して取水停止となることも多いらしい）。そういう土地であるから、河川水もおそらく０度近くにまで下がったり、一部は凍結することもあるのではないでしょうか。いっぽう地下深くの水は気温変化の影響を受けにくい。JR東海の資料から類推すると、厳冬期でもプラス10℃前後を保っているかもしれません。
氷点近い河川に、大量のプラス10℃の水を流すことにより、河川生態系に変化を及ぼすかもしれないし、何ともないかもしれない。よく分かりません。
よく分からないからこそ、厳冬期の地下水温は環境への影響を考える上で重要なデータのはずです。それなのに、なぜ継続的な観測をしなかったのでしょうか？
JR東海は、環境影響評価手続きが終了した後も、事後調査として、各種の調査を続けていることになっています。調査員が定期的に訪れているのに、なぜ調査を続けなかったのでしょうか？ 冬季のアクセスが困難であっても、温度計を設置して自動観測することは可能のはずなのに。
また質問は「地下水温や水質は確認しているのか」と尋ねています。これに対しJR東海は水温の調査結果しか出していません。
水質は調べていなかったのでしょうか？
河川に放流する水の性質を把握しておくことは、言うまでもなく環境保全上、重要であるし、川に流す際の法的手続き上も重要になってきます。基準値以上の重金属等を含んでいたら、高度な処理が必要となるので、工期が伸びたり、工事費や完成後の維持管理費が増すといったことにつながりかねません。
それなのに、せっかくボーリングをおこなって地下水サンプルを手に入れておいて、水質を確認しないということがあるのでしょうか。本当に確認していなかったとしたら、何のための調査だったのでしょう？
結局、この質疑から見えてきたのは
①調査結果をなかなか公開しない
②調査内容が適切かどうか不明
という点です。
こういうところが、JR東海は環境への影響を甘く見ている、と言われる一因だと思います。「リニアの開業が遅れるのは静岡県のせい」という風潮が一部で流行しているらしいけど、JR東海が情報公開を渋っているのが最大の要因じゃないのかな？