JR東海 大井川水資源検討委員会資料より
6月6日に、静岡県からJR東海に対して「中間意見書」が出され、7月12日に、JR東海から「回答案」が出されました。どちらも県庁ホームページで公開されています。
回答案に対する県の反応は次の通り。
7月18日静岡新聞 朝刊
で、JR東海の社長さんは「いきなり否定はあり得ない」とおっしゃっていたようです。
けれど、今までとほとんど変わっていないのだから、それは仕方ないんじゃないのかなと思います。
例えばこの部分。
JR東海回答案よりコピー
左欄が県側意見で、右側がJR東海側回答です。JR東海が計画しているポンプアップ&導水路案の最大の欠点。すなわち湧水放流地点より上流側(特に西俣川)における詳細な予測と、万が一流量減少が起きた場合の生態系に対する丁寧な対応を要望しています。
ところが回答がかみ合ってません。
意見書では、「トンネル湧水を放流する地点より上流」への対応を迫っているのに、回答案は「万一…流量減少の傾向がみられた場合などには…トンネル湧水を西俣川へ流す」と答えています。ちぐはぐで回答になっていません。
もしかすると、県側の言う「放流地点」を導水路出口のことと考え、それに対し、導水路出口より上流の「西俣非常口から流す」と回答すれば十分と判断したのかもしれない。けれど、それでもちぐはぐであることには変わりない。
また、回答案では「渇水期の河川流量は、0.78㎥/秒と予測しており…」と記述してありますが、環境影響評価書に書かれた数字とは違っています。評価書では、工事中の予測値が0.78㎥/秒で、完成後は0.62㎥/秒になるとしていました。誤植かもしれません。
これは環境影響評価書(2014/4)より
別欄にはこんなことを書いてありますけど、「検討・実施していく」「ご協力を得ながら進めていく」となっており、これでは環境影響準備書段階から進歩がありません。結局、具体的にどうやるのかは不明です。
JR東海回答案よりコピー
さて、西俣での環境保全措置が困難さは、ポンプアップ案では対応できない可能性が高いという点にあります。
渇水期流量が現状1.18㎥/秒からトンネル完成後0.62㎥/秒に、0.56㎥/秒分が減ると予測したのは取水堰上流地点です。
ここは、塩見岳から流れてきた「中俣」と、悪沢岳から反時計回りに流れてきた「小西俣」との合流点直下です。
中俣、小西俣とも流域面積はほぼ同じなので、流量も同じ程度と考えられます。0.6㎥/秒ぐらいずつ、という具合でしょうか(平成30年度事後調査によると小西俣渇水期流量は0.039㎥/秒であった)。
ふたつの川のうち、中俣のほうはトンネルから離れているので、工事の影響は受けにくいでしょう。ですから、減少量0.56㎥/秒は、小西俣で起こるとの試算結果の反映である可能性が高い。
図示するとこんな具合です。
国土地理院ホームページ 電子国土Webより複製・加筆
JR東海は地図中の斜坑(西俣非常口)からポンプアップした湧水を放流するとしているが、小西俣の流量が減った場合には無意味である。
小西俣の渇水期流量はゼロに近くなると試算されていたのかもしれません。しかし、詳しいデータが出されていないので何とも言いがたいところです。
そこでもう一度知事意見を見ると、「季節ごとに(特に渇水期)流量と減少量予測の数値や影響範囲等を調査し…」書いてあるのですが、この点についてJR東海の見解は示されていません。
仮に、小西俣のトンネル交差地点で流量が減るとします。そこは西俣非常口から6㎞ほど上流で、標高は1900m以上、トンネルからの標高差は約800mとなり、ポンプアップは絶望的かと思われます。
質問には答えず、詳しい試算結果は不明で、そのうえ現在の唯一の対策であるポンプアップは役に立たない可能性がありますから、この回答案を受け入れてはダメでしょう。
そもそも日本地図を見渡して、標高2000m級の高地を流れて魚類を養っているような河川は多くありません。北アルプスと南アルプスのそれぞれ一部だけだと思います。西俣の環境は国内に代替性がないという点を、JR東海は把握しているのでしょうか。
ツッコミどころはまだまだありますが、長くなるので続きは次回。