昨日(15日)配信されたリニア関係の記事もひどい内容であったので、またファクトチェックおよび疑問提起。
現代ビジネス JR東海・静岡「リニア問題」第2ラウンドへ…国交省参戦の行方
8/15(木) 11:00配信
8/15(木) 11:00配信
⇒まず、何が第1ラウンドだったのか?
⇒そもそも河川法では利水目的以外での流量減少を想定しておらず、流量が減る前提のトンネル工事は許可できない。本来であれば河川法上許されない工事を認めさせようとしているところに根本的なムリがある。(国会答弁より)
JR東海としても、自社の利益のために悠久の自然を破壊するつもりはなく、なるべく悪影響を与えないように配慮していく方針だ。「全国新幹線鉄道整備法」に準拠して環境影響評価を実施し、その結果を国に届けた上で、2014年に国から中央新幹線品川~名古屋間の建設許可を得ている。
⇒誤解されているようであるが、環境影響評価は環境影響評価法に基づく制度である。新幹線建設は、同法では「第一種事業」に区分される。第一種事業とは、事業の実施による環境への影響が特に大きいとされており、事業者の意識とは無関係に、同法に基づき環境影響評価手続きを経なければ事業認可は受けられない。JR東海が環境に配慮して環境影響評価を行うことになったわけではない。
⇒そもそも、JR東海が「悠久の自然を破壊するつもりはない」と本気で考えているのであれば、壮大な環境破壊を避けて通れないリニア中央新幹線計画を実行に移しているはずが無かろう。それにしても、なんでJR東海を慮るの?
JR東海はこの環境影響評価書を作成する手続きのなかで、沿線地域には十分な説明をしたという認識だ。それゆえに東京都・山梨県・長野県・岐阜県・愛知県では着工できている。
⇒JR東海の認識は「十分な説明をした」といっても、それで地元自治体や住民が納得・合意したか、合意の上で着工できたのか、というのは全くの別問題である。長野県阿智村が「社会環境アセス」を実施した背景や、同県大鹿村での起工式をめぐる騒動について、執筆者は把握されているのであろうか。大鹿村の騒動は、まさしく「説明不十分」が引き起こしたものであり、いまだ工事車両通行、発生土処分をめぐる問題などとして尾を引いている。
⇒なお東京-名古屋のうち、ポツポツと飛び地的に工事が始められたので、用地取得・各種手続が終了していない区間では工事は始まっていない。山梨県の第四南巨摩トンネル東工区~実験線西端(28㎞くらい)も手付かずである(しかも差止め訴訟発生)。静岡工区10㎞を特筆して問題視するのは変だと思う。
静岡県としては、2013年に作成された環境影響評価準備書において、トンネル湧水のすべてを大井川に戻してほしい、また、県が整備する環境監視体制に参加することと意見している。JR東海からは独自予測に基づいて、「大井川の流量は毎秒2トン減少する」と回答。静岡県中央新幹線環境保全連絡会議が設置された。そして「湧水全量を戻す」という回答がないまま、環境影響評価書が作成された。
⇒ものすごく間違っている。
そもそも準備書を作成するのは事業者である。この場合はJR東海となる。下のパンフレットをご覧いただきたい。
・記事にある事項を時系列に並べるとこうなる。
2013年9月18日JR東海は環境影響評価準備書を作成。ここで「大井川の流量は毎秒2トン減少する」という予測結果を載せた。
2014年3月25日 準備書に対する静岡県知事意見を送付。湧水全量を戻すよう要求。
2014年4月22日 静岡県は中央新幹線環境保全連絡会議を設置
2014年4月23日 JR東海は評価書を作成。準備書への知事意見に対する事業者見解では、湧水を全量戻すという明確な記述はなかった。
2014年8月29日 JR東海は補正評価書を作成。
JR東海は2017年の環境影響評価事後調査報告書において、導水路トンネルで毎秒1.3トンを常時大井川に戻し、毎秒0.7トンについては必要に応じて戻すと記した。「全量戻し」を求めている静岡県はこれを不服とし、「南アルプス自然環境有識者会議」「大井川利水関係協議会」を設置。2018年9月に「大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に関する意見・質問書」をJR東海へ提出。JR東海はここで「湧水全量を大井川に戻す」と回答した。
しかし、静岡県は「湧水全量を戻す具体的な方法」と「南アルプスの生態系環境保全の方法」について、JR東海にさらなる回答を求めている。JR東海から納得できる回答がなければ静岡県区間の着工を認めない考えだ。
⇒具体的なデータを提示してこなかったから、深い議論ができないのである。例えば、渇水期における予測地点の追加、広範囲にわたる詳細な予測結果、湧水放流地点より上流側への対策など、最初から求められてきたのにいまだ出してこない事項もある。
8月4日のブログに書いた文章をご覧いただきたい。
トンネル工事は自然を相手にするだけに、予測不可能な事態はある。それをすべて、科学的に納得させよ、といっても無理がある。着工しなければ分からないことを、着工前に示せという静岡県側の態度は、過度な要求だ。
⇒予測不可能な事項が多いのであれば、事業者側としては可能な限り予測の容易な事業内容に改めるべきである。それが環境影響評価というものである。事業内容の修正が全く不可能な事業というのは概して環境に悪い。
⇒予測不可能な事項が多いのであれば、事業者側としては可能な限り予測の容易な事業内容に改めるべきである。それが環境影響評価というものである。事業内容の修正が全く不可能な事業というのは概して環境に悪い。
背振山周辺は福岡都市圏の水源となっているため、水資源の周辺環境を維持しつつ建設された。事前調査による湧水量予測はトンネル完成後の実測値にかなり近く、また予想外の事態にもきちんと対処している。その内容は、土木学会のウェブサイトで公開されている、鉄道・運輸機構の担当者による論文「周辺水環境を考慮したトンネルの設計施工 -九州新幹線,筑紫トンネル-」に詳しい
⇒筑紫トンネル建設工事の報告書には次のような記述がある(斜線部分)。
本トンネルルートの平面線形は、起点方にR=6,000m,終点方にR=9,000mの曲線区間を採用したS字形をしている。これは、平面的に曲線を用いることで、各ダムやダムへ流入する河川への影響範囲から極力離れたルートを選定したためである。
…比較した結果、直線ルートは、河内ダムに最も接近し、ダムに流入する河川付近の直下を通過するため、影響が懸念される。また、山神ダムにつちえも、平面的な隔離はあるものの、流入河川の直下を通過することとなる。… 31ページ目より
トンネルのルートをどこにもってくれば河川への影響を最小化できるか検討していたという。しかしJR東海はルート選定にあたり、大井川への影響を回避すべくどのような検討を行ってきたのか明らかにしていない。ここが根本的に違うのである。
環境保全措置は、回避⇒最小化⇒代償という順序で検討するのが基本とされる。大井川・水問題の場合、
1.河川流量に与える影響の回避
2.河川流量に与える影響を最小化する方法
3.影響が避けられない場合にとるべき対応
という順序で考えるべきである。これをミティゲーションという。1.については、工法やルートの再検討などである。場合によっては事業予定地の大幅変更や事業中止も選択肢に入れなければならない。ところが、JR東海は1.や2.についての検討はせず、いきなり3.を出してきた。つまりトンネル配置計画等の再検討はせず、湧水を導水路で戻す(=排除する)方策だけを提案してきたのである。だから話がおかしくなっているのである。
トンネル工事の残土問題については、長野県下條村が8月6日に「リニア中央新幹線関連工事対策協議会」の初会合が参考になる。
この協議会は、今後の中央新幹線工事で発生する残土処理地区の埋め立てで生じる課題や、埋め立て後の用地利用計画について、JR東海などと情報共有し対応を目的に設けられた。JR東海は協議会への連絡を密にし、スケジュールも協議会で検討する。地元に十分納得していただけた段階で工事を進めたい考えだ。
⇒これは静岡工区を念頭に置いた記述だろうか、それとも沿線全体を対象としているのだろうか。そこがはっきりしない記述である。仮に前者であれば、県や静岡市の設置した体制に不満があるということなのだろうか。
なお似たような協議会は沿線あちこちに設置されている。個人的にリンク集を造ってあるので参考にどうぞ。https://minamialpstunnel.web.fc2.com/hasseidookiba.html