ここ二ヶ月余りのあいだ、「静岡VSJR東海」転じて「大井川の水問題が解決されれば着工できる」といった報道が相次いでいます。今月に入ってからは「国交省が調整に動いたから事態の打開が期待される」というニュアンスの記事も増えました。
ところで、一連の報道がほぼ無視しているのが360~370万立米に及ぶ発生土の問題です。
仮に河川法上の各種許可を得たとしても、発生土置き場を確保しなければトンネルを掘ることは物理的に不可能です。それなのに、なぜか完全に無視されているのであります。というか、河川法上の許可に必要な関連法令として、森林法に基づく林地開発許可が必要になるんじゃないのな?
現在、JR東海は大井川沿いの燕沢平坦地と、その他6地点に置き去りにするとしています。燕沢以外は小規模ですから、ほぼ全てを燕沢に集約するつもりなのでしょう。
「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書【静岡県】平成26年8月」に基づく事後調査報告書(導水路トンネル等に係る調査及び影響検討結果)
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このブログで何度も繰り返した通り、燕沢平坦地は周囲を崩壊地に囲まれた河原という特異な土地です。
いくつかの文献や資料に基づくと、西側にそびえる千枚岳(2880m)の東面が大崩壊し、大井川を埋め立て、その堆積物を川の流れが削り込んでいった土地であるといえます。こうした大崩壊は少なくとも4度は起きているそうです。崩れた跡は「千枚崩れ」と呼ばれています。
https://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/tokai-news/CK2018123102000088.html
黄色の点線で囲ったのが燕沢平坦地
Google Earthより複製・加筆
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国土地理院ホームページ 電子国土Webより複製・加筆
黄色の線は現在の林道。JR東海によると、発生土を積み上げた後は橙色の線のように盛土上へ付け替えるらしい。
さらに個人的にヤバそうと思ったのは発生土置き場背後の崩壊地。新旧の画像を比較すると、40年足らずの間に確実に巨大化しています。
現状では、谷底の幅は250mぐらいあるので、土砂崩れが堆積してもさほど問題はないでしょう。「自然現象」として放置されるだけかもしれません。
しかしJR東海は、発生土を積み上げて川幅を50mにまでせばめる計画です。すると土砂崩れが起きた際に、盛土とあいまって川を塞ぐリスクは現状よりも増します。河道閉塞は大規模土石流につながりかねません。
また、発生土置き場対岸の斜面は、表層が崩壊しているだけでなく、それよりもっと深い部分から斜面がずれ動く「地すべり」であると判定されています。
地すべり分布図 赤石岳 より複製・加筆
黄色く塗った部分が地すべりとみなされている範囲
現行の盛土案だと、永久に流路が右岸(西側)よりに固定されることになり、洪水のたびに地すべり先端を削り続けることが予想されますが、大丈夫なのでしょうか。いまのところJR東海は、この地すべりについて言及していません。
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ところで森林法では、「地域森林計画の対象民有林」で面積1ha以上の改変行為を行う際には、都道府県知事の許可が必要になると定めています。
林地開発許可制度(林野庁のページ)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_4.html
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_4.html
これによるとJR東海が発生土置き場とすべく目論んでいる燕沢平坦地も、地域森林計画の対象となっていることが分かります。また、JR東海の公開した資料から換算すると、発生土置き場の面積は約14万㎡(14ha)に相当します。
したがって、燕沢平坦地を発生土置き場として使用するためには、静岡県知事の許可が必要になります。
以下、林野庁のホームページから引用。
今の計画では、「水害の防止」を除き、基準は満たせないのではないかという気がします。
無人地帯であることから、発電施設を除くと人命・財産への心配は少ないと思われますが、広い範囲の環境をメチャクチャにするリスクはあるといえます。
大井川の流量問題は環境影響評価手続きの延長として扱われているうえ、影響が多方面の利水関係者に及ぶことから、県中央新幹線環境保全連絡会議での主要テーマとなり、クローズアップされやすい問題であったと思われます。
これに対し発生土置き場は、どちらかというと安全面が問題となっており、そのため環境影響評価手続きの枠内では深く扱われていません。このために注目を浴びにくかったのかもしれません。
リニア計画を追っかけていらっしゃる「鉄道ジャーナリスト」の方々には、これからは発生土置き場とその周辺環境についてご注目していただきたいと思います。