大井川源流部の工事予定地 JR東海環境影響評価準備書より転載
準備書によれば、大井川源流部へは360万立方メートルの残土が掘り出されるらしい。そのうち9割をリサイクルするのが目標で、それでも余ってしまう残り1割は、7ヶ所の「発生土置き場候補地」に「適切に処理」するそうだ。
でもこの計画は矛盾だらけなのである。
まず、静岡県内で予定されている工事は、トンネル本体、斜坑、ボーリング坑といった穴を掘ることだけである。リサイクルのしようがない。
それでもリサイクル方法として、10月8日に市内で開かれた説明会では「工事施工ヤードの造成に用います」なんて話があった。けれども、その施行ヤードの面積は1万平方メートル程度であり、宿舎予定地など4ヶ所を合わせても4万平方メートルである。
残土360万立方メートルの9割は324万立方メートルである。これを締め固めると250万立方メートル程度には体積が減少するらしい。
250万㎥÷4万㎡=62.5m
厚さ60mの盛土の上に作業用地?
ありえない。
どう考えても、工事現場の整地への盛土は、厚くてせいぜい5m程度である。すると230万立方メートル(締め固めなければ約300万立方メートル)は余ってしまう。
あとは林道整備くらいしか使用方法はないけれども、準備書の中で「林道の整備は最小限にとどめる」とし、拡幅はおこなわないと断言している。この準備書の記載内容は、その前提に基づいている。林道拡幅工事を行うのなら、アセスの対象範囲が何十倍にも拡大されてしまうから、当然と言えば当然だけれども。
とはいえ南アルプス山中から外部に運び出すことも不可能である。
山を越えて西側の長野県大鹿村の場合、300万立方メートルの残土を村外に搬出することもあり、村外に出る唯一の道に毎日1700台もの大型車両が通行することになるらしい。大井川に当てはめると、静岡の平地まで90㎞ものヘアピンカーブの道(東俣林道~県道60号井川湖御幸線)を、毎日1700台ものダンプカーが通行することになってしまう。道路容量からいって物理的に不可能だし、それに合わせて拡幅工事をするとしたら、アセスの全面的なやりなおしと数年がかりの工事が必要となる。何よりダンプ公害を静岡市民に受け入れさせねばならない。
するとやっぱりこの300万立方メートル+冒頭の1割(36万立方メートル)は、行き先がない。「9割リサイクルを目標としていましたが、やはり困難でした」ということになるのだろう。
そもそも9割をリサイクル可能だと考えていたのなら、残り36万立方メートルを処分するのに7ヶ所も処分場は不要なはずである。ハナからほぼ全量を南アルプス山中に捨てることを意図していたとしか考えられない。
その証拠
上の地図で赤く囲った発生土置き場のうち、北側の候補地付近を拡大してみる。
国土地理院 地形図閲覧サービスうぉっちずより複製・加筆
地図左端の谷底(標高1500m前後)に斜坑口があり、ここから残土が掘り出される。掘り出された残土は2本の「工事用道路トンネル」というものを通って、標高2050m地点へと運ばれる。西側は長さ2500m、東側は2900mの長大トンネルである。このトンネルの北側、標高2000m地点が残土捨て場の候補地らしい。この候補地自体のムチャクチャさは次回に触れようと思う。
計5400mのトンネルを掘れば、それ自体から相当の残土が発生する。上記説明会では、ここにベルトコンベアーを敷設して残土を持ち上げると言っていたけれども、同時に大型車両も通行するし、地質条件も悪いために壁を厚くせねばならないから、その断面はかなり大きいはずである。掘削断面積は40平方メートルはあるだろう(参考:ベルトコンベア併設の九州新幹線筑紫トンネル斜坑の場合31平方メートル程度)。
掘削する容積は40㎡×5400m=216000立方メートル
これが砕かれて残土になると容積は1.8倍程度に膨れ上がることから38.8万立方メートルほどになる。これだけの残土を余計に増やしてでもその先に運ばねばならない量というものを踏まえると、最初からその何倍もの量をこの場に捨てるつもりだったとしか思えないのである。
ここに数十万立方メートルの残土を捨てるのに加え、大井川沿いにさらに6つの残土捨て場候補地があげられている。そのうち二軒小屋の南側にある燕沢合流点付近の候補地も、規模が大きそうである。これら候補地の容量を全部合わせれば、300万立方メートルぐらいにはなりそうである。
こういうことを考えると、やっぱり最初から大井川源流部に全量を捨てるつもりだったと思わざるをえないのである。
それにしても、なぜ「9割リサイクルを目指す」なんて意味不明なことを書いたのだろう?