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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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標高2000m! 天空の残土捨て場

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今回の問題はあまりにもクレイジー。
 
 
庭に穴を掘ったときに、出てきた土をわざわざ屋根に運んで積んでおく人はいないと思いますが、それを巨大な規模でおこなおうとしているのがこのリニア計画。
 

JR東海の作成した環境影響評価準備書によれば、静岡県内では南アルプス山中の7ヶ所に残土を捨てる計画になっています。
 
イメージ 1
準備書 「図4-2-1-3 水環境に係る測定位置図」 を複製・加筆
 
7ヶ所の残土捨て場のうち、6地点は大井川源流部の河原や谷底を埋め立てることが計画され、残る1ヶ所については、「標高2000mの山のてっぺん」というとんでもない場所が挙げられています(地図中太赤線で囲ったところ)
 
はじめてこの話を知ったときには思わず「じぇじぇじぇ!」と叫んでしまいました(ウソです)。
 
今回、この山のてっぺんに計画されている残土捨て場について触れます。なお、準備書では「発生土置き場」という呼び方をしていますが、実際には永久にその場に捨て置くことになるので、私は「残土捨て場」と呼びます。
 
南アルプスの最高峰は山梨県の北岳(3192m)です。そこから間ノ岳、農鳥岳と3000m級の高山を経て、南に向かう尾根が伸びています。白根三山の南側ということで、白根南嶺とも呼ばれることがあります。この稜線は山梨・静岡の県境をなし、標高2000m弱の転付峠まで下ったあと、さらに生木割、笊ヶ岳、布引山と2500m級の峰々を起こし、はるか静岡市街地の浅間神社にまで延びています。登山道が整備されておらず、訪れるひともまばらな稜線だそうです。当然、私も足を運んだことはありませんが、登山記録や植生調査などによればオオシラビソやカラマツなどの針葉樹からなる、うっそうとした森に覆われているようです。
 
この転付峠のやや北方に、標高2000m程度で、稜線の幅が広く、起伏のやや緩やかな部分があります。その昔、早川町の奈良田温泉から大井川源流部に向かう樵や猟師の道があったため、奈良田越ともよばれる場所の近くです。このような地形を山頂平坦面とよびます。山頂平坦面の成因については、隆起する前の平地の名残がそのまま持ち上げられたためだとか、あるいは山頂が重力でつぶれかけていることがあげられますが、この場については詳しい調査結果がないので、なんとも言えません(後述)。

地形図で地形を確認してみましょう。
イメージ 2
国土地理院地形図閲覧サービス うぉっちず より複製・加筆
沢Bについては後日触れます。
 
イメージ 5
環境影響評価準備書 静岡県版 関連図を複製・加筆

一帯の稜線は標高2000~2120mで、幅500m程度の、起伏の緩やかな台地状をなしています。そこを深さ50~130m程度の、緩やかで浅い谷が2本南に下り、合流して西へ曲がったところで一気に標高差400mを下って大井川に注いでいることがわかります。この沢を沢Aとしておきます。
 
この一帯が、残土捨て場に挙げられています。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
準備書を見ると、大井川支流の西俣に設けられる斜坑付近がら掘り出される残土が、ここに向かうように見受けられます。
 
残土は地下400~500m付近から標高1550mの斜坑口まで掘り出され、そこから500mほど下流側の坑口から長さ2.5㎞のトンネルに入り、いったん標高1450mの東俣(大井川本流)に出て橋で渡り、川の東岸から急勾配のトンネル(長さ2.9㎞・標高差600m)を駆け上って、山上の標高2050m地点に排出され、捨てられるとみられます。準備書によれば、この間の約6㎞は、「環境に配慮して」ダンプカーではなくベルトコンベアーによって運ぶのだとか。
 
Google Earthによる現地の航空写真(衛星画像?)に、工事関係箇所を加筆したものがこちら。
イメージ 3
南から北を見たようす
 
イメージ 6
西から東をみたようす
 
残土は大井川の谷底からは400~500mも高い、急な谷川の源流に積み上げられるわけです。「屋根の上に庭の土を捨てるようなもの」という印象を受けます。
 
残土は静岡県内には360万立方メートルが排出されると準備書に書かれています。ただしこれは砕いてほぐした量です。実際に積み上げれば締め固められて容積は小さくなるため、おそらく300万立方メートル程度に縮まると思われます。
 
わざわざトンネルを掘って残土を増やしてまで捨てに行く計画ですから、相当な量の残土を捨てるつもりなのでしょう。道路トンネルの掘削断面積を34平方メートル(※)とすると、5400mの長さでは18万立方メートル以上の残土が生じます。
 
※九州新幹線・筑紫トンネル斜坑では、同様にベルトコンベアを併設。断面積31㎡で覆工の厚さは15㎝である。地質を考慮し、覆工を30㎝と仮定すると断面積34㎡とみなした。
 
少なくとも、この18万立方メートルの何倍もの残土を捨てるはずです。
 
おそらくは、台地上を削る、沢A源流部の浅い部分を埋め立てるつもりなのでしょう。谷に残土をできるだけ多く捨てる場合、古墳のように積み上げるよりも、谷に仕切りをつくり、その上流側に捨てたほうが効率的です。というよりも、谷の規模が小さいので、そうしなければ何十万立方メートルも捨てることができません。
 
 
そこで地形図に示した通り、緑色の線の位置に壁(ダム)を築くことを考え、この谷に捨てることの可能な残土の量と、ダムの規模を予測してみました。おそらく地図に記した緑色の太線で仕切れば、ダム上流側の受け入れ容量が最大になると思われます。
 
ダムの容積(残土受け入れ容量)…90.6万立方メートル
ダムの高さ…約55m
ダムの壁の長さ…約200m
残土表面積…約46000平方メートル
残土奥行き…約375m
 
うん、これで全体の3割は処分できるぞ!
めでたし、めでたし
 
…って、そんなことを言ってる場合じゃありません!
 
まず、この壁(ダム)の規模がハンパじゃありません。
 
大井川流域でいえば、笹間川ダムよりも大規模です。こんなものが山の稜線近くに出現したら、ダム本体の存在自体が、物理的にきわめて不安定です。
 
イメージ 7
(参考)笹間川ダム 高さ46.8m、堤の長さ140.8m
Wikipediaより
 
ここの谷のように、下流が急で上流が緩やかな谷は、全体として不安定であり、上へ上へと侵食が進んでゆきます。侵食というのは、水の流れが谷を深く刻んでゆくということです。
 
侵食してゆく先に大量の残土が積んであったら…。ダム堤ごと崩れ去ってしまわないのでしょうか。
 
しかもこの沢Aは、水平距離750mで標高差390mを一気に下っています。平均勾配は0.5以上で、角度で表現すると30度近くもあります。いったん崩れだしたら、大井川本流までノンストップで崩れ去り、本流を堰き止めてしまう危険性すらあります。
 
いつかは必ず大雨や地震に見舞われます。数十年あるいはそれ以上のスパンで安全性が保たれる保証はありません。災害にまで結びつかなくとも、恒常的な土砂の流出を招き、川の濁り・荒廃を増幅させかねません。
 
さらにおそろしいのが、この山頂平坦面が地すべり起因だった場合です。
 
山が高く隆起すると、そうした状況は不安定なので、斜面を引きずり落とそうという力が働きます。その結果、稜線に並行する亀裂(小規模な正断層)が入り、谷側は崩れ始めて地すべりとなります。亀裂が入った稜線は複雑な地形となり、複数の稜線をもつ多重山稜とよばれ、その間の窪地は線状凹地とよばれます。
 
隆起の活発な南アルプス一帯にはこのような多重山稜があちこちにあり(間ノ岳、上河内岳、転付峠、山伏、七面山等が有名)、それに起因すると見られる巨大な崩壊地もあちこちにあります(大谷崩れ、ナナイタガレ、赤薙、ボッチ薙など)。
 
この残土捨て場候補地となっている、稜線上の浅い谷の成因については、詳細な調査が行われているのかどうか存じませんが、地すべり起因の線状凹地である可能性は高いとみられます。じっさい、防災科学技術研究所が作成した地すべり地形分布図には、この平坦地を地すべり地形と判定しています。
イメージ 4
 
もしそんなところに大量の残土を積み上げたら…
 
ただでさえ山肌は崩れ始めているのです。ダム堤と残土の重さを支えられず、山肌ごと崩れ去ってしまうおそれはないのでしょうか
 
そのような崩壊が起これば、数百万立方メートル規模の巨大な規模となります。無人地帯とはいえ、下流2㎞ほどの地点に登山基地(二軒小屋ロッジ)があり、人的被害が懸念されますし、長期にわたる渓流の荒廃と植生の破壊、水力発電所の破壊、ダム湖への流入、景観の荒廃を招き、前代未聞の大規模な人災および自然破壊となります。

準備書では、この山頂平坦面の成因については、一言も触れていません。先の地すべり地形分布図の存在についても言及してません。こういう危険性を認識しているのかどうかも、客観的には検証できないのです。
 
あまりにムチャクチャ・無謀な計画なので、地元の専門家グループや日本自然保護協会からは「土石流の原因をわざわざつくるようなもの」と非難されています。
 
日本自然保護協会の意見書
http://www.nacsj.or.jp/katsudo/kokuritsu/2013/11/post-22.html(問題点5)
南アルプス・ユネスコエコパーク登録検討委員会
http://www.city.shizuoka.jp/000154109.pdf(2ページ目)

こんなことを、環境省・国土交通省は認可するのでしょうか?
 
 
続きます

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