「トンネル建設により大井川の流量が2㎥/s減少する」
という予測を出たことに対し大井川流域から強い懸念が出されました、それに対し、このほどJR東海が説明会を開き、「トンネル内に湧き出した水を川に汲み上げて戻すので心配はない」と述べたそうです。
本日の静岡新聞朝刊を貼り付けます。
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ムチャだっつ-の!!
単純に考えればOKに見えますが、よく考えると多くの問題があろうかと思います。
①くみ上げるために大変なエネルギーを消費し続ける
②恒久的なものではない
③支流への対策にはならない
④エコパーク登録への障壁となる
⑤自然な川の流れを人工的な動力に変えようとする傲慢さ
①くみ上げるために大変なエネルギーを消費し続ける
②恒久的なものではない
③支流への対策にはならない
④エコパーク登録への障壁となる
⑤自然な川の流れを人工的な動力に変えようとする傲慢さ
斜坑やトンネル内に湧き出した水は、勾配にしたがって山梨県側へと流れてゆきます。詳しい説明がないので確証はありませんが、常識的に考えて、減少する2㎥/s分は、ここへと向かうはずです。それを汲み上げようというわけです。
トンネルは、斜坑口から400mほど下方を通ります。トンネルの平面位置と、トンネル断面の概略図を貼り付けます。
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トンネルの位置。斜坑トンネルの位置については詳細な説明がないので推定
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南アルプス横断トンネルの概要
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大井川流域付近での拡大図
ということは、400mの高低差を、重力に逆らってくみ上げなければなりません。しかも温泉のくみ上げ等とはくみ上げる量のケタが異なり、相当に強力なポンプが必要になります。
ちょっとお考えください。地下深くからいくつものポンプを経由して地表に湧水を上げるわけです。最後の数十mでは、地下深くから集まってきた2㎥/s近い量を一気にくみ上げねばならなくなります。
こんな感じでしょうか。
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Wikipediaより借用した、栃木県日光・華厳の滝です。さかさまにしてあります。この滝は上流の水力発電所によって流量が調整されており、通常は2㎥/s程度だそうです。
ということは、大井川に2㎥/sの水を戻すためには、この滝を逆流させなければならないわけです。ポンプを大量に設置するか、揚水発電所のような強力ものが必要になるんじゃないのでしょうか。
おそろしくムダなエネルギー消費だと思われませんか?
ただでさえ、列車の走行に莫大な電力を消費するのに、こんなところで余計にエネルギーをくう…。
しかもこのポンプは、24時間未来永劫いっときも休ませることができません。
川の規模の小さな上流部や下流部のダム直下の区間では、通常の流量が2㎥/s以下の区間があります。例えばJR東海の現地調査でも、工事予定地に近い部分で確認されています。そうした区間では、流量減少により流れが途切れてしまい、生物が根絶やしになってしまうおそれがあるからです。言わば、ポンプが大井川の心臓になるわけです。それゆえ、恒久的な対策とはいえません。
どこへくみ上げるのか分かりませんが、普通に考えれば斜坑口へとくみ上げるのでしょう。ということは、流量減少が斜坑口より上流側や小さな支流にも及んでいた場合はどうするのでしょう? 地上にもパイプを縦横にめぐらせ、中継ポンプをいくつも置き、あちこちに分配するというのでしょうか? 異様な光景でしょうね。
また、一帯はユネスコ・エコパーク(生物圏保存地域)への登録申請地域です。JR東海は、「工事をおこなうのは経済活動の認められる移行地域だから問題はない」という見解を示しています。
しかし移行地域で認められる経済活動というのは、「自然環境の保全と調和した持続可能な発展」であると、日本ユネスコ国内委員会の定めた審査基準に書かれています。http://risk.kan.ynu.ac.jp/gcoe/JapaneseBR-Criteria.txt
「ポンプが止まったら川の流れが途切れる」というのは、どう考えても「自然環境の保全と調和した持続可能な発展」と矛盾しています。
「ポンプくみ上げ方式」は、間違いなくエコパーク登録への障壁となるでしょう。
類似事例として何度も引用しますが、25年ほど前、北海道の千歳川において巨大な放水路を建設する計画が持ち上がりました。石狩川に合流して日本海に注ぐ千歳川の水を、洪水時には太平洋側に流そうという壮大な計画であり、たいへんな大工事であることから大反対運動が巻き起こりました。
その反対理由のひとつとして、放水路近傍にあるウトナイ湖と周辺湿地に与える影響があげられます。地面を掘り下げて放水路を造ると地下水位が下がり、ウトナイ湖と周辺湿地が乾燥化することが心配されたのです。
ウトナイ湖は渡り鳥の中継地点であり、また多様な動植物が分布する場所です。その自然環境の貴重さから、ラムサール条約に登録して保全しようという動きも並行して起こりました(1991年登録)。
このあたりの経緯、南アルプスにおけるリニア計画とエコパーク登録計画との関係によく似ていますね。
「地下水位が下がる」という懸念に対し、放水路建設を計画していた北海道開発局が苦し紛れに出した案が、「ポンプで地下水をくみ上げる」というものでした。
これもリニア計画と全く同じですね。
結局この案は「あまりにも不自然」という批判を浴び続け、ボツになります。
何も計画が進まないまま、洪水対策も何も行えないという妙な状況が続き、政府からも計画見直しの声が次第に高まり、最終的に放水路計画は中止となり、堤防改良や遊水地等の複合的な対策がとられることになりました。
なお、一連の詳しい経緯は、「市民が止めた!千歳川放水路計画-公共事業を変える道すじ-」という本にまとめられており、静岡市の図書館でも手にとることができます。技術的な面、環境や社会への大きな影響の避けられない巨大公共事業を、市民の手で止めたという点で画期的な出来事となりました。
http://www.gasho.net/mk/information/hosuiro_book.htm
JR東海が大井川源流で行おうとしている案は、かつて北海道においてボツになった案とよ~く似ていることを知っておいていただきたいと思います。
最後にどうしても「ポンプくみ上げ方式」の納得のいかない点。
「大河・大井川の源流はJR東海が設置したポンプ」
って、受け入れられます?
自然な水循環を切断し、ポンプという人工的な動力によってかろうじて命脈を保たせる…。あまりにも不自然です。