リニア計画について考えるうえで、いろいろと本を読んでみました。そこで、個人的に参考になると感じた本を紹介してみましたが、1冊忘れておりましたので追記します。
橋山禮次郎(2010) 『必要か、リニア新幹線』 岩波書店
リニア計画の進め方における問題点が列挙されています。過去の大型プロジェクトから、成功例としての東海道新幹線や失敗例としての東京湾横断道路やコンコルドなどを引用、対比することによりリニア計画の問題点が浮き彫りにされています。
リニア計画の進め方における問題点が列挙されています。過去の大型プロジェクトから、成功例としての東海道新幹線や失敗例としての東京湾横断道路やコンコルドなどを引用、対比することによりリニア計画の問題点が浮き彫りにされています。
タイトルは一見リニア計画とは関係なさそうですが、ぜひ一度お読みいただきたいと思います。
日本における4つの万博の歴史を、政府による大規模事業と市民との関わりという視点から眺めています。
戦後日本の高度成長を象徴する「官製超巨大お祭り」として6000万人の入場者数を数え、大成功とされた大阪万博。
その大成功の再現を狙い、折々の世相を反映させ、徐々に湧き上がる疑問の声を封じながら開催された沖縄海洋博とつくば万博。
万博というイベントに内在する多くの矛盾が一挙に露呈し、長い混乱のうちに市民参画というかたちに軟着陸させた愛知万博。その裏にはトヨタという巨大企業の戦略が見え隠れするとの指摘も。
その大成功の再現を狙い、折々の世相を反映させ、徐々に湧き上がる疑問の声を封じながら開催された沖縄海洋博とつくば万博。
万博というイベントに内在する多くの矛盾が一挙に露呈し、長い混乱のうちに市民参画というかたちに軟着陸させた愛知万博。その裏にはトヨタという巨大企業の戦略が見え隠れするとの指摘も。
戦後日本における、市民社会の成長、政策への市民参加の歴史をつづったものともいえるでしょう。
新幹線建設も、戦後日本における一大国家プロジェクトです。
大阪万博の大成功を東海道新幹線の大成功に、徐々に問題点が浮き彫りになってくる沖縄海洋博とつくば万博を整備新幹線計画に、そして市民や地方の意識とのズレから大混乱に陥った愛知万博をリニア中央新幹線に、それぞれ重ね合わせてみることができると思います。
高度成長期と変われず開発主義であった官製イベントの愛知万博は、その矛盾-テーマの形骸化、自然破壊、開発主義への疑問、国際世論の動向、国と地方との対立、地方と住民との対立-によって迷走し、次第に高まる市民の声により、市民参画という形にならざるをえませんでした。筆者は、既に日本においては大規模イベントが意味をなす時代は終焉を迎えたのかもしれないと述べています。
愛知万博の迷走は、全く同様-高度成長期の構想を引きずる開発主義、市民の声を無視、上からのお仕着せ、自然破壊-に進められているリニア計画の行く末を暗示しているように思えてなりません。
平川秀幸(2010) 『生活人新書 科学技術は誰のものか-社会の側から問い直す 』 NHK生活出版
遺伝子組み換え作物、原子力、再生医療、大型公共事業…。 科学・技術が発達することにより、人々の生活は確かに便利になりました。しかし科学・技術が発達、巨大化を続ける一方で、社会との関わりは複雑化してゆき、福島の原発事故を引き合いに出すまでもなく、もはや単純に科学の発達が人々の幸せにつながるとはいえない時代になっています。
こうした科学・技術の発達に対し、一般の人々はどのように向き合うべきなのか、誰が舵取りを担うべきなのか、海外の先進的な取り組みを多数紹介しながら述べています。
世界初の500㎞/h走行、超低温、超伝導磁石、電磁波、初めて南アルプスを横断する長大トンネル、大都市の大深度トンネル、大量の電力供給が前提…と、ほとんどの人にとっては技術的・科学的に未知の要素だらけのリニア計画。それに対して市民はどう向かい合うべきなのか。それを考える上で参考になるかと思います。
大阪万博を振り返り、当時の世相を「懐かしい未来」と評しているところが、前掲の本と重なり合います。関係ないけれども、文体が椎名誠っぽい。
畠山武道(2004) 『自然保護法講義』 北海道大学図書刊行会
少しマニアックな専門書ですが、役に立つことは間違いないと思われる本。本屋には置いていないかもしれませんが、たぶん大きな図書館にはあると思います。
公害に関連する法律の文献は平易なものから専門書まで数多くありますが、自然保護に関する法律に関するものは残念ながらほとんど見かけません。そんな中で自然保護制度を法律の面から解説している数少ない貴重な文献。
リニア計画においても法律の上では森林法(特に保安林制度)、自然公園法、自然環境保全法、環境影響評価法などがが関わってくるようです。それらについての説明がなされています。
なお本書では日本の環境アセスメントの問題として、計画段階での環境配慮がなされていないことを指摘し、戦略的環境アセスメントの導入を訴えています。しかし出版後9年を経た現在に至ってもそれが実現していないのが実情。この本の7年後に出版された下記の「環境アセスメントとは何か」でもこの点が述べられています。
原科幸彦(2011) 『岩波新書 環境アセスメントとは何か』 岩波書店
環境アセスメントについての基本的な知識を学ぶことができます。欧米ではとうの昔に導入され常識となっている戦略的環境アセスメントについての詳しい説明もあります。
リニア計画における環境アセスメントの実情は、この本で述べられている「あるべき環境アセスメントの姿」からは程遠いものと言わざるを得ません。ぜひ読んでいただきたい一冊。
日本野鳥の会 北海道自然保護協会 とりかえそう北海道の川実行委員会 編集(2003)
『市民が止めた! 千歳川放水路-公共事業を変える道筋』 北海道新聞社
市民の行動で中止された公共事業としては、規模、事業費ともにたぶん最大級と思われる北海道の千歳川放水路建設計画。突然既成事実のように現れた放水路建設計画に対して市民は何を感じたのか、なぜ多くの住民が反対の声を掲げて立ち上がっのか、なぜ中止に追い込まれたのか。運動に関わった市民やNPOの証言がまとめられています。
放水路計画の進め方とリニア計画の進め方には、相通ずるところが多いと思いますが…。
そして追記。
津田大介(2012) 『朝日新書 ウェブで政治を動かす!』 朝日新聞出版社
最近、様々な場で引っ張りだこの津田氏の著作です。
最近、様々な場で引っ張りだこの津田氏の著作です。
リニア計画に関しては、
「マスコミは推進側に都合のよいことしか報道しない」
というぼやきがあるようです。
「これは原発推進と同じ構図だ!」という声もありますが、何もリニア・原発に限らず、ありとあらゆる公共事業やお役所仕事にあてはまるようです。
「マスコミは推進側に都合のよいことしか報道しない」
というぼやきがあるようです。
「これは原発推進と同じ構図だ!」という声もありますが、何もリニア・原発に限らず、ありとあらゆる公共事業やお役所仕事にあてはまるようです。
そう感じてしまうことの多い昨今の風潮を、ソーシャルメディアを中心とする情報発信技術を駆使して変えていこうと呼びかける一冊。「ぼやく前に、ウェブを使って自分から問題点を提起しよう」というスタンスです。
静的なホームページやブログだけでなく、facebook、twitterといった双方向に情報をやり取りできるソーシャルメディアの普及により、誰もが情報発信源となりうるようになりました。原発事故後の、原発をめぐる議論において、大手マスコミの信頼低下に反してソーシャルメディアの力が大きく関わってきていると筆者は述べています。この構図はリニア計画に当てはまりうるのではないのでしょうか?
「サイバーテロ」ならぬ「サイバーデモ」
という考え方はおもしろいかも。
いっぽうリニア計画というのは、計画のスパンが30年、40年と非常に長いわけです。ですから今の青少年世代の考え方が、計画に反映されなければなりません。生まれたときからデジタル技術に囲まれたデジタルネイティブという呼び名もある世代に、どうやってリニア計画について考えてもらうか、それを考えるうえでも参考になるかと思います。
ところで、本屋や図書館に行くと鉄道関連のコーナーがあり、リニアに関する内容の書かれたものも並んでいます。しかし個人的に、そうしたところに並んでいる本はあまり参考になるようには思えません。鉄道マニアによる鉄道ファンのための出版物であるためか、資料の出所が推進者側に限定されており、推進者側の主張あるいはファンが喜びそうなことばかりが並べられ、様々な問題点は無視されていると感じてしまうからです。
本屋や図書館で目に留まった以下の本にもざっと目を通しましたが…。
川島令三(2012) 『徹底詳解 リニア中央新幹線のすべて』 廣済堂出版
村串栄一(2012) 『新幹線とリニア 半世紀の挑戦 世界に冠たる「安全神話」はどう構築されたか』中日新聞社
川島令三(2012) 『徹底詳解 リニア中央新幹線のすべて』 廣済堂出版
村串栄一(2012) 『新幹線とリニア 半世紀の挑戦 世界に冠たる「安全神話」はどう構築されたか』中日新聞社
週刊『東洋経済』や週刊『ダイヤモンド』の鉄道特集号
堀内重人(2012) 『新幹線VS航空機』 東京堂出版
いずれも、JR東海が2010年5月10日に国交省中央新幹線小委員会に提出した資料「超電導リニアによる中央新幹線の実現について」や環境影響評価方法書から計画内容をそのまま抜き出して紹介しているばかりであり、分析や周辺を取材した形成は皆無です。
例えば、いずれの本でもあっさりと「南アルプスを貫く…」なんて書いてありますが、ここを貫くと生活環境悪化、自然破壊、残土処分不可能、土砂災害リスク、緊急時の避難困難…といった問題が噴出するという現地の実情を知らないのかな?
峯崎淳(2011) 『「動く大地」の鉄道トンネル―世紀の難関「丹那」「鍋立山」を掘り抜いた魂 』 交通新聞社
南アルプス等長大トンネルの工事を考える上で参考になるかと思って読みました。プロジェクトXふうの内容。日本屈指の難工事となった北越急行鍋立山トンネルの建設にたずさわった人々の情熱には頭が下がります。そのことに自体についてはすごいことだと、素直に受け入れます。でもいっぽうで、赤字が累々と重なりつつあった国鉄末期に、難工事を20年間も続けることが果たしてよい選択だったのか、他のルートはありえなかったのか、いろいろな疑問が頭をよぎってしまいますが、それらにも解答が欲しいと感じました。
超電導リニアの技術的なあらましについて書かれた本。
もっともリニア計画に懸念を示す内容が記された本というのも、すべてが首肯できるわけでもないようです。
広瀬 隆(2012) 『集英社新書 原発ゼロ社会へ! 新エネルギー論』
原 武史(2011) 『朝日新書 震災と鉄道』
これらの本ではリニア計画を真っ向から反対しています。言いたいことは理解できますが、感情論が先走っているように感じてしまいまして、もうすこし論理的に書いていただきたいと思いました…。
そんな中で異色の2冊。
梅原淳(2011) 『角川ONEテーマ21 鉄道の未来学』 角川書店
梅原淳(2011) 『角川ONEテーマ21 鉄道の未来学』 角川書店
福井義高(2012) 『鉄道は生き残れるか-鉄道復権という幻想-』 中央経済社
鉄道ファンを喜ばすためのような(?)鉄道本が多い中、その幻想を打ち砕くかのように珍しく辛口な内容。どちらもリニア計画については経済面での課題が多いと強調。リニアだけでなく、際限もなく伸ばされ続ける整備新幹線のカラクリなども詳しく紹介されています。
最後に一冊、とんでもない本を紹介。
中央新幹線沿線学者会議(2001) 『リニア中央新幹線で日本は変わる』 PHP出版
リニア計画を進める人々が主張している「建設することの意義」の根本は、おそらくこの本にあります。
まさに御用学者の集まりとその提言。
御用学者と判断する根拠は、
①課題・問題点にいっさい触れていないから(人口減少、安全性、自然破壊、生活環境の破壊、ストロー効果…等々)
②全く住民目線に立っていないから
③疑いもなく開発志向に拠っているから
④主張にムリが多いから(エコに役立つ、災害時の迂回になる、大型公共事業費をケチるな…等々)
①課題・問題点にいっさい触れていないから(人口減少、安全性、自然破壊、生活環境の破壊、ストロー効果…等々)
②全く住民目線に立っていないから
③疑いもなく開発志向に拠っているから
④主張にムリが多いから(エコに役立つ、災害時の迂回になる、大型公共事業費をケチるな…等々)
という点によります。ちなみにこの本では諏訪湖ルートを主張。
国土交通省中央新幹線小委員会が出した答申も、ルート案以外はほぼこの本の主張を踏襲。リニア計画を推進する人々の根拠を探るという意味で役に立つ本。
なお、リニア計画に反対されているdream4everさんという方が、超伝導リニアに関する本を片っ端からお読みになってレビューを書かれています。どうぞご覧ください。