環境保全に対するJR東海の姿勢がよ~く分かるニュースがありました。
長野県大鹿村で、リニアの工事が計画されている周辺地域で絶滅のおそれの高いミゾゴイが営巣していることが指摘され、問題視されています。
以下、信濃毎日新聞の記事を一部コピー。
リニア中央新幹線計画をめぐり、JR東海は31日、県庁で開いた県環境影響評価技術委員会会合で、下伊那郡大鹿村の計画路線近くで確認されたサギ科の渡り鳥ミゾゴイ(絶滅危惧2類)について、工事着手前に生息状況を目視で調査すると明らかにした。木曽郡南木曽町が求めた作業用トンネルを2本設置する計画の見直しと、大鹿村が要請した村内全区間の路線地中化については、2027年開業目標に間に合わせる必要性などからともに難色を示した。
ミゾゴイなど希少な動植物に関する審議は、生息地保護のため非公開。JR東海は会合後の取材に、地元住民に今月聞き取り調査を行い、目撃地点を確認したところ、リニア工事用地から約600メートル以内の生息に影響が及ぶ場所ではなかった―と説明。4月にもまとめる環境影響評価書の作成までの目視調査は見送る一方、地元の懸念が根強いこともあり、大鹿村とも相談して工事着手前での実施を決めたとした。
以上、引用終わり。
すっごくおかしな話です。
ちょっと、環境影響評価の手続きをおさらいしてみます。
現地調査や各種シュミレーション等により、事業による環境への影響を予測・評価をおこない、対策を考えます。一連の作業をまとめた文書を準備書とよびます。
この準備書に対しては、一般市民からの意見、沿線市町村からの意見(知事経由)を踏まえた知事の意見が寄せられ、事業者はそれに応じて内容を書き換えることになります。リニア計画の場合、知事意見の提出期限は3月25日となっています。
準備書を書き換えたものを評価書と呼びます。
評価書については環境省による審査が行われ、その審査結果は環境大臣意見として所轄大臣(リニアの場合は国土交通大臣)に提出され、そして事業の許認可審査となります。
事業者の作成した準備書や評価書の記載内容では環境対策ができていないと判断された場合、環境影響評価法の規定に従って再調査を求められることもあります。
例えば愛知万博の際には、準備書の審査の最中に工事予定地で希少種のオオタカの営巣が見つかり、それへの影響が避けられないと判断されて事業予定地変更を求められ、さらに対策として出した別の事業予定地についても調査が不十分と判断され、結局、評価書が2度出されました。
《愛知万博における準備書改訂の流れ》
1998年3月 環境影響評価実施計画書(準備書に相当)の公表。調査計画が不十分であるとして、日本自然保護協会、日本野鳥の会、世界自然保護基金が共同意見を提出する。
1998年3月 環境影響評価実施計画書(準備書に相当)の公表。調査計画が不十分であるとして、日本自然保護協会、日本野鳥の会、世界自然保護基金が共同意見を提出する。
1999年2月 事業者である2005年日本国際博覧会協会が準備書を公表。
1999年4月30日 準備書審査の最中に事業(つまり万博会場)予定地とされた海上の森(かいしょのもり)において、希少種のオオタカの営巣が地元住民によって確認される。県と事業者も2週間後に確認。
1999年9月 新しい会場計画を協会事務局が作成。環境への影響は避けられないとする内容。
1999年10月 事業者は会場予定地を若干変更した案を代替案としてまとめ、評価書として公表する。短期間で変更したため当然調査内容は不十分であり、しかも変更内容がわずかであったため、評価書検討委員会(通産省が設置)は、オオタカ等への影響は避けられないと判断する。博覧会国際事務局も計画を批判。このため、事業者はさらなる変更を求められる。
2001年12月 事業者が修正評価書を公表。会場予定地を大幅に変更することで決着。
この愛知万博においては、海上跡地に大規模な団地を造成しようとか、裏でいろいろな思惑がうごめいていたようですが、とりあえず準備書審査によって会場変更に至った経緯のあらましはこんな感じです。
つまり、準備書の審査によって事業内容が変更することがありうるわけです。っていうか、環境影響評価は環境への影響がどのようなものか調べ、事業に反映させようとするのが目的なのですから、当然な話です。
とすると、JR東海の姿勢はあからさまにおかしい。
どういうわけか知らないけれど、すでに準備書を書き直す日程が定まっているなんて、環境影響評価の趣旨からすればありえないはずなのです。
大鹿村のミゾゴイのみならず、各地から調査や事業計画の根本的な見直しを求める声があがっています。
●水環境調査のやりなおし(山梨県富士川町、静岡県静岡市)
●残土捨て場の変更(静岡県静岡市)
●斜坑計画の見直し(静岡県静岡市、長野県南木曽町)
●動植物調査のやり直し(静岡県静岡市)
●工事用道路計画の変更(静岡県静岡市、長野県大鹿村)
●ルートの地下化(岐阜県可児市、長野県大鹿村)
●景観調査のやりなおし(静岡県静岡市)
●残土捨て場の変更(静岡県静岡市)
●斜坑計画の見直し(静岡県静岡市、長野県南木曽町)
●動植物調査のやり直し(静岡県静岡市)
●工事用道路計画の変更(静岡県静岡市、長野県大鹿村)
●ルートの地下化(岐阜県可児市、長野県大鹿村)
●景観調査のやりなおし(静岡県静岡市)
知事は、これら市町村意見を反映させて、3月25日までに、JR東海に知事意見として提出します。このような声に応えるためには環境影響評価のやり直しが必然であり、1年半はかかります。不十分とされた項目について方法書段階からやりなおさねばなりません。そして当然適切な期間をとらねばならず、ムリにやったところで愛知万博の二の舞になるだけです。
というわけで、評価書を4月に作成することは不可能なはずです。
しかし記事には「4月にもまとめる環境影響評価書の作成までの目視調査は見送る」と書かれています。すなわち再調査や事業内容の変更には応じられないことを意味しており、「市町村意見は無視する」と公言しているのと変わりありません。
実際、静岡市の場合、先日お知らせしたように、南アルプス標高2000mの地すべり真上に残土を捨てるという、あまりに非常識な計画を回避するよう求めていますが、JR東海はそれについても「今のところ計画を変更する予定はない」と答えているそうです(30日中日新聞静岡版より)。
何か、4月にまで間に合わせなければならない特別な事情でもあるのでしょうか?
「2027年開業目標に間に合わせる必要性などから難色を示した」と記事にありましたが、沿線(少なくとも静岡県)の人々がそんなスケジュールを頼んだのでも、やれと命じたわけでもありません。勝手に事業計画を立てて、一方的に調査を行い、「環境に影響が出ようともおたくらの言うことには耳を傾けることはしない」と述べているのです。こりゃあヘンですよ。
1997年に環境影響評価法が施行されて以降、いろいろ問題点がありながらも、それなりに環境影響評価の内容はマシになってきました。少なくとも1997年以前の閣議アセスとよばれた時代よりは、よくなっているようです。
ところがリニア中央新幹線の環境影響評価と、事業者であるJR東海の姿勢は、あからさまに時代錯誤です(神奈川県や山梨県の審査会でもこの声が出ている)。1997年以降の環境影響評価では、1,2を争うほどいい加減な内容ではないでしょうか。