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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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エコパーク登録のために南アルプス国立公園拡張の早期実現を!

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唐突ですが、22年前のブラジルでの話から始まります。
 
1992年、ブラジルのリオデジャネイロで国連会議が開かれました。地球規模での環境保全がテーマとなったため、通称地球サミットとよばれます。この場において、生物多様性条約の調印が開始されました。当然、日本国もこの条約を批准しています。
 
この条約には、批准国が守る原則だけが書かれており、各国は条約の原則に従って国内の制度を整備してゆくことで効力を発揮することに特徴があります。
 
以下、それを受けた流れです。
 
1993年12月21日 生物多様性条約が発効。日本政府も締結。
 
1995年 政府は同条約6条「生物の多様性の保全及び持続可能な利用を目的とする国家的な戦略若しくは計画を作成し、又は当該目的のため、既存の戦略又は目的を調整し、特にこの条約に規定する措置で当該締約国に関連するものを考慮したものになるようとする」という内容に沿って生物多様性国家戦略を作成。この中で、国立・国定公園のあり方について見直しを公表する。
 
2000年12月 生物多様性国家戦略に基づき、環境大臣より中央環境審議会に対し、「自然公園の今後のあり方について」を諮問。http://www.env.go.jp/nature/ari_kata/
 
2004年2月 マレーシアで開かれた第7回生物多様性条約締約国会議(COP7)において、保護地域作業計画が決議される。これは代表的な生態系を網羅した保護地域ネットワークの確立を目標としており、このために「2009年までに、国あるいは地域レベルのギャップ分析により抽出された保護地域を選定する」という目標が掲げられる。
 
2007年11月 環境省は、保護地域作業計画(2004年決議)に基づき、第3次生物多様性国家戦略において、国立・国定公の総点検をおこなうとし、これより作業が開始される。生物多様性の保全上重要な地域と保護地域とのギャップの分析が中心作業となる。これは2004年のCOP7で掲げられた国際目標実現に向けた行動でもある。
 
2010年10月4日 環境省は国立・国定公園総点検事業の結果、10年以内を目標として南アルプス国立公園などの区域拡張や、新たな国立・国定公園設置をおこなう方針を決定。http://www.env.go.jp/park/topics/review.html(環境省)
この発表では、南アルプス地域について、次のような評価が与えられている。上の環境省発表より、一部を複製して添付する。詳しくはリンク先をご覧いただきたい。
イメージ 1
以上のように様々な観点から、国内の生物多様性保全のために重要な地域を探し出し、そのうち、既存の制度による保護のなされていない地域を抽出し、今後の国立・国定公園の拡張候補地としたのである。
 
イメージ 3
 
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このように政府として、南アルプス一帯の自然環境は国内でも突出して優れていると判断したわけである。
 
同年10月下旬 以上の国立・国定公園の新規指定・拡張方針の決定が、名古屋市で開催された第10回生物多様性条約取締役国会議{通称COP10)にて報告される。つまり、国際目標を実行したことの報告でもある。
 COP10では2020年に向けて20の行動目標がまとめられている(愛知ターゲット)。そのうち目標11では
生物多様性と生態系サービスにとって重要な地域を中心に、陸域および内陸水域の少なくとも17%、沿岸域および海域の少なくとも10%を、効果的な保護区制度などにより保全する。
http://www.wwf.or.jp/activities/2012/07/1076623.html(WWFジャパン)
という項目があり、国立・国定公園の拡張を実行に移すことは、愛知ターゲットの実現という意味合いをもつ。
 
2013年8月 国内で31番目となる慶良間国立公園の設置が決まったが、これも国立・国定公園総点検事業の結果を受けたものである。
 
つまり、生物多様性の保存に向けた国際的取り組みの一環として、南アルプス国立公園区域を拡張する方針が打ち出されていたのです。

唐突に、なぜこんな話を持ち出したかというと、エコパーク登録を推進するためには欠かせない政策だと思うからなのです
 

ご存知のとおり、現在、南アルプスをユネスコ・エコパークに登録しようという運動があり、今年6月にもその可否が明らかになります。
 
詳しくはこちらにまとめてあります。
 
注意していただきたいのですが、エコパークに登録することで自然保護が行われるのではありません。逆に、自然保護計画がきちんと整備されている場所が、エコパークとして国際的な自然保護地域と認められるのです
 
したがってエコパークに登録するためには、、法律などの規制によって自然環境を保全し、乱開発を制限することが求められます。登録後も10年おきに審査が行われますので、長期的な管理体制が整っていなければなりません。また、保護の中心となる地域が適切に管理されるよう、それを包み込む広範な範囲を保護せねばなりません。http://risk.kan.ynu.ac.jp/gcoe/J-BRNet.html(日本ユネスコ国内委員会MAB計画分科会)
 
ところが南アルプスは、まさに日本を代表する山岳地域でありながら、国立公園等の保護区域が異常に狭いという状況にあります。ちなみに日本列島にある標高2500m以上の山々のうち、何も保全対象になっていないのは、南アルプス南部の静岡県側(蝙蝠岳、徳右衛門岳、笊ヶ岳・布引山など)だけです。
イメージ 4
これは半世紀前、南アルプスが国立公園に制定される際、大井川流域の広大な山林が林業の施行対象(静岡市/東海パルプ、本川根町/林野庁)となっており、伐採に規制がかかることから交渉がうまくゆかなかったただめだそうです。
 
国立公園区域が狭いのを補完するかのように、
 
大井川源流原生自然環境保全地域(自然環境保全法)
南アルプス光岳森林生態系保護地域(林野庁の保護林)
南アルプス巨摩県立自然公園(山梨県条例)
早川渓谷自然環境保全地域(山梨県条例)
笊ヶ岳自然環境保全地域(山梨県条例)
奥大井県立自然公園(静岡県条例)
 
という保護地域が設けられていますが、いずれも稜線や渓流沿いの狭い帯状範囲が飛び地状に指定されるのにとどまり、広範囲の環境保全を保障するものではありません。

国内推薦するにあたり、どのような検討がなされたのかは不明ですが、少なくとも現状では、適切な自然保護体制が取られているのは南アルプスの一部地域に限られており、地域全体としては、あるいは長期的に見ても環境保全の保障が十分になされていないといえます。これは、登録に際しては不利な条件でしょう。
 
国内でのエコパーク登録事例については不勉強なのでよく分かりませんが、世界自然遺産の例では、保全管理計画を大幅に強化することを、毎回、登録条件とされています。例えば白神山地の場合、登録地域を1.7倍に拡張することを求められ、そのために森林生態系保護地域を大幅に拡張することで決着をみました。
 
(注)森林生態系保護地域は林野庁の保護林であり、国民の利用も目的とした国立公園とは異なり、一般人の立ち入りは禁止となっている。このため地元住民から大きな不満が出て、問題となっている。
 
したがって、南アルプスの長期的かつ有効な環境保全措置として、国立公園地域を拡張し、自然公園法による網をかぶせて守ることが一番有効だと思いますす。国策として南アルプス全体の環境保全を計画しているのですから、願ってもないことです。

国立公園特別地域に指定されますと、開発には規制がかかります。とはいえがんじがらめになるのではなく、基本的に規制の対象とされるのはムチャクチャな乱開発です。林業が全面的に禁止されるわけでも、渓流釣り/狩猟/山菜採りが禁止されるわけでもありません(もちろん、地域を限って禁止することは法的に可能)
 
国立公園区域制定の交渉に失敗してから50年、もはや天然林を乱伐するような需要のある時代ではありません。地権者としても、国立公園に制定されたところで、とりたてて困るようなことはないと思います。富士山麓や箱根や阿蘇のように、ふつうに人の生活だって認められていますし、尾瀬ヶ原のように、私有地でありながら国立公園で最も規制の厳しい特別保護地域に指定されているような場所も数多くあります(尾瀬ヶ原は東京電力の土地)。紀伊半島の吉野熊野国立公園のように、登録地の民有林でふつうに林業が営まれている例もあります。

自然保護団体などからは、「日本の自然公園法の規制はザル」と酷評されていますが、それでも何もないよりははるかにマシです。
 
もし仮に…
あちこちにトンネルを開けたり、
残土を標高2000mの場所に積み上げたり、
大規模に谷底を埋め立てたり、
トンネル工事で川の流量を減少させたり、
希少な植物を重機や残土で踏み潰したり、
林道をダンプカーで占拠して国立公園利用者を締め出したり、
大騒音を出したり

するようなムチャクチャな計画が持ち上がっても、それぞれの行為に対し、その都度、自然公園法に基づく審査が必要となり、基準を満たしていないものは却下できます。要するに、エコパーク登録で求められる、長期的で確実な自然保護制度となるわけです。
 
もっとも、日本を代表する自然景観を有する山岳地域において、そんな荒唐無稽な計画を立てているなんて馬鹿な話があるわけないと思いますが。
 
 
エコパーク登録を確実なものにするためにも、国立公園指定を急ぐべきだと思います。
 
 
 
 
(追記)
愛知でCOP10の開かれている最中の10月20日 国土交通省のとある委員会が、南アルプスをぶち抜く某トンネル構想について自然環境面から審議。審議のマネをしただけで、何も話し合いはもたれないのに「環境面からルートの選定はできない」という結論が出される。
 
そして同年12月15日、同小委員会は南アルプスにトンネルを掘っても構わないとする内容の中間取りまとめ案を公表する。以上のような、南アルプス国立公園拡張計画に関する審議は全く行われていない。
 
環境省が諮問した専門家審議会が3年間にわたって審議を続け、その結果として「南アルプス一帯はわが国において突出した景観を生態系を有するため、その国立公園指定区域を拡張すべきである」と結論付けたが、中央新幹線小委員会は10分程度(たぶん)のムダ話で「他の場所と比べて優れているかどうか分からないから、べつにトンネル掘っても構わないよね」という結論に至っている。詳しくはこちらを参照していただきたい。http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/chuuoushinkansen-environmental-shingi.html
 
トンネル計画と南アルプスエコパーク構想との関係
イメージ 5
 

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