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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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手抜きアセスが可能なのは運輸省令に基づいている?

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加筆を加えてどんどん長くなってゆきますが、どうぞご容赦ください。
 
土曜日は大雨(静岡は雨です)と強風に見舞われ、一日中ひきこもって環境影響評価制度について調べておりました。というわけでいろいろな疑問が次々湧いてきて、一度にまとまらないので、小出しにしている次第です。今回、「⑤環境大臣意見は運輸省の意向?」を書き加えました。
 
朝日新聞の記事(?)には「詳細データの開示を求めても応じないJR東海の姿勢に「これでは評価もできない」と委員たちは戸惑い、怒る。JR東海よ、これでいいのか? 」とありますが、JR東海だけが悪いのではありません。旧運輸省、それを引き継いだ国土交通省、手をこまねいていた環境省、そして国会議員、知らなかった国民、みーんな悪いんです。たぶん。
 
 
①配慮書に対する環境大臣意見
環境省は2011年7月15日、中央新幹線計画段階環境影響評価配慮書に対する環境大臣意見を提出しました。
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=17908&hou_id=14026(PDFファイル)
この意見は、環境影響評価(アセス)の第一歩として、国が最初に出した意見となります。
 
 
この意見では、列車の走行する軌道以外の施設(付帯施設)については、「評価書作成までの間に位置等を明らかにすることが困難な場合は環境保全措置を評価書に記載し、事後調査を行う必要がある」と述べています。事後調査とは、着工後に、評価書に示した保全措置が適切になされて環境に著しい影響を与えていないか確認するだけのことであり、これを行うことを約束すれば、付帯施設に関しての環境影響評価手続は自動的に終了することになります。
 
つまり、事業認可までに行われる環境影響評価手続においては、「位置等を明らかにすることが困難な場合」という条件をつければ、付帯施設の位置・規模・構造を明らかにする必要も、その建設工事や存在による環境への影響を調査・予測・評価する必要もないということになります。
 
環境大臣意見でいう付帯施設とは、橋梁、トンネル、斜坑、縦坑、工事用道路、施行ヤード、残土捨て場、変電所、保守基地など、軌道以外に建設する、ありとあらゆるものが含まれています。大臣意見を忠実に解釈すれば、後述するように、これらについてどんなに準備書・評価書の記載内容に不足・不備があっても、認可することとなります。
 
②環境大臣意見のもたらす混乱
準備書についての各地の審議会議事録を見てみると、具体的な環境保全措置や工事計画をたずねられた際に、JR東海側の出席者から「それは事業を進めながら考えてゆきたい」と回答し、出席委員から「これでは審議しようがない」と不満が洩れる場面が目に付きます。事業による環境への影響を審査するための資料が準備書なのであり、その記載内容が不足しているのですから、至極当然な主張です。また、準備書の説明会においても、住民からの質問に対して同様の回答をする場面が目立っています。
 
このようなJR東海の姿勢に批判が高まっていますが、環境大臣意見に照らし合わせてみれば、合点がゆきます。環境大臣がそれでOKと言っているのです。情報を出さないJR東海の姿勢は、論理的にも社会通念上としても好ましくありませんが、論理的には間違っていません。むしろ、アセス不要とされた斜坑や一部残土捨て場の情報を出したことは、ほめられるべきと見なすこともできます(内容は問題だらけなのですが)。

③条例でも対応できない?
付帯施設について、環境大臣意見で「許認可審査にアセスは不要」とはいっても、その工事や存在が環境に与える影響は甚大です。付帯施設がなければ軌道は造れないわけですし、おそらく軌道の出現よりも大きな影響を及ぼすことでしょう。こんなのが無視されていいわけありません。
 
例えば残土捨て場の建設は、法律に基づくアセス対象事業ではありませんが、一定規模以上になれば、都や県条例に基づくアセス対象となります。リニアの残土捨て場は、残土発生量からみて条例アセス対象となる可能性があります。
 
というわけで、環境大臣意見が骨抜きならば条例で対応できるのでは?と思いましたが、そうもいかないようです。
 
環境影響評価法には次のような条文があり、同法を条例との関係を規定しています。
 
(条例との関係)
第六十一条  この法律の規定は、地方公共団体が次に掲げる事項に関し条例で必要な規定を定めることを妨げるものではない。
一  第二種事業及び対象事業以外の事業に係る環境影響評価その他の手続に関する事項
二  第二種事業又は対象事業に係る環境影響評価についての当該地方公共団体における手続に関する事項(この法律の規定に反しないものに限る。)
 
何のことだかさっぱりわからない文章ですが、環境省はこの条文について、公式に次のように解説しているそうです。
 
『法律によるアセスメントが実施される事業について、条例で「環境影響評価に関する一連の手続」を定め、法律によるアセスと条例に基づくアセスの両方の実施を義務付けことはできない』
畠山武道「自然保護法講義」北海道大学出版会p.293より
 
つまり、環境影響評価法に従ってアセスを行う事業に対し、条例によって追加的にアセスを行わせるのは違法であり、できないということです。

④残土処分計画がメチャクチャでもリニア計画は認可されるらしい
いろいろ調べていて初めて知ったのですが、鉄道事業法には、事業認可の審査の際に、環境配慮を義務付けていません。そのかわりに、環境影響評価法三十三条一号の規定が、その役割を果たしているそうです。

(免許等に係る環境の保全の配慮についての審査等)
第三十三条  対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。
2  前項の場合においては、次の各号に掲げる当該免許等(次項に規定するものを除く。)の区分に応じ、当該各号に定めるところによる。
一  一定の基準に該当している場合には免許等を行うものとする旨の法律の規定であって政令で定めるものに係る免許等 当該免許等を行う者は、当該免許等に係る当該規定にかかわらず、当該規定に定める当該基準に関する審査と前項の規定による環境の保全に関する審査の結果を併せて判断するものとし、当該基準に該当している場合であっても、当該判断に基づき、当該免許等を拒否する処分を行い、又は当該免許等に必要な条件を付することができるものとする。
 
これまた意味不明な文章ですが、公害関連の法律書を読みますと、この規定が存在することにより、「環境大臣・国土交通大臣が環境影響評価書の内容を審査し、適切な環境配慮がなされていると判断すれば、当該鉄道事業計画は、環境配慮の面においては、審査をクリアできる」という意味合いを持つそうです。
北村喜宣(2013)『環境法 第2版』弘文堂より
 
この部分、非常に重要ですので、よくご理解ください。評価書がリニア計画の許認可審査に必要な文書なのです。

その評価書に記載すべき内容について、環境省はアセスの開始と同時に、「付帯施設(つまりほとんどすべての施設)についての事前の調査・予測・評価・住民への情報提供・自治体での審議は、評価書作成までにできなければしょうがない。事後調査でOK」と言っちゃったのです。
 
ですから、評価書作成までに事前の調査・予測・評価・住民への情報提供・自治体での審議(つまり通常のマトモなアセス)は不要と言い切っていると解釈が可能なのです。
 
ということは、付帯施設(ほとんどすべての施設)については、評価書審査=事業認可審査の際に、国は不問に付すということになります。
 
 
⑤南アルプスをメチャクチャにすることが分かってても事業認可?
以上のように、付帯施設について様々な懸念があっても、それは付帯施設の問題である限り、事業認可の審査には直接的に関係がないと解釈できるのです。
 
それゆえ…
標高2000mに残土を運び上げようと
あるいは残土処分について何も考えていなくても、
斜坑をやたらに掘って川を枯らす懸念があっても、
斜坑や残土処分について住民の質問に答えなくても、
自治体審議会に全く情報を出さなくとも、
残土にウランが含まれていようとも
工事用道路が地すべり地帯に造られようと
工事用道路や残土処分場が動植物の生息地を破壊しようと
 
評価書審査=許認可審査では基本的に問われないと思われます。環境大臣がそう言っちゃったのです。
 
ちょっと静岡県での地上工事を考えてみます。
 
静岡県つまり南アルプス山中には、
2本の斜坑(合計6600m)
2本の工事用道路(合計8800m?)
残土捨て場7ヶ所(計360万立方メートル?)
作業員宿舎2ヶ所(計700人)
工事施行ヤード2ヶ所
が設けられる計画になっています。
 
これらは環境大臣意見に従えば、いずれも”付帯施設”です
 
それゆえ、これらの工事にどれほど強い懸念を地元が訴えたところで、すでに環境省は事業認可の判断材料にしないことを宣言したことになっているとみられるのです。
 
⑥環境大臣意見は運輸省令に従ったまで?
なぜ環境大臣意見が、環境影響評価(以下アセス)をこれほど骨抜きにしているのだろうと思ったのですが、調べてゆくうちに「主務省令」というものに行き当たりました。
 
こんなことを知ったところで、何か事態が改善するわけもないのですが・・・。
 
1997年(平成9年)に環境影響評価法が交付され、1999年から全面施行されました。その間に作成された主務省令というのが、キーワードになっているようです。
 
環境影響評価法には次のような条文があります。
(環境影響評価の項目等の選定)
第十一条  事業者は、・・・(中略)・・・事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより、対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法を選定しなければならない
ここに主務省令という言葉があります。これは、アセスを行うための標準的な手法を、それぞれの事業分野ごとに、所轄行政機関が定めたものです。
 
リニア計画の場合は鉄道建設事業ですので、国土交通省が所轄官庁となります。ただし、これが定められたのは平成10年なので、運輸省令という呼び方になっています。正式には
『鉄道の建設及び改良の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令
(平成十年六月十二日運輸省令第三十五号)』
という、バカみたいに長ったらしい名前がついています。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10F03901000035.html
 
行政関係では「技術指針等を定める主務省令(鉄道)」とよばれているようです。面倒なので主務省令/鉄道で通します

で、その主務省令/鉄道には、環境に影響を与える要因となるモノ(影響要因)と、影響を受けるために調査・予測・評価対象とすべきモノ(影響要素)とが一覧表にまとめられています。リニア計画において、JR東海が行っているアセス項目も、この一覧表にしたがって行われています。
イメージ 1
一覧表には、影響要因として
鉄道施設(地表式又は掘割式)の存在
鉄道施設
(嵩上式)の存在
列車の走行(地下を走行する場合を除く)
列車の走行(地下を走行する場合に限る)
の4種が挙げられています。ここでいう「鉄道施設」という言葉が、本質的な問題を含んでいると思います。
 
「鉄道施設」という言葉については、主務省令では定義がありません(たぶん)。しかし鉄道建設について定めた鉄道事業法の施行規則で、事業認可の際に図面等が必要となる「鉄道施設」が列挙されており、それのことを指しているのだと思われます。
 
「鉄道施設」について鉄道事業法施行規則から拾い上げますと
一 鉄道線路
 (一般、土工、土留擁壁、橋りょう、トンネル及び落石覆い設備、踏切道、軌道)
ニ 停車場
 (駅、信号場、操車場)
三 車庫及び車両検査修繕施設
 (車庫、車両検査修繕施設)
四 運転保安設備
 (信号保安設備、保安通信設備、踏切保安設備)
五 変電所等設備
 (変電所、配電所、開閉所、巻上所、リニアモーター式普通鉄道の動力発生装置の地上設備、浮上式鉄道の浮上設備、アンナ相装置の地上設備及び動力発生装置の地上設備)
六 電路設備
( 送電線路、配電線路及びき電線路、電車線路)
となっています。
 
基本的にアセスに関連するようなのは一~三でしょう。
 
詳しくは一覧表に「鉄道施設」の一覧があるので、これを眺めていただければ分かりますが、トンネルという言葉はあるものの、長大トンネルを掘るために必要な作業用トンネル(斜坑、横坑、縦坑)については挙げていません。鉄道事業法ですから当然といえば当然ですが、トンネルから出た残土の処分場とか、工事作業員宿舎とか工事用道路といったものも、「鉄道施設」には含まれていません。
 
ということは、主務省令/鉄道でアセス対象の「影響要因」としている「鉄道施設」には、各種作業用トンネル、残土捨て場、工事用道路などは基本的に含まれておらず、アセス対象としなくても構わないという解釈が成り立ちます。
 
それからこの主務省令/鉄道には、影響要素ごとに評価手法が掲げられています。残土については「建設工事に伴う副産物」という扱いであり、予測の標準的な手法としては、「建設工事に伴う副産物の種類ごとの発生の状況の把握」としか書かれていません。よって、大量の残土をどういうふうに処分すべきか調査せよというところまでは言及していないのです。

冒頭に記したとおり、環境大臣意見で「付帯施設については、評価書作成までに位置等が決まらない場合は必要な調査を後で行うことを約束すればよい」としたことには、この主務省令が背景にあったのではないのでしょうか
 
主務省つまり旧運輸省が、鉄道建設事業においてアセス対象とすべきと選んだのは、あくまで鉄道の走行に関連した部分でした。そのように運輸省が決めた以上、環境省は口出しできないのでしょう。
 
JR東海も環境省も、マニュアル通りにやっているわけです。現在の状況にいろいろ問題がありますが、法的にはおそらく問題ありません。付帯施設にまつわる諸問題は、事業認可の際には取り扱われないのでしょう。
 
 それにしても、この運輸省令はリニア計画に対応できていないと思う。特に残土の扱いである。運輸省令を制定した頃、国内で大量の残土が出るような鉄道建設といえば、地下鉄や上越新幹線であった。前者はそのまま臨海部の埋め立て工事に、後者は周囲の国道・在来線を使うなどして適切な処理が可能であった。ところが、リニアはそうはいかない。想定外なのであろう。
 
⑦というわけで・・・。
環境大臣意見では「位置を明らかにするのが困難な場合」としています。というのがまた問題で、おそらくは構造、規模など多様な意味を含んでいるのでしょう。また、「事後調査」を「着工後に適切に対応していきたい」と同義とすると、次のようなやりとりが想定できます。
 
どこに残土捨て場を設けるのか。それが分からねば審議ができない。
 →「位置等を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
残土処分場の構造が全く分からないのでどのような影響が出るのか分からない
 →「位置等を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
宿舎からの排水対策が不明である
 →「現段階で構造を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
残土捨て場からの流出対策を知りたい。
 →「現段階で構造を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
斜坑や残土処分場が景観に与える影響を調べるべき
 →「現段階で構造を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
こんなのを含めて残土処分計画を根本的に見直してほしい
イメージ 2
 →「現段階で詳細な計画を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
 
おおっ、まさに審議会や説明会でのやりとりそのもの!

つまり、審議会や説明会でのJR東海の対応がおかしいのも、国が定めたマニュアル通りにやっているからなのです。
⑧結論
ここ数日の間に生じた疑念。
●リニア建設計画の環境配慮面での審査は、環境影響評価書によって行われる。
●環境影響評価書で取り扱うべき内容は、旧運輸省が作成した「技術指針等を定くめる主務省令(鉄道)」によって定められている。
●主務省令(鉄道)でアセス対象にすべきとされているのは、鉄道の運行に必要な設備だけであり、残土処分場や作業用道路、作業用トンネルなど付帯施設は含まれていない
●したがって、付帯施設は基本的にアセス対象にする必要がない
●ゆえに、付帯施設について事後調査としろというのが、環境省の精一杯の姿勢である。
●だから、付帯施設の建設によって南アルプスでムチャクチャな残土処分を行おうと、残土処分方法が決まっていなくても、事業認可には直接関係がない。
●だからといって、県条例によってアセスを行わせることもできない。
 
最近あちこちでリニア計画のアセスがひどいという声があがってきたのは、たぶん、こんなところが背景にあるのだろうと思います。
 

 
 

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